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1章 魔女狩り編
5 伯爵令嬢はお城の塔に幽閉される
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あまりにも長くクラリスの事を思い出していたからだろう、リードが痺れを切らしたように口を開いた。
「答える気がないならよい。コーエン、この魔女を部屋まで案内しろ。」
そう言うと、セリーナが口を開くより早く、馬車の扉を乱暴に閉めて降りて行った。
いつの間にか王城に着いていたようだ。
それだけ長く考え込んでいたと言う事だろう。
セリーナはどうした物かと頭を抱えた。
リードの態度はどう見ても、自分の恋が思うように行かなかった八つ当たりだ。
でも…クラリスほど素敵な女性であれば、他人に八つ当たりをする程執着してしまうのも仕方ないのだろうか。
まだ恋を知らないセリーナは、考えてもその答えに辿り着けない。
「セリーナ嬢、感傷に浸ってるところ申し訳ありませんが、今日から生活頂くお部屋に案内致します。」
残されたコーエンが人の良い笑顔で告げる。
リードが感情に素直で直球なのに比べて、コーエンは感情を読み取らせない食えないタイプだ。
青銀髪の髪も彼の冷静さを助長しているのかもしれない。
前を歩くコーエンの背中を追いながら、セリーナはそんな事を考えていた。
そして、今回の誤解を解くのであれば、自分の感情に沿って物を見がちなリードより、コーエンの理解を求める方がいいのだろう…と。
「…あの、どこへ向かってるんですか?」
作戦の方向性は決まったものの、いつまでも歩みを止める様子のないコーエン。
セリーナが振り返れば、王城からもどんどん遠のき、どうやら王城の横の森の中を歩かされている。
「セリーナ嬢にこれから生活頂くお部屋です。ほら、見えて来ましたよ。」
前を向いたまま告げるコーエンの更に奥を見やれば、縦長の塔が建っており、遙か上方に窓のある部屋と思われる部分が見える。
塔の細さを見るに、生活空間となるスペースは、あの窓の見える上方部分だけなのだろう。
どこからツッコめば良いかわからない状況にセリーナはただただ頭上を見上げた。
「ご心配なく。塔内にはエレベーターが付いておりますので。」
「いや、そこじゃないですよね…。こんな物語でしか見た事ないような…まるで危険人物を隔離する為の塔のようじゃないですか!」
あんな所で外界から遮断されて生活するなど…数日で気が滅入るに決まっている状況にセリーナは抗議した。
「ええ。ですから、危険人物である貴女を塔にて隔離するように…とのリード殿下のご命令です。魔女狩りだと初めにお伝えしましたが?」
こちらを振り返ったコーエンは天気の話でもするかの様に、にこやかなままだ。
食えない所の話ではない。とんだ食わせ者だ。
「危険人物って…。しかも、魔女狩り…。私は魔女ではありません!王城にくれば話を聞いて、誤解だったとわかって貰えると思ったから…。」
だから抵抗もせず、大人しく着いて来たのだ。
「私も貴女が魔女だなどとは思っていません。この世界に魔術など存在しませんから。」
「なら…。」
「だからこそ、貴女がどんな手段でクラリス ハフトール嬢を隣国へ手引きしたのか、確認が取れるまではこちらの塔でお過ごしいただきます。」
コーエンの言っている事と、顔に浮かぶ笑顔のアンバランスさに、セリーナは背中が冷たくなるのを感じた。
この人…本気で言ってるんだ。
冗談であれば、どれだけ良かったか。
そうであったなら、後日、家族や友人達に面白おかしく話すネタになっただろうに…。
あのリードの様子を見れば、逃げ出せば罪を重くし、今度こそ火破りにしかねない。
そう考えれば、セリーナは塔に入っていくコーエンに渋々ながらも従うしかなかった。
コーエンの言った通り、塔の中にはエレベーターがあった。
いや、むしろ入り口を入れば、そこにはエレベーターしか無かった。
