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2章 聖女のお仕事編
10 伯爵令嬢は作戦会議をする
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「で?」
セリーナは手に持っていたティーカップを怒りで割らないように、そっとテーブルに戻した。
セリーナは夕方までに何とか村人全員の占いを終わらせて、ヘロヘロで宿の自室に戻っていた。
疲れ果てたセリーナに、ティナが紅茶を運んで来た、丁度その時にリードとコーエンがセリーナの部屋へ顔を覗かせたのだった。
言葉にせずとも2人からは疲労の色が滲み出ており、セリーナはティナにお願いして2人分の紅茶を追加して貰い、同じテーブルに着いたリードとコーエンに今日一日の事を報告し終えた所だった。
「で?…とは?」
セリーナはリードの発言に怒りを覚えながらも、何とか冷静に返事をした。
もしかしたら、セリーナの感じた事とは別の意図があるかもと思ったからだ。
「質問に質問で返すな。もちろん、解決策は見付かったのか?と言う意味だ。」
だが、そんな余計な気を回したばかりにセリーナの怒りは益々大きくなってしまった。
セリーナはその目付きを鋭くして、コーエンを見た。
日中に様子を見に来てくれた時に、一緒に考えればいいと言ったわよね?と視線だけで伝えれば、相手もその意図を正確に読み取ったらしく苦笑が返って来た。
そもそも、水害は占いでは解決出来ないとセリーナは初めから伝えている。
それを、少しでもヒントを得られれば…と占うように言ったのはリードだったはずだ。
だからセリーナも必死になって今日1日で何十人という人を占ったのだ。
なのに、それに対して出た言葉が「で?」の一言とは…。
この馬鹿皇太子に何と言えばこちらの気持ちが伝わるだろうか。
セリーナは一瞬考えを巡らせたが、それも馬鹿らしくなってすぐにやめてしまった。
「占いでは解決は難しいと最初にお伝えしましたよね?」
セリーナは自分の中で処理しきれない怒りをそのまま言葉に乗せていた。
「なんだ、もう根をあげたのか。昨日の馬鹿みたいな強気はどこに行った?」
「馬鹿って!だいたい占いでは良くて解決に近い人を見つけ出すくらいしか…。」
怒りのままに言葉を発していたセリーナは、自分の発言にふと言葉を止めた。
解決に近い人…。
昼間に対峙したアルフという青年の顔が頭を過ぎる。
「何か思い当たる節でもあるのか?」
セリーナの様子の変化をリードは敏感に感じ取っていた。
セリーナは今日のアルフとのやり取りを思い出しながら、2人に説明した。
アルフという青年が、発明家気質の人間である事。
何かアイディアを持っていそうな事。
そして、最後に怒らせてしまった事。
「なんだ。では、そのアルフという青年を説得すればいいだけじゃないか。必要であれば俺が話そう。」
リードは何故そんな事もわからないと言いたげに、鼻を鳴らした。
「いや…それは違う気が…。」
「確かにリード殿下がお話しされては、そのアルフ殿も余計恐縮されてしまうかもしれませんね。」
テーブルに着く3人が3人ともうーんと唸り声を上げた。
セリーナ、リード、コーエンの3人の持つ数字はそれぞれバラバラだが、そのどれを取っても、大きな課題が目の前にあると進んで挑戦するタイプの性格であった。
それは負けず嫌いからであったり、自信や使命感から…など、それぞれ理由は違えど、いずれもこういう時に問題に何度も挑む前向きさを兼ね備えた性格だ。
だから、この3人がアルフの説得方法について頭を悩ませるのは無駄に等しい行為だった。
「わからん。なぜ、そいつはこの水害を解決出来るかもしれないのに試してみようと思わないんだ。」
このメンバーじゃ、そもそもアルフの考えに共感出来る人が1人も居ない…。
セリーナは急に思い付いたかの様に、後ろで静かに控えていたティナを見た。
「ティナは!?ティナはどう思う?」
「え…私ですか??」
セリーナに急に名指しされたティナはビクリと体を震わせた。
同じ部屋に控えていたティナは3人の会話を全て聞いてはいたが、それについて意見を求められるなどとは思っていなかった。
「そう。もし、ティナがアルフの立場ならどう思う?」
リードもコーエンもセリーナの意図がわからず驚く中で、セリーナはティナが答えやすいように先を促した。
「私が…その方なら、やはり逃げ出していたと思います。この水害は何年も村人を悩ませているんですよね?自分が解決するなどと言って、出来なかった時の事を考えれば…1人では責任が重過ぎます。」
