僕たちの世界線

霜咲

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青い涙の行方

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季節が流れ冬を迎えた
僕らの日々に少し変化があったとしたら休みが多い仕事になり、毎日の中で少しずつ前向きになりつつあることくらい。

あの時、幸せの形が変わり僕は少しだけ強くなれたと思った。そんな矢先の出来事をこれからこのノートに記していこうと思う。


彼女は
「もう大丈夫。元気になったよ」
そう言って精神科への通院をやめた。それでも僕は心配だったから都会から田舎へ引っ越して落ち着いた生活を送ろうと話をした。

「僕も辛い。でも君はもっと辛いだろう。だから少しでも僕を頼って欲しいんだ」

「うん、ありがとう。でも私ならもう大丈夫。これからはまた君と二人の生活を楽しんでいきたい」

そう言いながら彼女は淹れたてのコーヒーを飲んで一息ついた。

彼女の腕には白い鳥と出会う前につけたたくさんの傷跡。少し痩せた体に綺麗な髪の毛。

僕にもう少し力があれば彼女は傷跡が減ったかもしれない。痩せるほど追い詰めずに済んだかもしれない。
これからは僕が君を護るから。強く抱きしめた時のように、安心感を届けるから。
間違えた道を二人で正していく。その時は僕がリードするから。

「私はね、あの白い鳥が飛んで行った先が気になるの。北へ飛んだなら白い鳥はきっと美しい白鳥にでもなれるのかな。南へ飛んだなら白い翼の渡り鳥に。未来は努力次第で変えられるもんね」

「そうだね、どこへ飛んでもきっと美しい鳥になるよ」
僕は彼女の声がどこかへ飛んでいかないように一言一言を頭の中で捕まえながら、そっと後ろから包み込むように抱きしめて言葉を返した。

「引っ越した先には何があるかな。田んぼとか、カブトムシのいる森とか、綺麗な羽の蝶々とか…のどかな場所だといいね」

「でも君、虫触れないじゃん!僕が捕まえたカブトムシ見てゴキブリって言いながら逃げるくらい虫無理でしょ」

「バカだなぁ。虫は触るものじゃなくて見て楽しむものだよ!風物詩ってやつです」

僕の抱きしめた腕に彼女はそっと手を触れながら頬と頬をくっつけてこんな会話をした。

引っ越しの前日、電話がかかってきた。
「彼女が倒れた、今は病院で安静にしてるが医者から君へ話したいことがあるみたいだから出来るだけ早く来てくれ」

僕は荷物をまとめている手を止め、車のキーをポケットから出しながら急いで車へ向かった。
道路は空いていて予定時間より早くついた。

病院の駐車場で出来るだけ出入り口に近いところに車を止め、かかとを踏んだらままの靴を履き直すこともせずに受付に走った。

「すいません!彼女が倒れてこの病院に運ばれたって連絡が来たんですがどこに行けばいいですか!!」

「えーっと…お名前をお伺いしても?」

受付のおばちゃんと話していたら横から走ってくる足音が聞こえた。

「あ!!お兄さんに連絡入れたの私なんだけどお姉ちゃんの部屋403だから急いで!!おばちゃん、この人お姉ちゃんの彼氏!通していいよね?」

「大丈夫だよ、急いで行ってあげなさい」

彼女の妹は僕の腕を引っ張りながら部屋まで連れて行ってくれた

部屋に入ると点滴をしたまま眠っている彼女がいた。
「お兄さんが彼氏さんですね。状態の説明をしたいので場所を変えてお話ししたいのですが…」
「はい」
少し離れた診療室で医師からの説明を受けた。

「落ち着いて聞いてくださいね。彼女の状態は先ほどより良くなってはいます。ただ栄養失調で運ばれてきたのですがここ数日間、しっかりとした食事を取ってませんか?」
僕は医師に今までのことを全て話した
「なるほど。栄養失調は少し様子を見て食事をこのまま取らないようなら引っ越し先の病院を紹介しますね。それでもう一つきになることがあるのですが…」
僕は少し嫌な予感がした。









「彼女、妊娠してますよね。ご存知でしたか?」








僕の中の嫌な考えが全て消えるのと同時に、医師の言葉に驚きを隠せなかった

「彼女は知っていたみたいで、食事を取ろうとしたが吐き気に襲われて食べては戻してを繰り返してしまったと話してくれました。ここから先の話は彼女が目を覚ましてから三人で話しませんか?」


