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1章 魔女狩り編
6 伯爵令嬢は王子の側近とお茶をする
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セリーナがこの塔に来てから1日が経った。
コーエンの言う通り、時間になれば侍女が食事を運んで来てくれるが、何を話し掛けても一切返答がない。
そうしろと言われているのだろうけど…。
まさか、私の事を本当に魔女だって思ってたりしないわよね!?
考えてみれば、侍女達は話に答えないどころか、目も合わせようとしない。
目が合えば石になるとでも思ってるのかしら。
セリーナは髪の毛が蛇の怪物を思い浮かべてから、頭を何度か振った。
人間、暇過ぎると馬鹿な事を考えてしまうようだ。
でも、ここは変な妄想をする以外に本当にやる事がない。
本棚に申し訳程度に置かれた本は、我が国の歴史書で、ただでさえ趣味じゃない内容の事が、嫌味なくらい小難しい言葉で並べ立てられていて、最初の2ページで読むのをやめた。
だから、エレベーターが動く音がして、コーエン ブルーセルが現れた時は、思わず駆け寄ってしまう程だ。
これがセリーナが監禁された人が誘拐犯を信頼してしまう心理を理解した瞬間だった。
「まだ初日なのに、随分とお疲れのご様子ですね。」
嬉しそうに笑うコーエンに、セリーナは駆け寄ってしまった事を心底後悔した。
舌打ちが漏れる程に。
「貴方だって、この塔で1日過ごしてみればいいわ!どれだけ非人道的な環境かすぐにわかるでしょう。」
「まぁまぁ、カリカリし過ぎるのは良くありませんよ。甘い物をお持ちしましたので、お茶でもしましょう。」
コーエンは舌打ちに動じた様子もなく、変わらない笑顔でそう言うと、後ろから入ってきた侍女達がテーブルの上に素早くお茶の用意を整えた。
「何で私が貴方とお茶なんて…。それよりここから出してよ!」
「まぁ、ここから出るにしても貴方をよく知る必要がありますからね。一緒にテーブルを囲むのはその為の最短の方法でしょう。そうそう王城のマカロンとエクレアは絶品ですよ?お好きですか?」
コーエンの言葉に、セリーナは素早くテーブルに目を走らせ、そこに並ぶエクレアを確認する。
「…まぁ、そういう事なら…。」
コホンと咳払いと共に言えば、コーエンは今までで一番可笑しそうに笑った。
「甘い物がお好きなのですね。昨日、城にお連れした時も、テーブルに残るスイーツを恨めしそうに見られてましたもんね。」
な…そんな所を見られていたなんて…。
セリーナは最大の弱味を握られたような気分になるが、本当であれば、魔女だと冤罪を掛けられて身柄を拘束されている状況で、スイーツが大好きだと知られる事など些細な事だ。
セリーナは聞かなかったフリを決め込んで、先にお茶の用意の整ったテーブルへ向かう。
「早く…座ったら?えっと…。」
「コーエンとお呼び下さい。皆、そう呼びますので。」
「コーエン様。早く座って下さい。折角の紅茶が冷めちゃうわよ。」
「呼び捨てで構いませんよ。セリーナ嬢より爵位の低い子爵家の出ですので。」
「あら?貴方ってそんな事を気にするタイプなのね。子爵って言っても、皇太子殿下の側近なのでしょ?」
ゆっくりと椅子に座ったコーエンを、セリーナはさも意外と言った顔で見つめた。
セリーナから見たコーエンは、性格こそ良くないが、側近としては優秀で、その腹黒さを生かして爵位など気にせず自分の地位を確保するタイプだと思っていた。
「まぁ、母がリード殿下の乳母を務めていたご縁で幼い頃からお側に上がらせてもらっていますね。でも、子爵家と言っても私は次男なので…将来的には何処かに婿入りか、養子入りでもしないと、殿下のお側に仕えるのも難しくなるでしょうね。」
「ふーん。まぁ、私はコーエン様って呼ぶわ。貴方の腹黒さなら、婿入りでも、養子入りでも上手いことするでしょ。」
興味なさそうにそう言いながら、紅茶を口に運ぶセリーナを見て、コーエンは苦笑を浮かべ、数刻前にリードに言われた事を思い出していた。
