前世占い師な伯爵令嬢は、魔女狩りの後に聖女認定される

皐月 誘

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5章 夢の結婚式編

2 皇子は伯爵令嬢と夕食を共にする

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クラリスの結婚式の為にミルワード王国へ出向いたリードだが、まだ国ではコーエンを始めとした臣下達が鉱山の後処理に追われており、手放しで休暇を楽しむ状況ではなかった。

与えられた部屋に備え付けられている机は持ち込んだ資料で溢れ返っているが、このペースで片付ければ、なんとか最終日には街を散策する時間くらいは作れるだろうか。

街へ連れて行くと約束した時のセリーナの嬉しそうな顔を思い出しながら伸びをした所に、トントンとドアがノックされた。

「夕食のご用意はいかが致しましょうか?」

女性の声が聞こえる。

入り口に護衛を立たせているが、このドアをノックして声を掛けられると言う事は、間違いなくこの城の侍女だろう。

通常、他国の城に滞在するとなれば、その国の王族と晩餐を共にするものだが、今回は結婚式に参加をする為に様々な国から来賓がある。

そんな中で一ヶ国のみと晩餐を共にする訳にもいかないという事情があり、今日の夕食は部屋か、もしくは解放された晩餐室で取る様にと事前に説明を受けていた。

その代わり、明日の結婚式の後は来賓全員が参加する晩餐会が開かれるのだ。

「すぐに運んでくれ。」

手短に答えた後に、リードは少し考えて付け足した。

「…隣の部屋の分もこちらに頼む。」



テーブル越しに座ったセリーナは、何とも複雑な表情をしていた。

「私、晩餐室で頂く予定だったのですが…。」

我が国の国民で、俺が夕食に誘ってここまで露骨に嫌そうな顔をするのはこいつくらいだろうな。

リードはふんっと鼻を鳴らした。

別に嫌な気はしない。
それどころか、セリーナのそういう裏表の無いところを好ましいとさえ思っている。

「お前みたいなマナーの怪しい者を一人で晩餐室に行かせる訳がないだろう。グリフィス王国の名に泥を塗るつもりか。」

「なっ、私だって食事のマナーくらいちゃんと出来ます!」

セリーナがムキになる様子が見たくて、わざわざ揶揄っただけで、リードはセリーナのマナーに問題がない事は知っている。

セリーナの教育に付けた教師達からもマナーに関しては問題ないと報告を受けているし、実際に接していてもセリーナの行動で気分を害される事などほとんどないからだ。

「それに様々な国から人々が集まっているのだ。余計な虫がたかってはいけないからな。」

リードは自分の発言にキョトンと目を丸くするセリーナを見て、初めて自分の発言の内容を意識した。

なっ…何がいけないと言うのだ。
別にこいつが何処の王侯貴族に言い寄られようと、俺には関係ないだろ…。

「…そんな事があっては、コーエンに悪いと言う意味だっ!」

何とか捻り出した言い訳に、セリーナは今度は困惑の表情を浮かべたので、リードは薄々気付いていた事を敢えて確認する事にした。

「お前…コーエンと喧嘩でもしたのか?」

「…距離を置いて…婚約についても考え直したいと言いました。」

カチャカチャとカタラリーの音に混ざって、セリーナがポツリと呟く様に言った。

上手く行っていない事はセリーナの表情にそのまま書いてあったので、リードはまさか返答があると思っておらず、思わず一瞬たじろいだ。

コーエンが彼女を好いている事は、その態度を見れば明らかだったし、セリーナもコーエンに好意を抱いているのだろうと感じていた。

そんな二人の関係性に変化があったと感じたのはここ数週間の事だった。
まさか、婚約という話まで進んでいるとは予想外ではあったが…。

「…そうか。」

「コーエン様には酷いことをしました。私、自分の気持ちがわからなくなってしまって。」

セリーナがポツリポツリと話す。
彼女は自分に何を求めているのだろう。
懺悔をして楽になりたかったのか、それともコーエンと親しい自分に責めて欲しかったのか…。

残念ながら、そのどちらも与えてやる事が出来ないと、リードは小さく首を振った。

「自分の気持ちがわからない…と言うのも、お前の正直な気持ちなのだろう。その正直な気持ちで向き合ったのなら別にお前が罪を感じる必要はない。」

リードの言葉にセリーナは手元に落としていた視線を上げると、二人は意図せず見つめ合う形となった。

「…俺はお前が条件ではなく、自分の気持ちに従って結論を出したと言うなら、それを羨ましく思う。俺は常に国の事を一番に考え、自分の気持ちは前に出してはいけないと言われて来たからな。」

そうリードは皇太子として生まれ育ち、一見すると欲しいものは何でも与えられている様だが、本当の所は自分で選択出来る物などそう多くは無かった。

常に国の為になる選択をしなければならない。

それが自分に課せられた義務であり、宿命だった。
だから、好き嫌いなどの自分の気持ちは意識しない方が一層気楽だったのだ。

だけど、自分と同じだと思っていたクラリスが、婚約を白紙に戻してまで他の人と婚姻を結びたいのだと言った時、リードはそれまでの自分の中の常識が崩れた様な気がしていた。

そして、前回の夜会で会ったクラリスや、今日の彼女を見て、自分の気持ちに従うと言うのはどう言う気持ちなのだろう…と羨望の気持ちが芽生えていた。

「リード殿下…。」

どこまでリードの立場や気持ちを理解したのかはわからないが、セリーナは悲しそうに眉を寄せた。

こいつにこんな悲しい表情をさせるつもりでは無かったんだが…。

リードはどうやら自分が失言したらしい事に気付き、苦笑した。

「そんな深刻な顔をするな。クラリスなどは俺の事を笑っていたぞ。そう言えばお前に将来の伴侶でも占って貰えばどうかとも言っていた。」

だから、お前も気にせずに哀れな皇太子だと笑えばいいのだと伝えようとして口にした言葉に、セリーナは真剣な表情で言った。

「占い…ますか?」
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