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4章 事件解決編
3 伯爵令嬢は噂を知る
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リードが突然部屋を訪れては、また突然帰って行った日から数日、セリーナは悶々としながら過ごしていた。
いつもであれば、自分の占いによってどの様な事になったのか、リードやコーエンからすぐに報告があるのに、今回はあれっきり、二人の姿どころか声さえも聞かない。
セリーナは二人が疑っていたアビントン伯爵について、そこまで大きな罪を犯せる人物ではないと占いの結果を伝えた。
その事により、今回の事が振り出しに戻り忙しくしているのだろうか…。
振り出しに戻ったのであれば、何か自分にも手伝える事があるはずなのに…その依頼さえない。
「…なんで、私だけのけ者なのよ。」
セリーナの呟きに、彼女の出掛ける支度を手伝っていたティナはビクっと肩を震わせた。
「…もしかして、セリーナ様のお耳にも…?」
ティナが恐る恐るそう言うが、セリーナには何の事だかサッパリわからない。
むしろ、何の情報も耳に入って来ないから悶々としているのだ。
「何の事?もしかして、ティナ…何か知ってるの?」
セリーナが勢いよく振り返り、逃がさないぞとばかりにティナの手を掴んだ。
「えっ!?いえ、私は…あんな噂、嘘に決まってます!」
「噂…?」
益々訳がわからない。
セリーナが首を傾げると、ティナはそこで初めて自分がやらかした事に気が付いた。
「いえ、ご存知でないなら、セリーナ様のお耳に入れるような事ではありませんのでっ!あっ、今日のドレスにはあちらのリボンの方が似合いますね。私、取ってきます!」
ティナがセリーナに背を向けて去っていこうとするが、その手はセリーナにガッツリ掴まれており離して貰えない。
「ティナ!噂って何なの?教えてっ!お願い。」
その瞳は、話すまで絶対手を離さないと爛々と語っている。
ティナは諦めたようにセリーナに向き直った。
「今から話すお話はただの噂ですよ!と言うか、むしろ嘘です。そんなはずありませんからっ!絶対信じちゃダメですからね。」
ティナの念の押しように、セリーナは苦笑いをして頷いた。
「絶対信じないわ。さぁ、話して!」
「あの…コーエン様が最近、他のご令嬢と頻繁に会われているという噂があって…。」
「他の…?」
セリーナにとっては寝耳に水だ。
仕事が忙し過ぎて、時間がないのだろうと考えてたコーエンがまさか他のご令嬢と…。
「それが…アーサフィス侯爵令嬢…らしいんです。」
あの後、ティナが「ただの噂ですよ!嘘!嘘ですから!」と必死に言っていた様子を思い出して、セリーナは思わずふふっと思い出し笑いをした。
ティナは私が傷付いたと思ったのだろうか…。
「セリーナ様、何か楽しいことでもありましたか?」
マリアーナがセリーナの顔を不思議そうに覗き込んだ。
今、セリーナはマリアーナに誘われて、ラナフィス伯爵邸でお茶をよばれていた。
他にはドロシーもおり、セリーナからすると気兼ねのない友人達だ。
先日の夜会で再会を果たしてから、3人は度々集まり、以前の様に恋やお洒落やスイーツの話に花を咲かせていた。
「あっ、すいません。ちょっと侍女の事を思い出してしまって。普段はしっかりした子なんですけど、偶にドジなところもあって…。」
でも、やはり私を傷付けたと勘違いさせてしまったなら、あの時しっかり訂正してあげれば良かった。
傷付いた訳ではないのだと、ただ、唖然としてしまって…言葉が出てこなかっただけだ。
先日まで自分に許しを乞おうと必死だった人物が、その数日後には別のご令嬢と逢引をしていた。
しかも、その相手がコーエン自ら「あんな女」呼ばわりしていたアーサフィス侯爵令嬢とは…。
どう反応しろと言うのか…。
「でも、良かったです!私達、セリーナ様の事を心配していたのですけど、お元気そうで本当に良かった!」
ドロシーが明るい声を上げたが、それをマリアーナが視線で咎めると、すぐにあわあわと視線を漂わせた。
何だか、ドロシーは少しティナと似ている気がする。
「お噂の事、お二人もご存知だったんですね。」
「あの…すいません。私ったら、失礼な事を…。」
「いえ、気にしないで下さい。私もその話は耳にしたばかりで、あまり詳しくは知らないので、お二人のご存知の事を教えていただけますか?」
「えっ…でも…それは…」
ドロシーとマリアーナが顔を見合わせるので、セリーナは二人を安心させるために微笑んでみせた。
実際に強がっている訳ではなく、微笑むくらいの余裕はあるのだ。
「あの…私はアーサフィス侯爵令嬢から直接話を聞いたと言うご令嬢から聞いたのですが…どうやら、ブルーセル子爵令息がお詫びの為に何度もその…アーサフィス侯爵邸を訪れたと…。」
ドロシーはしどろもどろに話し始めた。
「お詫び?」
「えぇ、たぶんパーティーで侯爵令嬢を立てる事が出来なかったお詫び…かと。」
あれは明らかにあちらが勝手に言い掛かりを付けてきたのだから、立てようと思っても立てる事は難しかったのでは…。
それにしても…そう、お詫び…ね。
セリーナは少し表情を暗くする。
コーエンがアーサフィス侯爵令嬢に詫びたとなれば、話はセリーナの事に及んだに違いない。
コーエン様は私の事を何と言ったのだろうか…。
私の前でアーサフィス侯爵令嬢の事を話した時の様に「あんな女」と言っているに違いない。