「何とおっしゃいましたか?」
「だから、早々に口を割るのが難しいなら、コーエンがあの魔女を篭絡したらいいと言った。」
「いや、流石に私も罪人に手を出そうとは思いません。」
彼女を魔女だと言い出し、罪人として捕らえた張本人であるリードから、その魔女を篭絡しろと言われたのだ。
コーエンは驚くのも無理はないと自分に言い聞かせた。
「何も本気で手を出せとは言っていないだろう。ちゃっちゃと惚れさせて、手口を吐かせれば簡単じゃないか…と言っただけだ。」
リードの含みのある言い方は、コーエンの普段の振る舞いであれば、女を惚れさす事など簡単だろうと言いたいのだろう。
コーエンは確かに普段から物腰も柔らかく、もちろん皇太子であるリードには及ばないながらも、令嬢達からの人気は高かった。
それはひとえに子爵家の次男であるコーエンが将来何処か爵位のある家に婿入りする為に、愛想よく振る舞うように気を配っているからだ。
コーエンは目の前で美味しそうにエクレアを頬張るセリーナを見て苦笑した。
どこが簡単な物か…。
確かに、少し気が強過ぎる気はするが、何かの花のよう鮮やかなオレンジの髪や、キリッとしたキャメルのような明るい茶の瞳…正直、外見は好みのタイプだった。
確か、伯爵家の一人娘で婚約者もおらず、自分の婿入りの相手としても申し分ない。
それこそ、この様な出会いでなければ、何かが生まれたかもしれない…くらいにコーエンはセリーナを好ましく思っていた。
だが、少しでも自分に気のある令嬢であれば、このように目の前でスイーツを豪快に頬張ったりはしないだろう。
幾度となく向けられた上目遣いの媚を売るような視線と、目の前のセリーナを比べて、リードから託された作戦は早々に諦める事に決めた。
「ところで、私の事ばかりでなく、セリーナ嬢についても教えていただけますか?」
王城のエクレアはコーエンの言う通り絶品だった。
セリーナは3つ目のエクレアを飲み込んでから、慌てる事なく口を開いた。
「何が聞きたいの?」
「貴方の使う魔術とはどんな力なのですか?」
やっぱりその話よね…。
セリーナはテーブルの上のティーカップにゆったりと手を伸ばした。
コーエンの言う通り、時間になれば侍女が食事を運んで来てくれるが、何を話し掛けても一切返答がない。
そうしろと言われているのだろうけど…。
まさか、私の事を本当に魔女だって思ってたりしないわよね!?
考えてみれば、侍女達は話に答えないどころか、目も合わせようとしない。
目が合えば石になるとでも思ってるのかしら。
セリーナは髪の毛が蛇の怪物を思い浮かべてから、頭を何度か振った。
人間、暇過ぎると馬鹿な事を考えてしまうようだ。
でも、ここは変な妄想をする以外に本当にやる事がない。
本棚に申し訳程度に置かれた本は、我が国の歴史書で、ただでさえ趣味じゃない内容の事が、嫌味なくらい小難しい言葉で並べ立てられていて、最初の2ページで読むのをやめた。
だから、エレベーターが動く音がして、コーエン ブルーセルが現れた時は、思わず駆け寄ってしまう程だ。
これがセリーナが監禁された人が誘拐犯を信頼してしまう心理を理解した瞬間だった。
「まだ初日なのに、随分とお疲れのご様子ですね。」
嬉しそうに笑うコーエンに、セリーナは駆け寄ってしまった事を心底後悔した。
舌打ちが漏れる程に。
「貴方だって、この塔で1日過ごしてみればいいわ!どれだけ非人道的な環境かすぐにわかるでしょう。」
「まぁまぁ、カリカリし過ぎるのは良くありませんよ。甘い物をお持ちしましたので、お茶でもしましょう。」
コーエンは舌打ちに動じた様子もなく、変わらない笑顔でそう言うと、後ろから入ってきた侍女達がテーブルの上に素早くお茶の用意を整えた。
「何で私が貴方とお茶なんて…。それよりここから出してよ!」
「まぁ、ここから出るにしても貴方をよく知る必要がありますからね。一緒にテーブルを囲むのはその為の最短の方法でしょう。そうそう王城のマカロンとエクレアは絶品ですよ?お好きですか?」
コーエンの言葉に、セリーナは素早くテーブルに目を走らせ、そこに並ぶエクレアを確認する。
