僕たちの世界線

霜咲

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白い鳥の夢

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「ねぇあの鳥すごく綺麗じゃない?」

「本当だ。真っ白な羽にくりっとした目。でもあれってカラスじゃないのかな?」

「あれだ!アルビノ…?とかいうやつ!」

「アルビノは長生きできない、そんな話知らない?たしか昔の作り話だったけど…」

「…ねぇ、あの白い鳥。 私たちの子供みたいじゃない?小さくて、真っ白で、他の子と同じように必死に今を生きようとしてる」

「でもあの子はきっとこの先何年もかけて大きくなっていって、白い翼を羽ばたかせて大空を舞うことが出来るんだろうね。僕たちは一つの小さな命すら助けられない。でもあの子の親はたくさんの命を守り続けてる。僕らよりよっぽど凄いことしてる鳥なのかもね。」

「私たちはできる限りの努力した!だけど助からなかった!!先天性の病でしょう?!自暴自棄にならないでよ!!私だって…3ヶ月で立ち直れるわけないじゃない…」

「わかってる、ごめん。少し外に行ってくる。タバコ切らしちゃった…」

足音が離れていく。まるであの子の鼓動のように小さくなって最後には聞こえなくなった。ドアが閉じる音がした。

「あの子が助からなかった時から煙草もお酒も辞めたじゃない…嘘つき」





僕は今、小さな鳥の「生涯」という名の物語がこの先何年もかけて書き続けられて辛いことや悲しいことだけじゃなく嬉しいことや感動することが記され続けるのかとか、
小さな命がやがて大きくなり、つがいを作り、また小さな命が芽生えていくのかとか、
あの子がもし生きていたら…なんてまた夢のようなことを考えたりした。

幸せの定義は人によって違うのだろう。
多くを求める人の幸せとは「まだ足りない、もっと欲しい」

でも僕の望みはほんの小さなこと。
「たくさんのお金はいらない、いろんな人から愛されたいとかそんなことは望んでない。彼女だけ、彼女だけはどうか幸せになって欲しい」
そんなことを思いながら大きな桜の木がある公園から出て帰宅路についた。







私は今、見たこともない森の中で彷徨っている。
最初はとても焦った、助からないんじゃないかと思った。
でも少し歩いていくとその考えが変わっていった。それがとても怖くて、でもなぜか安らげた

もうこのままでいいかな。この森で、夜を迎えて、朝が来て、また夜を迎えて…そんな繰り返しでいいのかもしれない

ただ一つ。一つだけ贅沢でわがままな私の願いが叶うのなら
「彼だけはどうか幸せになってほしい。違う人と出会って、ちゃんとした大人になって…それでいつか子供を授かって。その相手は私じゃなくていい。こんな辛い思いもうさせたくない…」

「大丈夫だよ…ごめんね」
緩やかな風と共に彼にそっくりな声が聞こえた

私は彼と出会えて幸せだった。二人で初めて迎えた朝に目玉焼きとベーコンを乗せたパンを食べながら首のキスマークを隠すための絆創膏を探したりもしたよね。あのあと職場で絆創膏取れちゃって恥ずかしかったなぁ。
公園でお花見した時なんて前の晩にお弁当作ったのに家に忘れちゃって笑いながらコンビニでおにぎり二つとお茶一つだけ買って「幸せだね」って言ってくれたよね。
瞬きをするほど懐かしい記憶が蘇って、でもどの記憶も彼の顔だけは白いインクで濁っていて…

もう私はこのままでいいの。彼の顔ももう見られないけど…それでも…いい…





「おはよ。怖い夢でも見てたの?」

「え…なんで…」

「なんでって、泣いてるから怖い夢でも見てるのかなって。少し外に出て煙草吸って戻ってきたら君が寝てたから側で僕も横になったんだけど君が泣きながら《ごめんね》って謝り続けたから僕まで泣きそうになったよ」

「あのね、大きな森の中で君みたいな声が聞こえたの。《大丈夫だよ。ごめんね》って」

「きっと白い鳥が君に囁いたんだよ。その白い鳥は優しい子なのかもしれないね」

雨模様の暗い夕暮れに小さな鳥たちのさえずりとポツンポツンと雨の音が響き、僕らはまた鬱な夜を迎えていた。
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