永遠に君を手放さないと誓った、あの日の僕へ――裏切られ令嬢の逆転婚約劇

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第24話 記憶に刻まれた誓い

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王都を覆う夜霧は深く、冷たかった。  
鐘の音が遠くから響き、兵士たちの足音が石畳を叩く。  
急報は真実だった。城門付近で騒乱が起きている。  
それは小規模な暴動に見せかけられた襲撃――王家を脅かす陰謀の第二幕だった。  

オーウェンとリディアは馬を降り、城門前で混乱する騎士団の輪の中へと進んだ。  
炎に照らされ、瓦礫の隙間から落ちた旗の破片が転がっている。  
その紅の布には、王家の紋章が焼け焦げた形で残されていた。  

「……まさか、兄上の派閥内部から反乱が?」  
「信じたくありませんが、状況だけ見ると――」  
リディアが言葉を途中で止めた瞬間、一人の将校が駆け込んできた。  

「殿下! こちらへ!」  
彼らが案内されたのは、負傷兵の集められた仮設の天幕だった。  
包帯を巻かれた騎士たちが並び、呻き声が絶えない。  
オーウェンの顔から血の気が引いた。  
「これは……何が起きた」  
「内通者がいました。北部連合との交渉書を持った使者が殺され、その罪を殿下に着せようとしたのです。  
 陛下の署名が勝手に使われ、王政全体が混乱しております!」  

「……兄上だ」  
オーウェンは俯いた。  
グレゴールの計画だとはっきり言わずとも、そこに彼の影を感じ取る。  

リディアが肩に手を置く。  
「殿下。どうか冷静に。今は状況を正すことが優先ですわ」  
「私の存在こそ、もう災いになっているのです。どんなに正しい道を選ぼうとしても、誰かが私を利用する」  

リディアはオーウェンの腕を強く掴んだ。  
「殿下。誰が利用しようとも、殿下が信じ続ける限り、その理想は奪えません。  
 殿下が何を信じ、どんな国を望むのか、わたくしはそれを見てきました。だから、立ち上がるべきです」  

オーウェンは数秒の沈黙の後、小さく頷いた。  
「……リディア、あなたがそう言うなら」  

* * *  

夜明け前、王宮の謁見室。  
静寂の中、グレゴールが立っていた。  
彼の指先には、王位の証たる象徴の指輪――オーウェンが返した紋章の戒がきらめいている。  
背後には数名の貴族、それぞれが彼に忠誠を誓う重臣たちだった。  

扉が開き、血に汚れた外套のままのオーウェンが現れる。  
リディアもその後ろに付き従う。  

「弟よ。……夜明け前に帰るとは珍しい」  
「兄上こそ、王座の前でずいぶんと早起きですね」  
緊張が走る。  
その場にいる全員が息を潜め、兄弟の視線の火花を見守った。  

「――答えてください、兄上。あの混乱の裏にあなたの名があったと聞きました。  
 王家を守るための政治なのか、それともただ自分の権を守りたいのか」  
グレゴールはしばし黙し、やがて深い息を吐いた。  

「オーウェン。理想だけでは国は救えん。お前のやろうとしている改革は、貴族を敵に回し、王国そのものを崩しかねない」  
「そう言われることは何度もありました。でも、では聞かせてください――民は、今、幸福なのでしょうか?」  

グレゴールの目が揺らいだ。  
その一瞬の沈黙が、確かに答えだった。  

リディアが前に出る。  
「殿下。誰も殿下を責めません。ですが、もうご覧のはずです。改革は止まりません。  
 恐れではなく希望で人を束ねる時代が、すぐそこにある」  
「……フェルナンド嬢。君は実に恐ろしい女だな。  
 人の痛みを知っているくせに、なお立ち上がる。その強さが弟を変えた」  
「強さではなく、信じた結果です」  

グレゴールがゆっくりと王座に手を置いた。  
その瞬間、後ろの貴族たちがざわめいた。  

「第一王子グレゴール殿下に叛意ありとの報告がございます!」  
外から騎士団の声が上がる。  
扉が開き、鎧の音が乱れ飛んだ。  
「何だと!」  
「北部議会にて、殿下の名を使った偽勅が出回っております! 逮捕命令はすでに無効を確認!」  

グレゴールの顔が蒼ざめた。  
「……私の部下が勝手に?」  
リディアが静かに語りかける。  
「いいえ、民が自ら立ち上がったのです。殿下が恐れてきた“変革”は、もう止まりません。  
 王国が立ち直るために必要なのは、権威ではなく信頼です」  

オーウェンが一歩進み出た。  
「兄上。……どうか私と共に未来を見てください。過去の責務に縛られるのではなく、これからの誓いを」  

長い沈黙ののち、グレゴールはわずかに目を閉じた。  
「お前は父上に似ている。愚かしく、しかし美しい理想を信じるところがな」  

その言葉と共に、彼は玉座から降り、右手に握っていた紋章の指輪を差し出した。  
「王の証は、お前が持て。……私には、もう民に顔向けする資格がない」  
オーウェンはその手を取らなかった。  
「いえ。兄上の罪は、兄上の手で償うべきです。王家に必要なのは二人の兄弟です」  

グレゴールはかすかに笑い、肩を落とした。  
「……弟に諭されるとはな。王座の前で私が折れる日が来るとは思わなかった」  

* * *  

それから数時間後、王宮前には朝日が昇った。  
空は雲一つなく、秋の光がまっすぐに差し込んでいる。  
オーウェンとリディアは並んで中庭に立っていた。  

「殿下。これで、すべてが終わるのですか?」  
「終わりではありません。始まりです。兄上は私と共に公に謝罪をし、政を分け合うことになる。  
 父上の名のもとに、初めて“共存の王家”が誕生する」  

リディアはその言葉を聞いて静かに微笑む。  
「殿下が変われば、国も変わる。……これがわたくしの見たかった未来です」  
オーウェンは小さく笑い、ふいに顔を寄せた。  
風が二人の髪を揺らす。  

「リディア。あなたがいてくれたから私はここに立てた。  
 あなたの言葉はいつも、私のためにあるようで、実は国のためにある。そんな女性を、私は他に知らない」  
「殿下こそ。わたくしが誰かを導けたのは、殿下が道を示してくださったからです」  
「……あなたは、私の光だ」  

彼の両手が彼女の頬を包み、額が触れる。  
リディアは目を閉じた。  
このぬくもりを、心の奥に焼き付けておこうと思った。  

「約束します。もう二度と、あなたを孤独にしません」  
「わたくしも、殿下を信じ続けます。何があっても」  

その瞬間、胸の中に刻まれた誓いがひとつになった。  
それは運命さえ書き換える、二人だけの誓い。  

王都の鐘が鳴る。  
新しい時代が、静かに息を吹き返していた。  

続く
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