数分後、彼女は目を覚ました
医師から聞いた話を彼女にそっと問いかけたら

「ごめんね。ご飯が喉を通らなくて、でもこれを言ったら君のことを追い込んじゃうんじゃないかって…思って…」
と目に涙を溜めながら口を開いてくれた。

「私は君の子供をまた授かったこと、とても嬉しかったしすぐに伝えなきゃとも思ったの。でもね、病院からの帰り道に黒いカラスの群れを見た時に何故か白い鳥のことを思い出した。それと同時にあの子のことも思い出したの…そしたら伝えなきゃって思いが伝えてもいいのかなに変わって、ここで私が中絶すれば君には苦しい思いをさせないのかなって…自分勝手でごめんね」

少し間が開いた後に医師の口から言葉が出てきた

「ここから先は私がいない方が良いと思うのでここで席を外させていただきますね。点滴も終わったのでお話が終わったら部屋の電話から連絡ください」

腕から針を抜き、小さくお辞儀をして医師がドアを開けた。遠のく足音と共に小さな音を立ててドアが閉まった。
それから音のない時間が続いた。でも何故か不安はなく少しの安心感があった

「あのさ、僕は君のことが好き。それはわかる?」

「分かるよ。私も好き」

「君が僕を傷つけないようにと考える時、僕も同じことを考えてる。でもさ、これって間違いじゃないかな?」

「どうして?」

「僕と君はお互いに気を遣いすぎて辛さが増してるよね、僕は君を苦しめるくらいなら別れて楽にしてあげたいって思う」

彼女はここから先に口を開くことがなかった

「僕は君を苦しめたくない。君のことを縛りたくもない。僕だけが傷ついたり君だけが傷ついて、どちらか片方が潰れちゃうぐらいなら君と別れて遠くから君を幸せにしたい」

その言葉が口から出た時に彼女は僕の手をぎゅっと握り、そのまま外を見ていた。その手が震えていたのに気がついたのは病室を出てからだった。

「わかってる。僕から君を取ったら何も残らない。だから本当はこんなこと言いたくはない。
医師から君のお腹に赤ちゃんがいるって話を聞いた時すごく嬉しかった。また君と二人で歩いているんだって自覚も出てきた。でも君がこれから先も僕のことを傷つけないようにって考え続けるなら僕は別れることを選ぶしかない」

彼女の妹が重いドアを開けた。
彼女らの両親に連絡が取れたこと、僕たちと一度会いたいと言っていたことと少しの伝言を伝えてくれた。




それから病院を出て彼女と彼女の妹と三人で家に戻り、彼女の親と僕の親を呼んで話をした。

少し親だけで話をしたい、席を外してくれと言われ、僕と彼女と彼女の妹はコンビニへ行った。

コンビニから戻ると目をキリッとした彼女の父親が落ち着いた声で座りなさいと言った。

そこから彼女の父親はこんな言葉を続けた

「君たちは親を頼らなすぎる。親はね、どんな子供でも愛していく覚悟がある。たとえ自殺をしようとしたり、家を出てから会いに来なくなっても自分たちの子供は宝物なんだ。今、四人で話してみんな同じ意見だった。
したいことをしなさい。好きな人とともに歩みなさい。でもね、連絡はしっかり取ること。お互いを理解する気持ちを忘れちゃいけない。君たちはまだ若いからこれから多くを学び、得られるよ。でもね、失ったものだけは取り戻せない。だからこそ失ったものを数えるんじゃなくて得られたものを数えなさい…」

そこから先は僕の頭の中に言葉が入ってこなかった。でもこの言葉のおかげで僕と彼女の考えは大きく変わった。

そのあとたわいない会話を交わした後に両親達は帰って行った

「また連絡するね。うん。大丈夫。もう迷わないよ。ありがとうね、パパ、ママ」

彼女の言葉は真っ直ぐ前を向いていた、ドアが閉まりリビングに戻ると彼女が振り向きざまに抱きついてきた。
耳元で震えた声で小さく「私たちは本当は幸せだったんだね」と囁く彼女。

彼女の瞳からつうっと流れた青い涙が僕の頬を色鮮やかに染めていった
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