僕たちの世界線

霜咲

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小さな命の芽生え

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「いつかまた…」そんな声が聞こえた。その続きは聞き取れなかったが美しい声に私の最期を見届けられ鼓動の終わりを迎えた。

 私の最初の記憶は白く柔らかなものだった。小さな私の手を握る冷たく大きな手の記憶。不確かな記憶のなか確かなのはその手の人の顔が霞んで見えないことだけ。大きな手の人は何かを開けたり閉めたりしている。小さな手の私にはそれが何をしているのか分からずまた疑問を声に出すこともできずにいた。

 年が明け少しの暖かさを小さな鳥が運んできた頃、私は音が聞こえるようになった。大きな手の人が沢山いて、「…ぞうがわるい。…うよでは…い。」断片的な音が聞こえた。何か分からないが小さな手の私がふと笑みを浮かべると大きな手の人たちは皆霞んだ顔から雫を垂らした。そして少ししたらまた音が聞こえ出す。こんな時間が半開きの窓の隙間風とともに流れた。
 不思議な物から冷たい風が出る季節になった。小さな手の私は大きな手の人に「あなたのためなの…」そんな音とともに線をつけられた。よくわからないが笑ってみた。暖かな匂いがする大きな手の人から雫が一滴垂れた。大きな手で頭を撫でられ悪い気はしなかった。

 小さな鳥が少しばかり大きくなり柿の実がそこら中になる季節になった。「もってあとよっかです」そんな音が聞こえた。大きな手の人の開いたり閉じたりする所から「キミにはコエがキこえてるかい?」という音が聞こえた。私が笑うと大きな手の人たちも笑ってくれることがわかった。だからよく分からない音でも精一杯に笑うようにした。大きな手の人の霞んだ顔と空模様が少しだけ晴れた気がした。

 渡り鳥がいなくなる季節になった。機械からの暖かな風と私の背丈より高いものからの「ピッ…ピッ…」という音が聴こえる小さな籠の中。手の小さな私の身体から線が外された。「よく耐えたね。こんな小さな身体で…」「またいつか…」手の小さな私は、たくさんの手の大きな大人に見られながら精一杯の笑顔とともに暖かな季節を待つ小さな白い鳥になった。
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