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4章 事件解決編
2 伯爵令嬢は皇子とお茶をする
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「ふーむ。」
セリーナは数式がたくさん書き込まれた紙を再度上からなぞる様に目を通した。
「少し休憩して下さい。セリーナ様。」
ティナが資料が沢山並ぶデスクではなく、ソファーセットにお茶を並べたのは、彼女なりの休憩を取ってくれと言う無言の訴えだった。
「わかった。休憩にするわ。良かったらティナも一緒にお茶しましょ。」
「そのつもりでしたっ!」
ティナがにっこりといい笑顔を浮かべる。
「本当、ティナには敵わないわ。」
セリーナがソフィアに座ると、ティナがお皿と小さな箱を持って来た。
「今日のデザートはセリーナ様のお好きなエクレアですよ!なんと王都で一番人気のお店の物だとか。」
その箱にはセリーナも知る有名ペストリーの物だ。
「えっ、ペストリー ・エクランの物!?だって何時間も並ばないと買えないって聞くわよ。」
「そうなんです。朝早くにコーエン様が届けて下さいました。今日は会いに来れないけど、セリーナ様によろしく伝えて欲しいと仰ってましたよ。」
「コーエン様が…。」
セリーナのその反応を見て、ティナはエクレアをお皿に取り分けながら、心配そうに口を開いた。
「…まだ、仲直りなさってないのですか?コーエン様が何をなさってセリーナ様のお怒りを買ったかは存じ上げませんが…必死に反省なさっている事は私にもわかります。」
セリーナが思っていたよりティナに心配を掛けてしまっていたようだ。
「別に…コーエン様に怒ってるわけじゃないの。冷静に考えれば仕方ない事だったのだろうと思うし…。」
「では、何故その様に悩んでいらっしゃるのですか?」
「…話し合ったら、理解しないといけない。謝られたら、許さないといけない。まだその心の準備が出来ていないのかも。」
ー小さなすれ違いが別れの要因となりかねないので、少しでも心がすれ違うのを感じたら、言葉を尽くして相手に寄り添う努力が必要です。
自分で占った結果なのだ。
セリーナも話し合わなくてはいけないと思っている。
コーエンが何度も話をしたそうにしていた事ももちろん気付いている。
でも…謝られたら、私はどうするのだろう。
許すのだろうか。別にリードの指示があった事だとしても、コーエンがディベル家への婿入りを望んでいるなら、彼は結婚相手として申し分のない条件だった。
それとも、許さない事を選んで、その口約束自体も全て無かったことにしたいのだろうか。
まだ彼と向き合う心の準備が出来ていなかった。
「聖女様、リード殿下のお越しですが、お通ししてよろしいでしょうか?」
日替わりで塔の事を手伝いに来てくれる侍女が、部屋に顔を覗かせた。
「えぇ、もちろんよ。あっ、リード殿下のお茶の用意をお願い出来る?それが終わったら、少し休んで。ペストリー・エクランのエクレアがあるの!沢山あるから、控えの間でティナと食べて。」
殿下がお越しと聞き、ティナが自分の茶器を片付けている。
流石にいくらセリーナがティナと友人の様に接していたとしても、皇太子殿下と侍女が同じ席につく事は許されない。
「ありがとうございます。聖女様。すぐにお通しします。」
ティナと侍女によって手早くリードの分のお茶の用意が整った頃に、リードが部屋に現れた。
「あぁ、お茶の時間だったか…。邪魔したな。」
「別に、リード殿下のお越しが突然なのは今に始まった事じゃありませんから。」
「俺は誰かさんと違って忙しいんだ。」
「私も誰かさんに塔に閉じ込められたりしなければ、適齢期ですので、今頃婚活に大忙しでしたよ。」
お互いの嫌味に、2人は思わず自然な笑顔を浮かべる。
「婚活の手間が省けたと感謝して欲しいくらいだがな。皇太子の乳母兄弟が旦那になるんだ。コーエンの実力ならそれなりの爵位さえあれば、誰よりも政務で重宝されるだろう。」
「…。とにかくお掛けになって下さい、お忙しい皇太子殿下。折角お越し頂いたので、お茶の一杯でも召し上がって行って下さいね。」
セリーナの返答に、まだコーエンとの仲が修復してないとわかると、リードはそれ以上何も言わずに、勧められるがままに席に着いた。
「疲れの取れる魔術のかかった茶を頼む。」
リードの冗談にセリーナは笑いながらティーポットのお茶を手ずから注いだ。
「お疲れなんですね。アビントン伯爵領の件ですか?」
