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第1話 あなたには価値がない
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冷たい雨が石畳を打ちつけていた。
私は城の裏門の前に立ち、濡れたマントの裾を握りしめていた。指先が震えている。寒さのせいではない。胸の奥が凍りついているのだ。
「早くしろ。雨がひどくなる前に帰れ」
背後から冷ややかな声が響く。元婚約者、アルフレッド・フォン・リヒトハイム。その声はかつて私に優しく囁かれたものと同じものとは思えなかった。
私は振り返らずに言った。
「最後に一つだけ、聞かせてください」
「時間の無駄だ。もう話すことなどない」
「なぜ……私を捨てたのですか?」
沈黙が降りる。雨音だけが響く中、アルフレッドはため息をついた。
「お前は聡明だと思っていたが、そうでもないようだな。理由など、一つしかないだろう」
彼はゆっくりと歩み寄り、私の前に立った。金髪に雨粒が光り、青い瞳は氷のように冷たい。かつてこの瞳が私を見るとき、こんなに冷たくなかったはずだ。
「お前には価値がないからだ」
その言葉に、胸が引き裂かれるような痛みを感じた。
「価値……?」
「そうだ。お前の父上は没落した。爵位は剥奪され、財産は没収された。今やお前はただの平民の娘。皇太子妃候補としての価値は完全に失われた」
「でも……婚約は、父上の地位とは関係なく……」
「関係ない? ふざけるな」
アルフレッドの声が鋭くなる。
「婚約とは政略だ。愛情ごっこではない。お前が侯爵令嬢だったからこそ、私はお前を選んだ。今やお前はただの荷物だ。皇太子として、荷物を抱えていられるほど暇ではない」
雨が強くなる。頬を伝う水滴が、涙なのか雨なのかわからなかった。
三年前、私は侯爵令嬢として、アルフレッドと婚約した。当時十六歳の私は、青い瞳の皇太子に一目惚れした。彼もまた、私を気に入ってくれたと信じていた。舞踏会で手を取り、庭園で散歩し、月明かりの下で将来の話をした。あの頃の彼は、優しく、誇り高く、そして私のことを大切に思ってくれているように見えた。
だが半年前、父上が汚職の疑いで告発された。真実かどうかはわからない。ただ、政敵の陰謀だったのかもしれない。だが結果は残酷だった。父上の爵位は剥奪され、家族は城を追われた。私は婚約破棄を覚悟していたが、アルフレッドは「心配するな」と言ったのだ。
「お前の父上が無実であると信じている。たとえ地位を失っても、私はお前を守る」
その言葉を信じ、私は耐えてきた。粗末な家で暮らし、かつての友人たちから避けられても、アルフレッドの言葉を胸に生きてきた。
だが三日前、宮廷から使者がやってきた。
「皇太子殿下より、エリザベート様へ。本日午後三時、城の裏門にてお会いしたいとのことです」
私は胸を躍らせた。ついに父上の汚名が晴れたのか、それともアルフレッドが私を正式に妻として迎えてくれるのか。私は古びたドレスを丁寧に磨き、髪を整え、裏門へと向かった。
そこで待っていたのは、冷たい雨と、そして婚約破棄の宣告だった。
「平民の娘と皇太子の婚約など、国中に笑われるだけだ。お前もわかっているだろう?」
私は首を振った。
「わかりません……あなたは言ったでしょう? 地位なんて関係ないと」
「子供だな。その程度の慰めの言葉を真に受けるとは」
アルフレッドは鼻で笑った。
「皇太子としての立場を守るためには、時には嘘も必要だ。お前が傷つかないように、多少の嘘をついたまでのことだ」
「嘘……?」