ティナは本当にアルフの立場になりきっているのか、顔を青ざめ、よく見ればカタカタと小刻みに震えながら答えた。
やっぱりだ…。
セリーナは自分の考えが当たった事が嬉しくなり、ティナに向かって力強く頷き返した。
昨晩、ティナとの会話で出た彼女の生年月日について、セリーナは意識するでもなく、彼女の数字を割り出していた。
6のピンク。
友人であるクラリスと同じその性格は博愛に満ちたものだが、それは他の人に嫌われたくないと言う自信のなさの表れでもあった。
7のバイオレットであるアルフは、人に怖がられるのを恐れず、他人との間に壁を作りがちだ。でも、それも自分が人に受け入れて貰えるかがわからずに、鼻から自分と他人に線引きをするというものだ。
6と7は、自信や自己肯定感という意味に置いては、表現方法は違えど似ているところがあった。
「ありがとう、ティナ。とても役に立つ意見だわ。申し訳ないけど、今日の占いの結果を全てここに持ってきてくれる?一から見直すわ。」
「一からですか?」
驚きの声を上げたのは、コーエンだった。
コーエンは、セリーナが今日1日を費やして、全ての村民を占う事がどれだけ大変だったか、セリーナの元を訪れた時間は短いが理解しているつもりだった。
だからこそ、もう夕食の時間と言っても差し支えない時間から、それを全て見直すという行動は無謀だと思えた。
「えぇ、見落としていた事があるの。」
「ですが…セリーナ嬢もお疲れでしょうし…。」
コーエンはセリーナの決意に満ちた表情にそれ以上言葉が続かなかった。
「コーエン、俺達は水害を解決する為にここに来ている。こいつが…セリーナがまだやるべき事があると言うなら、止める必要はない。」
リードはコーエンを嗜めるようにそう言うと、自らは席を立ち、その行動でコーエンにも退室を促した。
「ですが…。」
「俺達がここに居ても、邪魔になるだけだろう。俺達も自分に出来る事をやるべきだ。セリーナ、食事は部屋へ運ばせる。何か出来る事があれば知らせろ。」
それだけ言い残すと、さっさと部屋から出て行くリードに、コーエンも仕方なく従った。
「ありがとうございます…。」
セリーナがそう返事をしたのは、2人が出て行った扉がパタンと音を立てて閉じてからだ。
それは、リードが初めて彼女の名前をちゃんと呼んだことに対する驚きが先行してしまったからだった。
セリーナは手に持っていたティーカップを怒りで割らないように、そっとテーブルに戻した。
セリーナは夕方までに何とか村人全員の占いを終わらせて、ヘロヘロで宿の自室に戻っていた。
疲れ果てたセリーナに、ティナが紅茶を運んで来た、丁度その時にリードとコーエンがセリーナの部屋へ顔を覗かせたのだった。
言葉にせずとも2人からは疲労の色が滲み出ており、セリーナはティナにお願いして2人分の紅茶を追加して貰い、同じテーブルに着いたリードとコーエンに今日一日の事を報告し終えた所だった。
「で?…とは?」
セリーナはリードの発言に怒りを覚えながらも、何とか冷静に返事をした。
もしかしたら、セリーナの感じた事とは別の意図があるかもと思ったからだ。
「質問に質問で返すな。もちろん、解決策は見付かったのか?と言う意味だ。」
だが、そんな余計な気を回したばかりにセリーナの怒りは益々大きくなってしまった。
セリーナはその目付きを鋭くして、コーエンを見た。
日中に様子を見に来てくれた時に、一緒に考えればいいと言ったわよね?と視線だけで伝えれば、相手もその意図を正確に読み取ったらしく苦笑が返って来た。
そもそも、水害は占いでは解決出来ないとセリーナは初めから伝えている。
それを、少しでもヒントを得られれば…と占うように言ったのはリードだったはずだ。
だからセリーナも必死になって今日1日で何十人という人を占ったのだ。
なのに、それに対して出た言葉が「で?」の一言とは…。
この馬鹿皇太子に何と言えばこちらの気持ちが伝わるだろうか。
セリーナは一瞬考えを巡らせたが、それも馬鹿らしくなってすぐにやめてしまった。
「占いでは解決は難しいと最初にお伝えしましたよね?」
セリーナは自分の中で処理しきれない怒りをそのまま言葉に乗せていた。
「なんだ、もう根をあげたのか。昨日の馬鹿みたいな強気はどこに行った?」
「馬鹿って!だいたい占いでは良くて解決に近い人を見つけ出すくらいしか…。」
怒りのままに言葉を発していたセリーナは、自分の発言にふと言葉を止めた。
解決に近い人…。
昼間に対峙したアルフという青年の顔が頭を過ぎる。
「何か思い当たる節でもあるのか?」