「…まぁ、そういう事なら…。」
コホンと咳払いと共に言えば、コーエンは今までで一番可笑しそうに笑った。
「甘い物がお好きなのですね。昨日、城にお連れした時も、テーブルに残るスイーツを恨めしそうに見られてましたもんね。」
な…そんな所を見られていたなんて…。
セリーナは最大の弱味を握られたような気分になるが、本当であれば、魔女だと冤罪を掛けられて身柄を拘束されている状況で、スイーツが大好きだと知られる事など些細な事だ。
セリーナは聞かなかったフリを決め込んで、先にお茶の用意の整ったテーブルへ向かう。
「早く…座ったら?えっと…。」
「コーエンとお呼び下さい。皆、そう呼びますので。」
「コーエン様。早く座って下さい。折角の紅茶が冷めちゃうわよ。」
「呼び捨てで構いませんよ。セリーナ嬢より爵位の低い子爵家の出ですので。」
「あら?貴方ってそんな事を気にするタイプなのね。子爵って言っても、皇太子殿下の側近なのでしょ?」
ゆっくりと椅子に座ったコーエンを、セリーナはさも意外と言った顔で見つめた。
セリーナから見たコーエンは、性格こそ良くないが、側近としては優秀で、その腹黒さを生かして爵位など気にせず自分の地位を確保するタイプだと思っていた。
「まぁ、母がリード殿下の乳母を務めていたご縁で幼い頃からお側に上がらせてもらっていますね。でも、子爵家と言っても私は次男なので…将来的には何処かに婿入りか、養子入りでもしないと、殿下のお側に仕えるのも難しくなるでしょうね。」
「ふーん。まぁ、私はコーエン様って呼ぶわ。貴方の腹黒さなら、婿入りでも、養子入りでも上手いことするでしょ。」
興味なさそうにそう言いながら、紅茶を口に運ぶセリーナを見て、コーエンは苦笑を浮かべ、数刻前にリードに言われた事を思い出していた。
「何とおっしゃいましたか?」
「だから、早々に口を割るのが難しいなら、コーエンがあの魔女を篭絡したらいいと言った。」
「いや、流石に私も罪人に手を出そうとは思いません。」
彼女を魔女だと言い出し、罪人として捕らえた張本人であるリードから、その魔女を篭絡しろと言われたのだ。
コーエンは驚くのも無理はないと自分に言い聞かせた。
「何も本気で手を出せとは言っていないだろう。ちゃっちゃと惚れさせて、手口を吐かせれば簡単じゃないか…と言っただけだ。」
リードの含みのある言い方は、コーエンの普段の振る舞いであれば、女を惚れさす事など簡単だろうと言いたいのだろう。
コーエンは確かに普段から物腰も柔らかく、もちろん皇太子であるリードには及ばないながらも、令嬢達からの人気は高かった。
それはひとえに子爵家の次男であるコーエンが将来何処か爵位のある家に婿入りする為に、愛想よく振る舞うように気を配っているからだ。
コーエンは目の前で美味しそうにエクレアを頬張るセリーナを見て苦笑した。
どこが簡単な物か…。
確かに、少し気が強過ぎる気はするが、何かの花のよう鮮やかなオレンジの髪や、キリッとしたキャメルのような明るい茶の瞳…正直、外見は好みのタイプだった。
確か、伯爵家の一人娘で婚約者もおらず、自分の婿入りの相手としても申し分ない。
それこそ、この様な出会いでなければ、何かが生まれたかもしれない…くらいにコーエンはセリーナを好ましく思っていた。
だが、少しでも自分に気のある令嬢であれば、このように目の前でスイーツを豪快に頬張ったりはしないだろう。
幾度となく向けられた上目遣いの媚を売るような視線と、目の前のセリーナを比べて、リードから託された作戦は早々に諦める事に決めた。
「ところで、私の事ばかりでなく、セリーナ嬢についても教えていただけますか?」
王城のエクレアはコーエンの言う通り絶品だった。
セリーナは3つ目のエクレアを飲み込んでから、慌てる事なく口を開いた。
「何が聞きたいの?」
「貴方の使う魔術とはどんな力なのですか?」
やっぱりその話よね…。
セリーナはテーブルの上のティーカップにゆったりと手を伸ばした。
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