「それもあるが、来月のクラリスの結婚式に行くために、前もって片付けておく仕事が多くてな…。お前にも招待状が届いていると聞いたが?」
そう言うと、リードが紅茶を口にした。
リードの言う通り、セリーナの元へもミルワード王国の紋章の入った綺麗な書簡が届いていた。
…アドルフ殿下はあぁ言って誘って下さったのだけど、社交辞令だろうと思ってたわ。
それはそうだ。
王族の結婚式である。
その来賓は錚々たるもので、仲がいいからと誰彼構わず招待していいものではないだろう。
「はい、私も是非お連れ頂けますか?」
「それがあちらの望みだからな。だが、警護など…あちらの国に入国出来る人数の問題でコーエンは連れて行けないのだが…。」
リードの中で、セリーナとコーエンはセットだった。
結婚式となれば晩餐も伴うだろうから、コーエンを連れて行けないとなれば、自然とセリーナのエスコートは自分の役目になる。
「あぁ…はい。それは大丈夫…というか、その方がいいです。」
セリーナの反応に、リードは眉をピクリと動かすだけだった。
「ところで、占いの結果は出たか?」
「あぁ、はい。丁度先程見返していたところで…。」
リードに資料を見せようと、セリーナはデスクから紙の束を持って来る。
「で?」
「結果から言いますと、アビントン伯爵の性格からして、何か大きな悪事は出来ないのでは無いかと思います。」
「そう思う理由は?」
リードが身を乗り出す。
言葉は少ないが、彼が占い結果に強い関心を持っている姿勢だと、セリーナにも最近わかって来た。
「伯爵の性格ですが、良くも悪くも人に流されがちです。強く言われれば、嫌なことでも多少我慢して溜め込んでしまう性格をしています。彼が悪事を行ったとしたら、悪事が表に出るのを隠そうとする可能性はありますが、その方法はどれもその場限りの物です。」
「なるほど。伯爵には悪事の才能がないと…。」
「えぇ、そもそも人を束ねる力…統率力のあまりない人物ですので、大規模な悪事は行えません。」
じゃあ、鉱山の問題はどうなるのだろう…。
セリーナは占い結果が不安になり、リードを見るが、彼はセリーナの不安に反して満足そうな顔をした。
「大変参考になった。すまないが、この後やる事が出来たので、これで失礼する。」
そして、セリーナに質問の時間も与えずに、さっさと立ち去ってしまった。
「何なのよ…スッキリしないじゃない。」
セリーナは数式がたくさん書き込まれた紙を再度上からなぞる様に目を通した。
「少し休憩して下さい。セリーナ様。」
ティナが資料が沢山並ぶデスクではなく、ソファーセットにお茶を並べたのは、彼女なりの休憩を取ってくれと言う無言の訴えだった。
「わかった。休憩にするわ。良かったらティナも一緒にお茶しましょ。」
「そのつもりでしたっ!」
ティナがにっこりといい笑顔を浮かべる。
「本当、ティナには敵わないわ。」
セリーナがソフィアに座ると、ティナがお皿と小さな箱を持って来た。
「今日のデザートはセリーナ様のお好きなエクレアですよ!なんと王都で一番人気のお店の物だとか。」
その箱にはセリーナも知る有名ペストリーの物だ。
「えっ、ペストリー ・エクランの物!?だって何時間も並ばないと買えないって聞くわよ。」
「そうなんです。朝早くにコーエン様が届けて下さいました。今日は会いに来れないけど、セリーナ様によろしく伝えて欲しいと仰ってましたよ。」
「コーエン様が…。」
セリーナのその反応を見て、ティナはエクレアをお皿に取り分けながら、心配そうに口を開いた。
「…まだ、仲直りなさってないのですか?コーエン様が何をなさってセリーナ様のお怒りを買ったかは存じ上げませんが…必死に反省なさっている事は私にもわかります。」
セリーナが思っていたよりティナに心配を掛けてしまっていたようだ。
「別に…コーエン様に怒ってるわけじゃないの。冷静に考えれば仕方ない事だったのだろうと思うし…。」
「では、何故その様に悩んでいらっしゃるのですか?」
「…話し合ったら、理解しないといけない。謝られたら、許さないといけない。まだその心の準備が出来ていないのかも。」
ー小さなすれ違いが別れの要因となりかねないので、少しでも心がすれ違うのを感じたら、言葉を尽くして相手に寄り添う努力が必要です。
自分で占った結果なのだ。
セリーナも話し合わなくてはいけないと思っている。
コーエンが何度も話をしたそうにしていた事ももちろん気付いている。
でも…謝られたら、私はどうするのだろう。
許すのだろうか。別にリードの指示があった事だとしても、コーエンがディベル家への婿入りを望んでいるなら、彼は結婚相手として申し分のない条件だった。