「そうだ。最初からお前のことは好きではなかった。ただ、侯爵令嬢という肩書きが欲しかったのだ。今やその肩書きは消えた。お前にはもう何の価値もない」
その言葉が、心臓を貫いた。
三年間。私はこの男を信じ、待ち続けた。父上が没落した後も、彼の言葉を信じて耐えてきた。友人たちから「皇太子はお前を捨てるだろう」と囁かれても、私は信じなかった。アルフレッドは違う、と。
だが全てが嘘だったのか。
「では……あの時の言葉も、全て嘘だったのですか?」
「どの言葉だ?」
「月明かりの下で……『永遠に愛する』と言ったでしょう?」
アルフレッドの顔にわずかな苛立ちが浮かんだ。
「男というものは、女を手に入れるために多少の美辞麗句を使うものだ。お前がそれを真に受けるとは思っていなかった。平民の娘ならともかく、侯爵令嬢ならその程度のことは理解しているものだと思っていたが」
平民の娘なら、と彼は言った。
かつて私を侯爵令嬢として扱い、今では平民として見下す。その変貌に、言葉も出なかった。
「もう十分だ。これ以上時間を無駄にしたくない」
アルフレッドは踵を返そうとした。その背中に、私は叫んだ。
「待ってください! せめて……せめて正式な婚約破棄の書類をください。父上が没落した今、私は婚約者としての立場を失っています。でも、正式に破棄されなければ、私は再婚もできません。これ以上、私を苦しめるつもりですか?」
アルフレッドは振り返り、嘲るように笑った。
「再婚? お前のような女が、誰に娶ってもらえるというのだ? 侯爵令嬢だった頃でさえ、お前を選んだのは私だけだ。平民になった今、お前には誰も見向きもしないだろう」
「それでも……正式な手続きを」
「面倒だ。書類など必要ない。今日この場で、婚約は破棄された。それで十分だ」
「そんな……」
「さあ、帰れ。ここはお前のいる場所ではない。平民は平民らしく、下町で暮らすがいい」
彼の言葉の一つ一つが、ナイフのように胸を抉る。
私は三年間、この男を信じてきた。父上が没落した後も、彼の言葉を支えに生きてきた。友人たちが去り、使用人たちが嘲笑い、かつての地位を失っても、私は耐えてきた。なぜなら、アルフレッドが私を待っていてくれると思っていたからだ。
だが全てが嘘だった。
「……わかりました」
私は静かに言った。
「もう何も言いません。ただ、最後に一つだけ」
「何だ?」
「あなたは……後悔しますよ」
アルフレッドは呆れたように首を振った。
「後悔? お前のような女のために? 面白いことを言うな。私は皇太子だ。この国を背負う男だ。平民の女一人を捨てるくらいで、何を後悔するというのだ?」
「今はそう思うでしょう。でも、いつか……」
「時間の無駄だ」
彼は再び踵を返し、城の中へと戻っていった。重い扉が閉まり、私の前には雨の降りしきる裏庭だけが残された。
私はその場に立ち尽くした。雨が体を打つ。冷たい。だが心の冷たさには及ばない。
三年間。私はこの男を愛していた。彼の笑顔を、彼の優しさを、彼の言葉を信じていた。だが全てが計算だったのか。侯爵令嬢という肩書きが欲しかっただけなのか。
父上が没落した時、母は言ったのだ。
「アルフレッド様は、きっとあなたを守ってくださる。彼はそんな浅ましい男ではない」
私は母の言葉を信じた。だが母は病に倒れ、父上の汚名が晴れる前にこの世を去った。母の最期の言葉は「アルフレッド様を信じなさい」だった。
だが信じるべきではなかった。
「……馬鹿ね」
私は呟いた。
自分自身の愚かさに。三年間も、こんな男を信じ続けていた自分の浅はかさに。
雨が強くなる。視界がぼやける。涙か雨か、もう区別もつかない。