おもむろに鍵を取り出し、エレベーターに差し込むコーエンに、想像はしていた物のエレベーターが自力で動かせる物ではないとわかる。
「まさか、塔から自由に出入り出来るとでも?あっ、でも貴女の魔術でこのエレベーターが動くか試してみるのはいいかもしれませんね!」
セリーナの考えが顔に露骨に出ていたのか、何も尋ねていないのに、コーエンはニコニコとそう告げた。
先程、魔術など信じていないと言っていた人物の発言だ。
揶揄われているのだと気づけば、セリーナも流石に嫌味の一つも言い返さなくては気が済まない。
「皇太子殿下の側近殿は、常に柔らかな笑顔を浮かべた冷静沈着な人物だとご令嬢方が騒いでましたが、こんな性悪の演技に騙されている方があまりにも多いと言うことに驚きました。」
コーエンは一瞬目を瞠ってから、再び面白そうに笑みを深めた。
「セリーナ嬢は噂でお聞きする通り、気丈な方ですね。さぁ、着きましたよ。」
コーエンの言葉に促されて、エレベーターを降りれば、そこはこじんまりとした部屋だった。
ベッド、ティーテーブル、小振りなソファー、ライティングデスク、本棚、ドレッサー、あちらに続く扉はバスルームだろう。
思っていたより清潔な空間に、セリーナはホッと胸を撫で下ろす。
「生活に必要な物は揃っています。食事も随時運ばせますので、ご安心下さい。私は1日に1度様子を見に参りますので、自供したくなったら、その際に伺います。」
コーエンが淡々と説明をした。
どうやらセリーナの最低限の衣食住は保証されてるようだ。
でも、本当にそれだけなのだ…。
「自供って…私は何も…。」
「何もやっていない訳がないのは、状況から見ても、クラリス様の発言から見ても明白です。貴女はこの国の存亡を揺るがすような大罪を犯したと言うことをそろそろ自覚された方がいい。…では、私はこれで失礼します。」
そう言ったコーエンはニコリとも笑わず、青銀髪の髪と相まって、氷のように冷たい印象を与えた。
セリーナは言われた内容と、コーエンの気迫に言い返す言葉も出ず、エレベーター内に去っていく彼の背を見送る事しか出来なかった。
「答える気がないならよい。コーエン、この魔女を部屋まで案内しろ。」
そう言うと、セリーナが口を開くより早く、馬車の扉を乱暴に閉めて降りて行った。
いつの間にか王城に着いていたようだ。
それだけ長く考え込んでいたと言う事だろう。
セリーナはどうした物かと頭を抱えた。
リードの態度はどう見ても、自分の恋が思うように行かなかった八つ当たりだ。
でも…クラリスほど素敵な女性であれば、他人に八つ当たりをする程執着してしまうのも仕方ないのだろうか。
まだ恋を知らないセリーナは、考えてもその答えに辿り着けない。
「セリーナ嬢、感傷に浸ってるところ申し訳ありませんが、今日から生活頂くお部屋に案内致します。」
残されたコーエンが人の良い笑顔で告げる。
リードが感情に素直で直球なのに比べて、コーエンは感情を読み取らせない食えないタイプだ。
青銀髪の髪も彼の冷静さを助長しているのかもしれない。
前を歩くコーエンの背中を追いながら、セリーナはそんな事を考えていた。
そして、今回の誤解を解くのであれば、自分の感情に沿って物を見がちなリードより、コーエンの理解を求める方がいいのだろう…と。
「…あの、どこへ向かってるんですか?」
作戦の方向性は決まったものの、いつまでも歩みを止める様子のないコーエン。
セリーナが振り返れば、王城からもどんどん遠のき、どうやら王城の横の森の中を歩かされている。
「セリーナ嬢にこれから生活頂くお部屋です。ほら、見えて来ましたよ。」
前を向いたまま告げるコーエンの更に奥を見やれば、縦長の塔が建っており、遙か上方に窓のある部屋と思われる部分が見える。
塔の細さを見るに、生活空間となるスペースは、あの窓の見える上方部分だけなのだろう。
どこからツッコめば良いかわからない状況にセリーナはただただ頭上を見上げた。
