前世占い師な伯爵令嬢は、魔女狩りの後に聖女認定される

皐月 誘

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1章 魔女狩り編

7 伯爵令嬢は王子の側近に説明する

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魔術などこの世にないと言いながら、どの様な魔術を使ったのかと問うコーエンを、セリーナは手に持つ紅茶をテーブルに戻しながら、よくよく観察していた。

あくまで皇太子からの命で聞いている…と言うことなのだろうか。

「火の玉を出して、この塔を燃やしたり、人を凍らせたり出来るわ。」

「冗談は結構です。魔術など非科学的な事は信じないと伝えましたよね?」

「コーエン様が冗談の通じる相手か知りたくなっただけよ。」

セリーナが、コーエンの反応など言う前から予想出来ていたとばかりに笑顔を見せれば、コーエンは少し驚いたような顔をしたので、セリーナもその反応に驚いてしまった。

「この状況でその様な事を仰るとは…クラリス様が仰っていた様に、本当に面白い方ですね。」

そして、コーエンの口から出た親友の名にセリーナが食い付く番だ。

「クラリスは…私の事何と言っていたの?」

昨日からチラチラと考えが過ぎっては、違うと否定していた事の答えを聞けるのでは…とセリーナは拳を小さく握った。

そんな事あるはずがないと思いながらも、クラリスが自分の事を魔女だと伝えたのではないか…そんな考えが消せなかった。

「クラリス様は…いつも貴女がどれだけ素敵な女性かを語っていました。そのアドバイスは的確で、まるで未来の事を知っている様だ…魔法でも使っているようだ…と。なのに偉ぶる事もなく、いつも自分と同じ目線で悩んだり、悲しんだり、喜んだりしてくれるんだと。」

キツく握った拳から力が抜けて行くのをセリーナは感じた。

クラリスに嫌われるような事でもしたのでは…という心配が、コーエンの言葉に溶けて言った。

「そう…クラリスがそんな事を…。」

セリーナは嬉しい感情をなるべく悟られないように、ゆっくりと言った。

先程、コーエンが言ったことは、セリーナがクラリスに対して感じていた事だ。
公爵令嬢でありながら、偉ぶる事なく、私と同じ目線で居てくれたのはクラリスの方だ。

親友が自分と同じ気持ちで居てくれたという事実に、セリーナの胸が温かい気持ちで満たされた。

「リード殿下は公爵令嬢であるクラリス様が、伯爵令嬢にその様な発言をし、傾倒していく様子を元より訝しんでおられました。そこにクラリス様が隣国へ嫁ぐと言われれば…リード殿下が貴女を取り調べようと思うのも仕方の無い話だとは思いませんか?」

セリーナの心理状況などお構いなしで、コーエンが淡々と述べた。

「リード殿下は婚約者候補として、そして幼馴染みとしてずっと一緒に過ごされて来たクラリス様の事を心底心配しているんです。立場は違えど…私も幼馴染みという立場で言えば、クラリス様の事が心配で、何が起こっているのかを知りたいと思っています。」

そう言ったコーエンの表情に、セリーナはハッとした。

理不尽な言い掛かりをつけられて、八つ当たりや、嫌がらせの為だけに捕らえられたと思っていた。

でも、彼等には彼等の理由があるのだ。

大切な幼馴染が、隣国に嫁ぐとなれば、それが将来自分と結婚するであろうと思っていた相手なら、何があったか知りたいと思うのは当然だ。

「コーエン様は、非科学的な事は信じないって言ったわよね?貴方達の言う魔術…私の行う占いは、決して非科学的なものではないわ。」

「占い…?占術と言う事ですか?」

セリーナの発言に、初めて聞いたであろう占いという言葉を、すぐに占術と結びつけた辺りは流石と言うべきだろう。

セリーナの生きる世界で言う所の占術とは、例えば投げた石の並びによって将来起こる出来事を予測するような…怪しげな呪いと言われるレベルのものである。

「占術…の一種と言えば、そうなのかもしれないけど…私が行っているのは数字と色を基にした…いわば統計学ってところかしら。」

「統計学…ですか。」

コーエンは興味深そうな顔をしたが、余計な口は挟まずに先を促した。

「私の占いでは主にその人の生年月日を使います。その数字達を知りたい事に応じて数式にはめ込んで行く…そうすると、その答えが…と言うよりは傾向が見えて来ると言う物よ。生年月日以外にも、数字であれば何でも…傾向は見えて来るわ。数字はそれ自体が意味を持つ物だから。」

こんな事を人に説明するのは初めての事で、セリーナは自分の説明がコーエンに伝わっているのか、確証が持てず、そこで一度言葉を切った。

「では、色と言っていたのは?」

そのコーエンの問いに、従前の話は全て理解した様子が伝わって来る。

コーエンの事を侮っていた訳では無いが、セリーナが思っていたよりも数段頭が切れるようだ。

「色はもっと簡単よ。例えば、赤やオレンジを見たら人は元気になる。青を見れば落ち着く。色は数字よりも直接的に人の心に作用するわ。数字はそれぞれに色を持っているから、その数字と色を掛け合わせて、人の気持ちが動きやすいように手助けをするの。」

疑問が解決出来たのか、コーエンはふーむと言った様子で、顎に手を当て少しの間考え込んでから、セリーナを真っ直ぐに見た。

「確かに数字の話よりは理解出来ます。でも、私は今までその様な…占い?それの存在を聞いた事もありません。統計学と言うからには、これまでに蓄積された情報があっての物でしょう。セリーナ嬢はどちらでそれを学ばれたのですか?」

うっ…っと思わず声を漏らしそうになったセリーナは手近なクッキーを1枚口に放り込む事で、多少の時間を稼ぐ事にした。

どちらで…と言われても、セリーナは生まれた時からそれらを理解していたのだ。
誰に説明されるでもなく。
前世の記憶の様な物だと言って、この非科学的な事は信じないと公言しているコーエンが信じるとは思えない。

それでも、クッキー1枚ごときで稼げる時間はたかが知れたものである。

何の解決策も思い付いていないが、これ以上の無言は、あらぬ誤解を産みかねない。

「誰にも教わってないわ。初めから…幼い頃から自然と理解出来たのよ。って、言っても信じて貰えないんだろうけど。」

セリーナが言った事は前世云々を除けば、全て真実だった。

「では、自分でその怪しげな占いと言うものを考え出した…と?」

「怪しげって…。」

コーエンは先程までの興味深そうな表情に、胡散臭そうな表情を織り交ぜてセリーナを見た。

「では…セリーナ嬢はこれを飲めば絶世の美女になれます。その効力はこれらの素材の持つ力を掛け合わせれば当然の結果です…。」

コーエンがそう言うと、自身の手元にあった紅茶にミルクとジャム、そして蜂蜜をひと匙落とすと、スプーンでくるくると混ぜてこちらに差し出した。

「どうです?信じろと言う方が無理でしょう?」

「…確かに、胡散臭すぎるわね。」

私の言った事は、目の前にある、この無駄に甘ったるそうな紅茶と同レベルだろうか…と、セリーナは目の前のティーカップを見つめながらも、言い返す言葉は出てこない。

「とにかく、セリーナ嬢がその占いでクラリス様を誘導した事はわかりました。占いの効果はもう少し精査が必要ですが…。そうですね、その占いで私を見れますか?」

そう言ったコーエンは相変わらず口元に微笑みを浮かべていた。
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