私は裏門を出て、城の裏手にある崖沿いの道を歩き始めた。かつてアルフレッドと散歩した道だ。月明かりの下で手をつないで歩いた道。あの時は幸せだった。彼の手の温もりを、今でも覚えている。
だがもう、あの温もりは幻だったのかもしれない。
崖の縁に近づく。眼下には深い谷が広がっている。雨で霧がかかり、底は見えない。
「価値がない……?」
私は呟いた。
「本当に、私は価値のない女なの?」
父上が没落し、母を亡くし、婚約者に捨てられ。もはや私には何も残っていない。友人も、家族も、地位も、愛も。
あるのは、雨に濡れた体と、砕け散った心だけ。
「……いっそ」
その時だった。
背後から馬車の音が聞こえる。慌てて道を避けようとしたが、足元が滑った。雨で濡れた石畳は滑りやすく、私はバランスを崩す。
「っ……!」
体が傾く。腕を伸ばすが、掴むものはない。崖の縁に足がかかる。
「あ……」
一瞬、時間が止まったように感じた。
アルフレッドの冷たい瞳。父上の無念の顔。母の優しい微笑み。三年間の記憶が、走馬灯のように頭をよぎる。
そして最後に浮かんだのは、アルフレッドの言葉だった。
「お前には価値がない」
……本当にそうなのだろうか。
このまま落ちれば、全てが終わる。苦しみも、悲しみも、裏切りの記憶も。何もかもが消えてなくなる。
楽になれる。
そう思った瞬間、体が宙に浮いた。
「きゃっ……!」
悲鳴が喉の奥で詰まる。視界が回転する。雨と風が体を叩く。崖から落ちていく。深い谷へと。
「……これで……終わり……」
目を閉じる。全てが暗闇に包まれていく。
だがその直前、不思議な感覚があった。
このまま死ぬのは、悔しい。
アルフレッドに最後まで見下されたまま、私は死ぬのか。彼の言う通り、価値のない女として、誰にも知られず崖の底で朽ち果てるのか。
……嫌だ。
そう思った。最後の最後に、私は思ったのだ。
こんな男のために、私は死ぬべきではない。こんな男の言葉に、私の人生を決められてたまるか。
「……まだ……」
落下する中、私は呟いた。
「まだ……終わりたくない……」
だがその願いも、風に消えていく。体は加速し、意識が遠のいていく。
暗闇が迫る。
最後に見たのは、雨雲の切れ間から差し込む、わずかな光だった。
(続く)
私は城の裏門の前に立ち、濡れたマントの裾を握りしめていた。指先が震えている。寒さのせいではない。胸の奥が凍りついているのだ。
「早くしろ。雨がひどくなる前に帰れ」
背後から冷ややかな声が響く。元婚約者、アルフレッド・フォン・リヒトハイム。その声はかつて私に優しく囁かれたものと同じものとは思えなかった。
私は振り返らずに言った。
「最後に一つだけ、聞かせてください」
「時間の無駄だ。もう話すことなどない」
「なぜ……私を捨てたのですか?」
沈黙が降りる。雨音だけが響く中、アルフレッドはため息をついた。
「お前は聡明だと思っていたが、そうでもないようだな。理由など、一つしかないだろう」
彼はゆっくりと歩み寄り、私の前に立った。金髪に雨粒が光り、青い瞳は氷のように冷たい。かつてこの瞳が私を見るとき、こんなに冷たくなかったはずだ。
「お前には価値がないからだ」
その言葉に、胸が引き裂かれるような痛みを感じた。
「価値……?」
「そうだ。お前の父上は没落した。爵位は剥奪され、財産は没収された。今やお前はただの平民の娘。皇太子妃候補としての価値は完全に失われた」
「でも……婚約は、父上の地位とは関係なく……」
「関係ない? ふざけるな」
アルフレッドの声が鋭くなる。
「婚約とは政略だ。愛情ごっこではない。お前が侯爵令嬢だったからこそ、私はお前を選んだ。今やお前はただの荷物だ。皇太子として、荷物を抱えていられるほど暇ではない」
雨が強くなる。頬を伝う水滴が、涙なのか雨なのかわからなかった。