セリーナの様子の変化をリードは敏感に感じ取っていた。
セリーナは今日のアルフとのやり取りを思い出しながら、2人に説明した。
アルフという青年が、発明家気質の人間である事。
何かアイディアを持っていそうな事。
そして、最後に怒らせてしまった事。
「なんだ。では、そのアルフという青年を説得すればいいだけじゃないか。必要であれば俺が話そう。」
リードは何故そんな事もわからないと言いたげに、鼻を鳴らした。
「いや…それは違う気が…。」
「確かにリード殿下がお話しされては、そのアルフ殿も余計恐縮されてしまうかもしれませんね。」
テーブルに着く3人が3人ともうーんと唸り声を上げた。
セリーナ、リード、コーエンの3人の持つ数字はそれぞれバラバラだが、そのどれを取っても、大きな課題が目の前にあると進んで挑戦するタイプの性格であった。
それは負けず嫌いからであったり、自信や使命感から…など、それぞれ理由は違えど、いずれもこういう時に問題に何度も挑む前向きさを兼ね備えた性格だ。
だから、この3人がアルフの説得方法について頭を悩ませるのは無駄に等しい行為だった。
「わからん。なぜ、そいつはこの水害を解決出来るかもしれないのに試してみようと思わないんだ。」
このメンバーじゃ、そもそもアルフの考えに共感出来る人が1人も居ない…。
セリーナは急に思い付いたかの様に、後ろで静かに控えていたティナを見た。
「ティナは!?ティナはどう思う?」
「え…私ですか??」
セリーナに急に名指しされたティナはビクリと体を震わせた。
同じ部屋に控えていたティナは3人の会話を全て聞いてはいたが、それについて意見を求められるなどとは思っていなかった。
「そう。もし、ティナがアルフの立場ならどう思う?」
リードもコーエンもセリーナの意図がわからず驚く中で、セリーナはティナが答えやすいように先を促した。
「私が…その方なら、やはり逃げ出していたと思います。この水害は何年も村人を悩ませているんですよね?自分が解決するなどと言って、出来なかった時の事を考えれば…1人では責任が重過ぎます。」
ティナは本当にアルフの立場になりきっているのか、顔を青ざめ、よく見ればカタカタと小刻みに震えながら答えた。
やっぱりだ…。
セリーナは自分の考えが当たった事が嬉しくなり、ティナに向かって力強く頷き返した。
昨晩、ティナとの会話で出た彼女の生年月日について、セリーナは意識するでもなく、彼女の数字を割り出していた。
6のピンク。
友人であるクラリスと同じその性格は博愛に満ちたものだが、それは他の人に嫌われたくないと言う自信のなさの表れでもあった。
7のバイオレットであるアルフは、人に怖がられるのを恐れず、他人との間に壁を作りがちだ。でも、それも自分が人に受け入れて貰えるかがわからずに、鼻から自分と他人に線引きをするというものだ。
6と7は、自信や自己肯定感という意味に置いては、表現方法は違えど似ているところがあった。
「ありがとう、ティナ。とても役に立つ意見だわ。申し訳ないけど、今日の占いの結果を全てここに持ってきてくれる?一から見直すわ。」
「一からですか?」
驚きの声を上げたのは、コーエンだった。
コーエンは、セリーナが今日1日を費やして、全ての村民を占う事がどれだけ大変だったか、セリーナの元を訪れた時間は短いが理解しているつもりだった。
だからこそ、もう夕食の時間と言っても差し支えない時間から、それを全て見直すという行動は無謀だと思えた。
「えぇ、見落としていた事があるの。」
「ですが…セリーナ嬢もお疲れでしょうし…。」
コーエンはセリーナの決意に満ちた表情にそれ以上言葉が続かなかった。
「コーエン、俺達は水害を解決する為にここに来ている。こいつが…セリーナがまだやるべき事があると言うなら、止める必要はない。」
リードはコーエンを嗜めるようにそう言うと、自らは席を立ち、その行動でコーエンにも退室を促した。
「ですが…。」
「俺達がここに居ても、邪魔になるだけだろう。俺達も自分に出来る事をやるべきだ。セリーナ、食事は部屋へ運ばせる。何か出来る事があれば知らせろ。」
それだけ言い残すと、さっさと部屋から出て行くリードに、コーエンも仕方なく従った。
「ありがとうございます…。」
セリーナがそう返事をしたのは、2人が出て行った扉がパタンと音を立てて閉じてからだ。
それは、リードが初めて彼女の名前をちゃんと呼んだことに対する驚きが先行してしまったからだった。
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