そして、皇太子の命令でなければエスコートなどしていない…と。
セリーナがそうアーサフィス侯爵令嬢に弁明するコーエンを想像する事は、とても簡単な事だった。
いつもであれば、自分の占いによってどの様な事になったのか、リードやコーエンからすぐに報告があるのに、今回はあれっきり、二人の姿どころか声さえも聞かない。
セリーナは二人が疑っていたアビントン伯爵について、そこまで大きな罪を犯せる人物ではないと占いの結果を伝えた。
その事により、今回の事が振り出しに戻り忙しくしているのだろうか…。
振り出しに戻ったのであれば、何か自分にも手伝える事があるはずなのに…その依頼さえない。
「…なんで、私だけのけ者なのよ。」
セリーナの呟きに、彼女の出掛ける支度を手伝っていたティナはビクっと肩を震わせた。
「…もしかして、セリーナ様のお耳にも…?」
ティナが恐る恐るそう言うが、セリーナには何の事だかサッパリわからない。
むしろ、何の情報も耳に入って来ないから悶々としているのだ。
「何の事?もしかして、ティナ…何か知ってるの?」
セリーナが勢いよく振り返り、逃がさないぞとばかりにティナの手を掴んだ。
「えっ!?いえ、私は…あんな噂、嘘に決まってます!」
「噂…?」
益々訳がわからない。
セリーナが首を傾げると、ティナはそこで初めて自分がやらかした事に気が付いた。
「いえ、ご存知でないなら、セリーナ様のお耳に入れるような事ではありませんのでっ!あっ、今日のドレスにはあちらのリボンの方が似合いますね。私、取ってきます!」
ティナがセリーナに背を向けて去っていこうとするが、その手はセリーナにガッツリ掴まれており離して貰えない。
「ティナ!噂って何なの?教えてっ!お願い。」
その瞳は、話すまで絶対手を離さないと爛々と語っている。
ティナは諦めたようにセリーナに向き直った。
「今から話すお話はただの噂ですよ!と言うか、むしろ嘘です。そんなはずありませんからっ!絶対信じちゃダメですからね。」
ティナの念の押しように、セリーナは苦笑いをして頷いた。
「絶対信じないわ。さぁ、話して!」
「あの…コーエン様が最近、他のご令嬢と頻繁に会われているという噂があって…。」
「他の…?」
セリーナにとっては寝耳に水だ。
仕事が忙し過ぎて、時間がないのだろうと考えてたコーエンがまさか他のご令嬢と…。
「それが…アーサフィス侯爵令嬢…らしいんです。」
あの後、ティナが「ただの噂ですよ!嘘!嘘ですから!」と必死に言っていた様子を思い出して、セリーナは思わずふふっと思い出し笑いをした。
ティナは私が傷付いたと思ったのだろうか…。
「セリーナ様、何か楽しいことでもありましたか?」
マリアーナがセリーナの顔を不思議そうに覗き込んだ。
今、セリーナはマリアーナに誘われて、ラナフィス伯爵邸でお茶をよばれていた。
他にはドロシーもおり、セリーナからすると気兼ねのない友人達だ。
先日の夜会で再会を果たしてから、3人は度々集まり、以前の様に恋やお洒落やスイーツの話に花を咲かせていた。
「あっ、すいません。ちょっと侍女の事を思い出してしまって。普段はしっかりした子なんですけど、偶にドジなところもあって…。」
でも、やはり私を傷付けたと勘違いさせてしまったなら、あの時しっかり訂正してあげれば良かった。
傷付いた訳ではないのだと、ただ、唖然としてしまって…言葉が出てこなかっただけだ。
先日まで自分に許しを乞おうと必死だった人物が、その数日後には別のご令嬢と逢引をしていた。
しかも、その相手がコーエン自ら「あんな女」呼ばわりしていたアーサフィス侯爵令嬢とは…。
どう反応しろと言うのか…。
「でも、良かったです!私達、セリーナ様の事を心配していたのですけど、お元気そうで本当に良かった!」
ドロシーが明るい声を上げたが、それをマリアーナが視線で咎めると、すぐにあわあわと視線を漂わせた。
何だか、ドロシーは少しティナと似ている気がする。
「お噂の事、お二人もご存知だったんですね。」
「あの…すいません。私ったら、失礼な事を…。」
「いえ、気にしないで下さい。私もその話は耳にしたばかりで、あまり詳しくは知らないので、お二人のご存知の事を教えていただけますか?」
「えっ…でも…それは…」
ドロシーとマリアーナが顔を見合わせるので、セリーナは二人を安心させるために微笑んでみせた。
実際に強がっている訳ではなく、微笑むくらいの余裕はあるのだ。
「あの…私はアーサフィス侯爵令嬢から直接話を聞いたと言うご令嬢から聞いたのですが…どうやら、ブルーセル子爵令息がお詫びの為に何度もその…アーサフィス侯爵邸を訪れたと…。」
ドロシーはしどろもどろに話し始めた。
「お詫び?」
「えぇ、たぶんパーティーで侯爵令嬢を立てる事が出来なかったお詫び…かと。」
あれは明らかにあちらが勝手に言い掛かりを付けてきたのだから、立てようと思っても立てる事は難しかったのでは…。
それにしても…そう、お詫び…ね。
セリーナは少し表情を暗くする。
コーエンがアーサフィス侯爵令嬢に詫びたとなれば、話はセリーナの事に及んだに違いない。
コーエン様は私の事を何と言ったのだろうか…。
私の前でアーサフィス侯爵令嬢の事を話した時の様に「あんな女」と言っているに違いない。
そして、皇太子の命令でなければエスコートなどしていない…と。
セリーナがそうアーサフィス侯爵令嬢に弁明するコーエンを想像する事は、とても簡単な事だった。
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