エルドランド双王記〜王女と剣士と、王冠のゆくえ〜

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第10話 ヴェールの影

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馬車は一路北へと向かう。
数日後、ゴブリン城跡の遺跡に馬車が差し掛かった。
「ここは、ヴェールの影の根城よね。遠回りした方が良いんじゃない?」
アンヌが言う。
「いや、時は一刻を争う。ここは突っ切ろう。」
ゴラムが言うと、ミカとキャスも頷いた。

アンヌの心配通り、馬車の周囲は、無数の人影に取り囲まれているようだ。
ゴラムたちは、いつでも戦闘に入れる準備をして、遺跡に足を踏み入れた。

しばらく進むと、馬車の前を黒い影が横切った。
ヒヒーン!
馬が驚いて止まってしまった。
「おい!動け!」
ゴラムが鞭を入れてもびくともしない。
シュー!バシュッ!
今度は矢が飛んできた。
ゴラムたちは馬車の中に身を隠す。
シュー!シュー!バシュッ!バシュッ!
矢が雨のように降ってくる。
「防御せよ!バリア!」
ミカの防御魔法で攻撃をやり過ごす。
そして、矢の雨がおさまったと思った次の瞬間。
あっという間に黒いヴェールの集団に馬車を取り囲まれた。
胸には赤い花を挿している。王国転覆派だ。
「ゴラムさん、また会いましたね。」
「お前は、ザハーク!」
「私の名前を覚えていただき、光栄です。今回は、お命をいただきに参りました。」
「俺は簡単には死なないぞ。」
ゴラムが剣を構える。
「この状況で、そんな強がりを言うとは、流石、偉大なる戦士。しかし、無謀ですね。」
「無謀かどうかは、やってみてからだ。」
そういうと、ゴラムとキャス、そして、サウザン王子が馬車から飛び出した。
「僕も戦うよ!」
「サウザン王子!ありがとう!」
イヤーッ!ドン!
キャスが一遍に数人をなぎ倒していく。
シャキン!ズバッ!バシッ!
ゴラムが素早い剣さばきで敵を切り捨てていく。
ザシュッ!スバッ!
サウザン王子は短剣と細身の長剣の二刀流で敵を蹴散らしていく。
「なかなか、やりますね。あなた方を過小評価していたようです。こちらも本気で行かせていただきますよ。」
ザハークは、そういうと剣を抜き、構えた。
その時だった。
「ザハーク!ここまでよ!」
今度は白い花を胸に刺した黒いヴェールの集団が現れた。王国復活派だ。
「エリーゼ!邪魔をしないでいただきたい!」
ザハークの視線の先には、エリーゼがいた。
ゴラムたちは転覆派の一団に囲まれていて身動きが取れない。
「ザハーク。ここで決着をつけましょう。」
「望むところです。」
ザハークとエリーゼの一騎打ちが始まる。
ゴラムたちは、復活派の力を借り、優勢に戦いを進めている。

シャキーンッ!ガシッ!キンッ!
ザハークとエリーゼの激しいつばぜり合いが続く。
実力はほぼ互角だ。
「ぐっ!やるな、ザハーク!」
「やりますね、エリーゼ!」
激しい攻防が続いている。

一方、ゴラムたちは、転覆派を完全に制圧していた。
「よし。俺たちの勝ちだ!」

それを見たザハークは、エリーゼと距離を置いた。
「この勝負、一旦、お預けとしましょう!」
「まて!ザハーク!」
「首都エルドでお待ちしてますよ!では!」
ザハークは、そういうと消えてしまった。
「また、逃げられたか。。。」
ゴラムがつぶやく。

「私たちは、引き続きゴラム様を陰からお守りします。」
エリーゼはそういうと、他のメンバーの共に森の中に消えていった。

ゴラムたちは、しばらく休んだ後、再び北へと向かって進みだした。

ミルド村に再び立ち寄ると、
ゴラムたちの馬車にケンタが駆け寄ってきた。
「ゴラム!あの痣のことが分かったよ!」
「本当か?」
ゴラムがケンタに向かって叫ぶ。
ケンタの家の前に馬車を停めて、
ゴラム達は馬車を降りた。

ケンタの家にゴラムたちが入ると、2階からケンタが分厚い本を持って降りてきた。
ドサッとテーブルの真ん中に本を置いて、いきなり話し出した。
「この本は、エルドランドの歴史について書いてある本なんだ。特に、2人の王様がこの国を治めていた時代のことが書いてある。」
「双王制の時代か。」
ゴラムが椅子に座りながら話す。アンヌたちも椅子に座った。
ケンタが続ける。
「双王制。人間の王とゴブリンの王が協力してエルドランドを治めていた時代。その時代の末期に、王政に反対する勢力が現れた。血筋ではなく、本当の強者が国を治めるべきという思想を持った集団【ヴェールの影】だ。彼らは、手始めにゴブリン王の城を襲い、一族を滅ぼした。」
「ヴェールの影がゴブリン王の一族を・・・。」
アンヌが絶句する。
「その時、ゴブリン王の一人息子である赤ん坊が、従者と共に行方不明になっているんだ。その赤ん坊の左腕には痣があった。2人の王が向き合う絵の双王の紋章だ。それがゴラムの腕の痣の正体。つまり、ゴラムは王家の直接の血を引く、王位継承者なんだ。」
「もう、間違いないな。俺の過去にそんなことがあったとはな。」
ゴラムが考えながらつぶやく。
「ゴブリン王の家系は途絶え、エルドランドは人間の王が治める国になった。ヴェールの影は、王政復活派が台頭して、2つに分裂した状態になって弱体化した。そして、今に至るということだ。」
「なるほど。エリーゼたちは、ゴラムに王位を次いでもらって双王制を復活させたい。ザハークたちは、今のエルドランド王の一族も滅ぼして、新しい国を作りたい。ということね。」
キャスが言う。
「人間というのは、やっかいな生き物じゃのう。」
ミカがつぶやく。
「僕は、どちらが正しいかはわからない。最後に決めるのは、ゴラムとアンヌだ。それは間違いないと思う。」
ケンタがそういうと、ゴラムもアンヌも黙ってしまった。
「ザハークは、首都エルドで会おうといっていた。ということは、エルドランド王の身が危ないのではないか?」
ミカが言う。
「そうだわ。お父様が危ない。早く知らせないと!」
アンヌの声に焦りを感じる。
「よし、
エルドに急ごう。ケンタ、ありがとう。助かったよ。」
ゴラムがそういうと立ち上がった。
「みんな、気を付けて。絶対死んだりするなよ。」
ケンタが心配そうに言う。
「もちろんだ!ケンタ、行ってくる。」
ゴラムがそういうと、馬車に乗り込み、エルドに向かい出発した。

ケンタとリリアは、心配そうにゴラムたちの乗る馬車を見送った。




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