三年前、私は侯爵令嬢として、アルフレッドと婚約した。当時十六歳の私は、青い瞳の皇太子に一目惚れした。彼もまた、私を気に入ってくれたと信じていた。舞踏会で手を取り、庭園で散歩し、月明かりの下で将来の話をした。あの頃の彼は、優しく、誇り高く、そして私のことを大切に思ってくれているように見えた。
だが半年前、父上が汚職の疑いで告発された。真実かどうかはわからない。ただ、政敵の陰謀だったのかもしれない。だが結果は残酷だった。父上の爵位は剥奪され、家族は城を追われた。私は婚約破棄を覚悟していたが、アルフレッドは「心配するな」と言ったのだ。
「お前の父上が無実であると信じている。たとえ地位を失っても、私はお前を守る」
その言葉を信じ、私は耐えてきた。粗末な家で暮らし、かつての友人たちから避けられても、アルフレッドの言葉を胸に生きてきた。
だが三日前、宮廷から使者がやってきた。
「皇太子殿下より、エリザベート様へ。本日午後三時、城の裏門にてお会いしたいとのことです」
私は胸を躍らせた。ついに父上の汚名が晴れたのか、それともアルフレッドが私を正式に妻として迎えてくれるのか。私は古びたドレスを丁寧に磨き、髪を整え、裏門へと向かった。
そこで待っていたのは、冷たい雨と、そして婚約破棄の宣告だった。
「平民の娘と皇太子の婚約など、国中に笑われるだけだ。お前もわかっているだろう?」
私は首を振った。
「わかりません……あなたは言ったでしょう? 地位なんて関係ないと」
「子供だな。その程度の慰めの言葉を真に受けるとは」
アルフレッドは鼻で笑った。
「皇太子としての立場を守るためには、時には嘘も必要だ。お前が傷つかないように、多少の嘘をついたまでのことだ」
「嘘……?」
「そうだ。最初からお前のことは好きではなかった。ただ、侯爵令嬢という肩書きが欲しかったのだ。今やその肩書きは消えた。お前にはもう何の価値もない」
その言葉が、心臓を貫いた。
三年間。私はこの男を信じ、待ち続けた。父上が没落した後も、彼の言葉を信じて耐えてきた。友人たちから「皇太子はお前を捨てるだろう」と囁かれても、私は信じなかった。アルフレッドは違う、と。
だが全てが嘘だったのか。
「では……あの時の言葉も、全て嘘だったのですか?」
「どの言葉だ?」
「月明かりの下で……『永遠に愛する』と言ったでしょう?」
アルフレッドの顔にわずかな苛立ちが浮かんだ。
「男というものは、女を手に入れるために多少の美辞麗句を使うものだ。お前がそれを真に受けるとは思っていなかった。平民の娘ならともかく、侯爵令嬢ならその程度のことは理解しているものだと思っていたが」
平民の娘なら、と彼は言った。
かつて私を侯爵令嬢として扱い、今では平民として見下す。その変貌に、言葉も出なかった。
「もう十分だ。これ以上時間を無駄にしたくない」
アルフレッドは踵を返そうとした。その背中に、私は叫んだ。
「待ってください! せめて……せめて正式な婚約破棄の書類をください。父上が没落した今、私は婚約者としての立場を失っています。でも、正式に破棄されなければ、私は再婚もできません。これ以上、私を苦しめるつもりですか?」
アルフレッドは振り返り、嘲るように笑った。
「再婚? お前のような女が、誰に娶ってもらえるというのだ? 侯爵令嬢だった頃でさえ、お前を選んだのは私だけだ。平民になった今、お前には誰も見向きもしないだろう」
「それでも……正式な手続きを」
「面倒だ。書類など必要ない。今日この場で、婚約は破棄された。それで十分だ」
「そんな……」
「さあ、帰れ。ここはお前のいる場所ではない。平民は平民らしく、下町で暮らすがいい」
