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第3話 馬車の窓から見た、自由の空
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陽はまだ昇りきらない。朝の空は薄い灰色に霞み、遠くの山々がぼんやりと影を落としていた。
窓から覗くその景色を、リリアはぼんやりと見つめていた。
ヴァレンシュタイン公爵邸で三日目の朝。王都を離れて初めて、何の恐れもなく目を覚ました気がした。
身体に絡みついていた重しが、少しずつ溶けていくようだった。
「お嬢様、寝室の火をもう少し強めにしますね」
クレアの声が耳に届く。
振り向くと、暖炉の前で彼女が薪をくべていた。
その様子を見て、リリアは穏やかに笑んだ。
「ありがとう。ここの朝は本当に冷えるわね。」
「辺境ですからね。けれど、お肌には悪くないそうですよ」
クレアが冗談めかして言うと、リリアの頬にも微かな笑みが浮かぶ。
数日前まで笑う余裕などなかったのに、気づけば自然と笑っていた。
「今朝は市場へ行ってみませんか?」とクレアが提案した。
「市場?」
「領の商人たちが集まる場所です。村の人々とも顔を合わせる良い機会になるかと」
リリアは一瞬迷ったが、すぐに頷いた。
新しい土地での生活に慣れるためにも、外の空気を吸うのは悪くない。
何より、王都では決して出来なかった“普通の外出”に心が惹かれた。
馬車の準備を整え、簡素なマントを羽織る。
従者に見送られながら屋敷を出ると、白い雪が静かに舞っていた。
冷気が頬を刺すようだったが、それさえ今は心地よい。
馬車が動き出すと、リリアは小さな窓を開けた。
外の空気が一気に流れ込み、頬に触れた瞬間、胸がすっと軽くなる。
――自由の空って、こういう色をしているのね。
そう思った。王都の息苦しいきらめきとは違う、無垢で、嘘のない空の色。
道中、リリアはふと隣を見る。
御者台には一人の騎士が手綱を握っていた。
長身で、背中越しでも緊張感が伝わる。
昨日、レオンハルト公爵に命じられて護衛として随行することになった男、ユリシーズ・クロード。
彼は無骨な声で言った。
「道は滑ります。もし御身が寒いようなら、窓を閉めてください。」
「ありがとう。でも大丈夫。外の景色を見ていると、不思議と落ち着くの。」
ユリシーズはほんの一瞬だけ、背中越しに微かに笑ったように見えた。
「……公爵様も、昔はよくこうして景色を眺めておられました。」
「レオンハルト様が?」
「ええ。今はあまり笑わなくなりましたが、若い頃はよく遠出をしたものです。戦の前によく空を見上げていたと、古参の兵が話していました。」
リリアは興味深くその話を聞いた。
冷徹な公爵――そう呼ばれる男の過去を、彼女は何ひとつ知らない。
けれど、どこかで感じていた。あの厳しさの奥には、深い孤独があるのだと。
やがて馬車は村へ着いた。
リリアは外に出ると、小さな広場に人々が集まっているのが見えた。
露店が並び、パンや果実、羊毛製品などが活気よく売り買いされている。
「まあ……ここがヴァレンシュタイン領の市場なのね」
「ええ、週に一度だけ開かれるんですよ。領内でも一番人が集まる日です。」
クレアの説明に頷きながら、リリアは人々の間を歩いた。
王都の貴族として過ごしていた時間とは、まるで違う世界。
そこには、身分という壁よりも“生きるための誠実さ”があった。
ひとりの老婆が声をかけてきた。
「お嬢様、青い花はお好きですかい?」
「え?」
「雪解けの頃にしか咲かない花なんですが、珍しく今朝、一輪だけ見つけましてね。幸せを呼ぶって言われてるんです。」
老婆が差し出した籠に、薄青い小さな花が乗っている。
雪の中の空の欠片のように、儚く美しい。
リリアは思わず微笑んでそれを受け取った。
「可愛らしい花ですね。おいくらかしら?」
「お代はいりません。あんたの手に、その花が似合ってたものでね。」
そう言われ、リリアは言葉を失った。
“似合う”――王都では、そんな温かい言葉を誰からもかけられたことがなかった。
礼を述べ、花を胸に留める。
胸元がほんのりと温かい。
すると、村の少年が駆け寄ってきた。
「お嬢さん!危ないですよ!」
何かと思う間もなく、背後から荷馬車が軋んだ音を立てて突っ込んできた。
リリアは反射的に足を引こうとしたが、裾が絡み、動けない。
その瞬間だった――
鋭い腕が彼女の身体を引き寄せた。
ぎゅっと抱え込まれる。
馬が通り過ぎる風が頬を掠め、リリアは思わず目を閉じた。
