前世占い師な伯爵令嬢は、魔女狩りの後に聖女認定される

皐月 誘

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1章 魔女狩り編

8 伯爵令嬢は王子の側近を占う

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コーエンから聞き出した彼の生年月日を、幾度となく足したり、引いたりと紙の上に書き止めながら、セリーナは溜息を吐いた。

これでは…駄目だ。

「溜息をつく程、悪い結果が出ましたか?」

興味深そうにセリーナの手元の数式を覗き込んでいたコーエンは、占いなど元より信じていないのだから、結果などどうでもいいと言った具合に口を開いた。

コーエンの態度に、セリーナはもう一度手元を覗き込んで数字を確認していく。

占い結果が駄目な訳ではない。
これは、これで間違いのない結果だろう。
でも…。

「いいえ。素晴らしい結果だと思うわ。コーエン様の基礎となる数字は2。協調性の象徴とも言える数で、思いやりや気配りに長けている。そうね、他人のサポート役をやればその実力を遺憾な発揮出来る…という意味では今のポジションも最適ね。青とグレーが貴方の性格を…控えめで用心深く、争いを好まない性格を表している。争いを避ける余り、他人に合わせてしまう所はあるけど…将来は相宰にでもなれる人だわ。」

「それは、私の事を多少知ってる人なら言えそうな事ですね。」

そう…占いの結果としては間違っていない。
でも、その結果とコーエンの人柄が一致し過ぎていて、占いの本来持つ力を示す事は出来ていない。

「わかってるわ。だから、溜息が出たのよ…。」

「セリーナ嬢も分かっているでしょうが…これで信じろと言うのは無理な相談ですからね。適当でも、もう少し意外性のある事に山を掛けた方が良かったのでは…?」

コーエンはセリーナが占いの結果として、当たり前のことを並べ立てたのが意外だった。

これはあくまで占いの力を示すのが目的であり、上手くいけば彼女の望む解放に近付くはずだ…それをこんなに無難に済ますとは…。

「山を掛けろって、占い結果を無視して、適当な事を言えって意味?だとしたら、私には出来ないわ。占いは人の人生をほんの少し幸せにする為の技術よ。私には責任がある。一度だって適当な事を言うわけにはいかないわ。だから、喜んでいいのよ。私が相宰になる素質があると言えば、貴方には本当に相宰になる素質があるよの。なれるか、どうかはコーエン様の努力次第でしょうけど。」

セリーナは力強くコーエンを見返せば、コーエンは驚いた様に大きく目を見開いた。

「…クラリス嬢が貴女に傾倒していった理由は何となくわかりました。セリーナ嬢が、人をその気にさせる言葉を選ぶのが上手いって事も。」

「私は、コーエン様が褒め言葉を素直に受け取らない捻くれ者だとわかったわ。」

「…」
「…」

一瞬の沈黙の後、どちらともなく吹き出した。

占いを始めてから…いや、お茶を始めてからずっと張り詰めていた空気が少し緩むのをセリーナは感じていた。

「とにかく、今の話だけで全て信じるのは無理なので、占いの件は引き続き精査して行きます。」

コーエンが仕切り直すようにそう言ったので、セリーナも仕方ないとばかりにコクリと頷いた。

「それに、私にはもう一つ不思議に思える点があるんです。クラリス様と隣国の王子を手引きした方法が仮に占いだったとして…お二人をくっつける事で、貴女にどの様なメリットがあるのか…さっぱりわからないんです。」

この言葉にセリーナは虚をつかれたかのような表情を浮かべた。

「メリットも何も…、クラリスが望んだ事にアドバイスをしただけだから…。」

「え?クラリス様が!?」

この噛み合わない会話に、次はコーエンが驚く番だった。

「そうよ。そもそも私は最後の最後まで、クラリスが相談して来てるお相手はリード殿下の事だと思って占っていたくらいだもの。」

「なっ…ですが、リード殿下と隣国の王子では生年月日が違います。」

コーエンはセリーナの占いに生年月日が必要だと言う点を思い出し、指摘する。
セリーナの虚偽を見破れば、そこから新しい真相に辿り着けるかもしれないと期待すらしている。

「皇太子の生年月日なんて覚えてないわよ。生誕祭のある国王陛下ならまだしも…。」

困った様子で言うセリーナに嘘を付いている様子はない。

コーエンは気の抜けたように肩を竦めた。
追い詰めたと思った犯人が、的外れは事を言えば気も抜けるだろう。

「では、リード殿下の生年月日はご存知でないと…。」

「…、私と同じ年齢と言うくらいの情報しか…。」

これはダメだ…と、コーエンが手早くリードの生年月日を伝えると、セリーナは見覚えのある数字に思わず目を見開いた。

「…どうかしましたか?」

コーエンにはそのセリーナの行動が不審に映っていた。
それは自分の仕える主の生年月日を聞いて、あの様な反応をされれば…それが生年月日を使って占いなるものをすると言う人物が相手であれば、警戒するのは当然だ。

「いえ…数式に当てはめて確認するまでもなく、正義感の強いリーダータイプだと思っただけよ。」

セリーナは慌ててそう言ったが、コーエンはその返答に満足したようだ。
リードの事を褒められたと思ったのだろう。

しかし、セリーナは別の事を考えていた…。

嘘でしょ…。初めて会った…。

セリーナにはリードの生年月日に見覚えがあった。
何度となく占いの結果として見て来た数字だ。

自分と相性のいい相手として…。

よりによって、あの高圧的な皇太子が…?

信じたくない気持ちが強いが、セリーナは誰よりも自分の占いの正確さを知っていた。

運命とも言えるほど相性のいい相手なのだ。
恋人となれば、物語の王子と姫のように永遠に幸せに暮らしました…となるだろうし、友人であれば、生涯無二の理解者となり得る。

セリーナはそんな相手が気になって占ってはいたものの、まさか実際に自分の人生の中で巡り合えるとは思っていなかった。
それくらいセリーナにとって希少な相手だった。

出会えた事を喜ぶべきか、その希少な相手がリードであった事を悲しむべきか…。

「とにかく、今日伺った話をリード殿下にお伝えし、今後どのようにさせていただくかを検討致します。」

コーエンのその言葉に、セリーナは強引に現実に引き戻された。

「えぇ…わかりました。なるべく早くして下さいね。こんな所にあまり長く閉じ込められると、気が狂ってしまうかもしれないので…。」

セリーナはまだ頭が一杯ながらも、精一杯の嫌味を去りゆくコーエンの背に放った。
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