それとも、許さない事を選んで、その口約束自体も全て無かったことにしたいのだろうか。
まだ彼と向き合う心の準備が出来ていなかった。
「聖女様、リード殿下のお越しですが、お通ししてよろしいでしょうか?」
日替わりで塔の事を手伝いに来てくれる侍女が、部屋に顔を覗かせた。
「えぇ、もちろんよ。あっ、リード殿下のお茶の用意をお願い出来る?それが終わったら、少し休んで。ペストリー・エクランのエクレアがあるの!沢山あるから、控えの間でティナと食べて。」
殿下がお越しと聞き、ティナが自分の茶器を片付けている。
流石にいくらセリーナがティナと友人の様に接していたとしても、皇太子殿下と侍女が同じ席につく事は許されない。
「ありがとうございます。聖女様。すぐにお通しします。」
ティナと侍女によって手早くリードの分のお茶の用意が整った頃に、リードが部屋に現れた。
「あぁ、お茶の時間だったか…。邪魔したな。」
「別に、リード殿下のお越しが突然なのは今に始まった事じゃありませんから。」
「俺は誰かさんと違って忙しいんだ。」
「私も誰かさんに塔に閉じ込められたりしなければ、適齢期ですので、今頃婚活に大忙しでしたよ。」
お互いの嫌味に、2人は思わず自然な笑顔を浮かべる。
「婚活の手間が省けたと感謝して欲しいくらいだがな。皇太子の乳母兄弟が旦那になるんだ。コーエンの実力ならそれなりの爵位さえあれば、誰よりも政務で重宝されるだろう。」
「…。とにかくお掛けになって下さい、お忙しい皇太子殿下。折角お越し頂いたので、お茶の一杯でも召し上がって行って下さいね。」
セリーナの返答に、まだコーエンとの仲が修復してないとわかると、リードはそれ以上何も言わずに、勧められるがままに席に着いた。
「疲れの取れる魔術のかかった茶を頼む。」
リードの冗談にセリーナは笑いながらティーポットのお茶を手ずから注いだ。
「お疲れなんですね。アビントン伯爵領の件ですか?」
「それもあるが、来月のクラリスの結婚式に行くために、前もって片付けておく仕事が多くてな…。お前にも招待状が届いていると聞いたが?」
そう言うと、リードが紅茶を口にした。
リードの言う通り、セリーナの元へもミルワード王国の紋章の入った綺麗な書簡が届いていた。
…アドルフ殿下はあぁ言って誘って下さったのだけど、社交辞令だろうと思ってたわ。
それはそうだ。
王族の結婚式である。
その来賓は錚々たるもので、仲がいいからと誰彼構わず招待していいものではないだろう。
「はい、私も是非お連れ頂けますか?」
「それがあちらの望みだからな。だが、警護など…あちらの国に入国出来る人数の問題でコーエンは連れて行けないのだが…。」
リードの中で、セリーナとコーエンはセットだった。
結婚式となれば晩餐も伴うだろうから、コーエンを連れて行けないとなれば、自然とセリーナのエスコートは自分の役目になる。
「あぁ…はい。それは大丈夫…というか、その方がいいです。」
セリーナの反応に、リードは眉をピクリと動かすだけだった。
「ところで、占いの結果は出たか?」
「あぁ、はい。丁度先程見返していたところで…。」
リードに資料を見せようと、セリーナはデスクから紙の束を持って来る。
「で?」
「結果から言いますと、アビントン伯爵の性格からして、何か大きな悪事は出来ないのでは無いかと思います。」
「そう思う理由は?」
リードが身を乗り出す。
言葉は少ないが、彼が占い結果に強い関心を持っている姿勢だと、セリーナにも最近わかって来た。
「伯爵の性格ですが、良くも悪くも人に流されがちです。強く言われれば、嫌なことでも多少我慢して溜め込んでしまう性格をしています。彼が悪事を行ったとしたら、悪事が表に出るのを隠そうとする可能性はありますが、その方法はどれもその場限りの物です。」
「なるほど。伯爵には悪事の才能がないと…。」
「えぇ、そもそも人を束ねる力…統率力のあまりない人物ですので、大規模な悪事は行えません。」
じゃあ、鉱山の問題はどうなるのだろう…。
セリーナは占い結果が不安になり、リードを見るが、彼はセリーナの不安に反して満足そうな顔をした。
「大変参考になった。すまないが、この後やる事が出来たので、これで失礼する。」
そして、セリーナに質問の時間も与えずに、さっさと立ち去ってしまった。
「何なのよ…スッキリしないじゃない。」
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