胸元で感じる強い鼓動。
「大丈夫か。」
低く落ち着いた声。
顔を上げると、そこにいたのは――レオンハルト・ヴァレンシュタインその人だった。
「……こ、公爵様?」
「何をしていた。」
声は冷たく、しかしその手はしっかりと彼女を抱き留めていた。
「危うく轢かれるところだった。軽率な行動は慎め。」
「す、すみません……」
叱責の言葉に、リリアは小さく肩をすくめた。
けれど、その表情の奥にほんの少し焦りが見えた。
彼が彼女を腕の中に閉じ込めたまま、離そうとしない。
その事実に気づいた瞬間、頬が焼けるように熱い。
「……あの、公爵様。もう離していただけますか。」
「……ああ。」
短く答えると、ようやく手を緩めた。
だが、その掌に残る感触を、リリアも彼も簡単には振り払えなかった。
周囲の人々がざわめいている。
村人たちは恐る恐る膝を折り、頭を下げた。
「こ、このたびはとんだ失礼を!」
「いい。怪我人がいないならそれでいい。」
公爵の声は淡々としているが、威厳に満ちていた。
その場の空気が一瞬で整う。
彼がこの領地でどれほど人々に敬われているかが一目で分かった。
「帰るぞ。」
「えっ、でも市場は――」
「もう十分だ。」
有無を言わせぬ口調。
リリアは黙って頷き、馬車へ向かう。
しんとした空気の中、雪の粒が小さく降り出していた。
屋敷へ戻る道中、沈黙が続いた。
レオンハルトは前を向いたまま口を開かない。
リリアはその横顔を盗み見る。
彼の横顔には、厳しさと静けさとが共にあった。
やがて、彼がぽつりと呟いた。
「……怖くはなかったか。」
「え?」
「さっきのことだ。」
「いえ、驚きましたけれど……公爵様が助けてくださったので。」
「……そうか。」
それだけを言うと、再び視線を前に戻した。
けれど、その頬の線が微かに柔らいでいるのを、リリアは確かに見た。
雪原を走る馬車の窓から、夕陽が傾き始めた空をのぞく。
雪の結晶が光を反射し、炎のように煌めいた。
リリアの胸の奥にも、小さな灯りがともっていた。
恐怖だけでなく、不思議な安心と温もり。
それは、かつて王太子と過ごした日々とは全く違うものだった。
――冷たい空気の中にこそ、本当の優しさが生まれるのかもしれない。
彼女はそう思いながら、心の中で新しい決意を強く抱いた。
過去に囚われることなく、この地でまた歩き出してみせると。
それが、今日この空の下で得た一番の自由だった。
続く
窓から覗くその景色を、リリアはぼんやりと見つめていた。
ヴァレンシュタイン公爵邸で三日目の朝。王都を離れて初めて、何の恐れもなく目を覚ました気がした。
身体に絡みついていた重しが、少しずつ溶けていくようだった。
「お嬢様、寝室の火をもう少し強めにしますね」
クレアの声が耳に届く。
振り向くと、暖炉の前で彼女が薪をくべていた。
その様子を見て、リリアは穏やかに笑んだ。
「ありがとう。ここの朝は本当に冷えるわね。」
「辺境ですからね。けれど、お肌には悪くないそうですよ」
クレアが冗談めかして言うと、リリアの頬にも微かな笑みが浮かぶ。
数日前まで笑う余裕などなかったのに、気づけば自然と笑っていた。
「今朝は市場へ行ってみませんか?」とクレアが提案した。
「市場?」
「領の商人たちが集まる場所です。村の人々とも顔を合わせる良い機会になるかと」
リリアは一瞬迷ったが、すぐに頷いた。
新しい土地での生活に慣れるためにも、外の空気を吸うのは悪くない。
何より、王都では決して出来なかった“普通の外出”に心が惹かれた。
馬車の準備を整え、簡素なマントを羽織る。
従者に見送られながら屋敷を出ると、白い雪が静かに舞っていた。
冷気が頬を刺すようだったが、それさえ今は心地よい。
馬車が動き出すと、リリアは小さな窓を開けた。
外の空気が一気に流れ込み、頬に触れた瞬間、胸がすっと軽くなる。
――自由の空って、こういう色をしているのね。
そう思った。王都の息苦しいきらめきとは違う、無垢で、嘘のない空の色。
道中、リリアはふと隣を見る。
御者台には一人の騎士が手綱を握っていた。
長身で、背中越しでも緊張感が伝わる。
昨日、レオンハルト公爵に命じられて護衛として随行することになった男、ユリシーズ・クロード。
彼は無骨な声で言った。
「道は滑ります。もし御身が寒いようなら、窓を閉めてください。」
「ありがとう。でも大丈夫。外の景色を見ていると、不思議と落ち着くの。」
ユリシーズはほんの一瞬だけ、背中越しに微かに笑ったように見えた。
「……公爵様も、昔はよくこうして景色を眺めておられました。」
「レオンハルト様が?」