「ご心配なく。塔内にはエレベーターが付いておりますので。」
「いや、そこじゃないですよね…。こんな物語でしか見た事ないような…まるで危険人物を隔離する為の塔のようじゃないですか!」
あんな所で外界から遮断されて生活するなど…数日で気が滅入るに決まっている状況にセリーナは抗議した。
「ええ。ですから、危険人物である貴女を塔にて隔離するように…とのリード殿下のご命令です。魔女狩りだと初めにお伝えしましたが?」
こちらを振り返ったコーエンは天気の話でもするかの様に、にこやかなままだ。
食えない所の話ではない。とんだ食わせ者だ。
「危険人物って…。しかも、魔女狩り…。私は魔女ではありません!王城にくれば話を聞いて、誤解だったとわかって貰えると思ったから…。」
だから抵抗もせず、大人しく着いて来たのだ。
「私も貴女が魔女だなどとは思っていません。この世界に魔術など存在しませんから。」
「なら…。」
「だからこそ、貴女がどんな手段でクラリス ハフトール嬢を隣国へ手引きしたのか、確認が取れるまではこちらの塔でお過ごしいただきます。」
コーエンの言っている事と、顔に浮かぶ笑顔のアンバランスさに、セリーナは背中が冷たくなるのを感じた。
この人…本気で言ってるんだ。
冗談であれば、どれだけ良かったか。
そうであったなら、後日、家族や友人達に面白おかしく話すネタになっただろうに…。
あのリードの様子を見れば、逃げ出せば罪を重くし、今度こそ火破りにしかねない。
そう考えれば、セリーナは塔に入っていくコーエンに渋々ながらも従うしかなかった。
コーエンの言った通り、塔の中にはエレベーターがあった。
いや、むしろ入り口を入れば、そこにはエレベーターしか無かった。
おもむろに鍵を取り出し、エレベーターに差し込むコーエンに、想像はしていた物のエレベーターが自力で動かせる物ではないとわかる。
「まさか、塔から自由に出入り出来るとでも?あっ、でも貴女の魔術でこのエレベーターが動くか試してみるのはいいかもしれませんね!」
セリーナの考えが顔に露骨に出ていたのか、何も尋ねていないのに、コーエンはニコニコとそう告げた。
先程、魔術など信じていないと言っていた人物の発言だ。
揶揄われているのだと気づけば、セリーナも流石に嫌味の一つも言い返さなくては気が済まない。
「皇太子殿下の側近殿は、常に柔らかな笑顔を浮かべた冷静沈着な人物だとご令嬢方が騒いでましたが、こんな性悪の演技に騙されている方があまりにも多いと言うことに驚きました。」
コーエンは一瞬目を瞠ってから、再び面白そうに笑みを深めた。
「セリーナ嬢は噂でお聞きする通り、気丈な方ですね。さぁ、着きましたよ。」
コーエンの言葉に促されて、エレベーターを降りれば、そこはこじんまりとした部屋だった。
ベッド、ティーテーブル、小振りなソファー、ライティングデスク、本棚、ドレッサー、あちらに続く扉はバスルームだろう。
思っていたより清潔な空間に、セリーナはホッと胸を撫で下ろす。
「生活に必要な物は揃っています。食事も随時運ばせますので、ご安心下さい。私は1日に1度様子を見に参りますので、自供したくなったら、その際に伺います。」
コーエンが淡々と説明をした。
どうやらセリーナの最低限の衣食住は保証されてるようだ。
でも、本当にそれだけなのだ…。
「自供って…私は何も…。」
「何もやっていない訳がないのは、状況から見ても、クラリス様の発言から見ても明白です。貴女はこの国の存亡を揺るがすような大罪を犯したと言うことをそろそろ自覚された方がいい。…では、私はこれで失礼します。」
そう言ったコーエンはニコリとも笑わず、青銀髪の髪と相まって、氷のように冷たい印象を与えた。
セリーナは言われた内容と、コーエンの気迫に言い返す言葉も出ず、エレベーター内に去っていく彼の背を見送る事しか出来なかった。
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