「ええ。今はあまり笑わなくなりましたが、若い頃はよく遠出をしたものです。戦の前によく空を見上げていたと、古参の兵が話していました。」
リリアは興味深くその話を聞いた。
冷徹な公爵――そう呼ばれる男の過去を、彼女は何ひとつ知らない。
けれど、どこかで感じていた。あの厳しさの奥には、深い孤独があるのだと。
やがて馬車は村へ着いた。
リリアは外に出ると、小さな広場に人々が集まっているのが見えた。
露店が並び、パンや果実、羊毛製品などが活気よく売り買いされている。
「まあ……ここがヴァレンシュタイン領の市場なのね」
「ええ、週に一度だけ開かれるんですよ。領内でも一番人が集まる日です。」
クレアの説明に頷きながら、リリアは人々の間を歩いた。
王都の貴族として過ごしていた時間とは、まるで違う世界。
そこには、身分という壁よりも“生きるための誠実さ”があった。
ひとりの老婆が声をかけてきた。
「お嬢様、青い花はお好きですかい?」
「え?」
「雪解けの頃にしか咲かない花なんですが、珍しく今朝、一輪だけ見つけましてね。幸せを呼ぶって言われてるんです。」
老婆が差し出した籠に、薄青い小さな花が乗っている。
雪の中の空の欠片のように、儚く美しい。
リリアは思わず微笑んでそれを受け取った。
「可愛らしい花ですね。おいくらかしら?」
「お代はいりません。あんたの手に、その花が似合ってたものでね。」
そう言われ、リリアは言葉を失った。
“似合う”――王都では、そんな温かい言葉を誰からもかけられたことがなかった。
礼を述べ、花を胸に留める。
胸元がほんのりと温かい。
すると、村の少年が駆け寄ってきた。
「お嬢さん!危ないですよ!」
何かと思う間もなく、背後から荷馬車が軋んだ音を立てて突っ込んできた。
リリアは反射的に足を引こうとしたが、裾が絡み、動けない。
その瞬間だった――
鋭い腕が彼女の身体を引き寄せた。
ぎゅっと抱え込まれる。
馬が通り過ぎる風が頬を掠め、リリアは思わず目を閉じた。
胸元で感じる強い鼓動。
「大丈夫か。」
低く落ち着いた声。
顔を上げると、そこにいたのは――レオンハルト・ヴァレンシュタインその人だった。
「……こ、公爵様?」
「何をしていた。」
声は冷たく、しかしその手はしっかりと彼女を抱き留めていた。
「危うく轢かれるところだった。軽率な行動は慎め。」
「す、すみません……」
叱責の言葉に、リリアは小さく肩をすくめた。
けれど、その表情の奥にほんの少し焦りが見えた。
彼が彼女を腕の中に閉じ込めたまま、離そうとしない。
その事実に気づいた瞬間、頬が焼けるように熱い。
「……あの、公爵様。もう離していただけますか。」
「……ああ。」
短く答えると、ようやく手を緩めた。
だが、その掌に残る感触を、リリアも彼も簡単には振り払えなかった。
周囲の人々がざわめいている。
村人たちは恐る恐る膝を折り、頭を下げた。
「こ、このたびはとんだ失礼を!」
「いい。怪我人がいないならそれでいい。」
公爵の声は淡々としているが、威厳に満ちていた。
その場の空気が一瞬で整う。
彼がこの領地でどれほど人々に敬われているかが一目で分かった。
「帰るぞ。」
「えっ、でも市場は――」
「もう十分だ。」
有無を言わせぬ口調。
リリアは黙って頷き、馬車へ向かう。
しんとした空気の中、雪の粒が小さく降り出していた。
屋敷へ戻る道中、沈黙が続いた。
レオンハルトは前を向いたまま口を開かない。
リリアはその横顔を盗み見る。
彼の横顔には、厳しさと静けさとが共にあった。
やがて、彼がぽつりと呟いた。
「……怖くはなかったか。」
「え?」
「さっきのことだ。」
「いえ、驚きましたけれど……公爵様が助けてくださったので。」
「……そうか。」
それだけを言うと、再び視線を前に戻した。
けれど、その頬の線が微かに柔らいでいるのを、リリアは確かに見た。
雪原を走る馬車の窓から、夕陽が傾き始めた空をのぞく。
雪の結晶が光を反射し、炎のように煌めいた。
リリアの胸の奥にも、小さな灯りがともっていた。
恐怖だけでなく、不思議な安心と温もり。
それは、かつて王太子と過ごした日々とは全く違うものだった。
――冷たい空気の中にこそ、本当の優しさが生まれるのかもしれない。
彼女はそう思いながら、心の中で新しい決意を強く抱いた。
過去に囚われることなく、この地でまた歩き出してみせると。
それが、今日この空の下で得た一番の自由だった。
続く
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