彼の言葉の一つ一つが、ナイフのように胸を抉る。
私は三年間、この男を信じてきた。父上が没落した後も、彼の言葉を支えに生きてきた。友人たちが去り、使用人たちが嘲笑い、かつての地位を失っても、私は耐えてきた。なぜなら、アルフレッドが私を待っていてくれると思っていたからだ。
だが全てが嘘だった。
「……わかりました」
私は静かに言った。
「もう何も言いません。ただ、最後に一つだけ」
「何だ?」
「あなたは……後悔しますよ」
アルフレッドは呆れたように首を振った。
「後悔? お前のような女のために? 面白いことを言うな。私は皇太子だ。この国を背負う男だ。平民の女一人を捨てるくらいで、何を後悔するというのだ?」
「今はそう思うでしょう。でも、いつか……」
「時間の無駄だ」
彼は再び踵を返し、城の中へと戻っていった。重い扉が閉まり、私の前には雨の降りしきる裏庭だけが残された。
私はその場に立ち尽くした。雨が体を打つ。冷たい。だが心の冷たさには及ばない。
三年間。私はこの男を愛していた。彼の笑顔を、彼の優しさを、彼の言葉を信じていた。だが全てが計算だったのか。侯爵令嬢という肩書きが欲しかっただけなのか。
父上が没落した時、母は言ったのだ。
「アルフレッド様は、きっとあなたを守ってくださる。彼はそんな浅ましい男ではない」
私は母の言葉を信じた。だが母は病に倒れ、父上の汚名が晴れる前にこの世を去った。母の最期の言葉は「アルフレッド様を信じなさい」だった。
だが信じるべきではなかった。
「……馬鹿ね」
私は呟いた。
自分自身の愚かさに。三年間も、こんな男を信じ続けていた自分の浅はかさに。
雨が強くなる。視界がぼやける。涙か雨か、もう区別もつかない。
私は裏門を出て、城の裏手にある崖沿いの道を歩き始めた。かつてアルフレッドと散歩した道だ。月明かりの下で手をつないで歩いた道。あの時は幸せだった。彼の手の温もりを、今でも覚えている。
だがもう、あの温もりは幻だったのかもしれない。
崖の縁に近づく。眼下には深い谷が広がっている。雨で霧がかかり、底は見えない。
「価値がない……?」
私は呟いた。
「本当に、私は価値のない女なの?」
父上が没落し、母を亡くし、婚約者に捨てられ。もはや私には何も残っていない。友人も、家族も、地位も、愛も。
あるのは、雨に濡れた体と、砕け散った心だけ。
「……いっそ」
その時だった。
背後から馬車の音が聞こえる。慌てて道を避けようとしたが、足元が滑った。雨で濡れた石畳は滑りやすく、私はバランスを崩す。
「っ……!」
体が傾く。腕を伸ばすが、掴むものはない。崖の縁に足がかかる。
「あ……」
一瞬、時間が止まったように感じた。
アルフレッドの冷たい瞳。父上の無念の顔。母の優しい微笑み。三年間の記憶が、走馬灯のように頭をよぎる。
そして最後に浮かんだのは、アルフレッドの言葉だった。
「お前には価値がない」
……本当にそうなのだろうか。
このまま落ちれば、全てが終わる。苦しみも、悲しみも、裏切りの記憶も。何もかもが消えてなくなる。
楽になれる。
そう思った瞬間、体が宙に浮いた。
「きゃっ……!」
悲鳴が喉の奥で詰まる。視界が回転する。雨と風が体を叩く。崖から落ちていく。深い谷へと。
「……これで……終わり……」
目を閉じる。全てが暗闇に包まれていく。
だがその直前、不思議な感覚があった。
このまま死ぬのは、悔しい。
アルフレッドに最後まで見下されたまま、私は死ぬのか。彼の言う通り、価値のない女として、誰にも知られず崖の底で朽ち果てるのか。
……嫌だ。
そう思った。最後の最後に、私は思ったのだ。
こんな男のために、私は死ぬべきではない。こんな男の言葉に、私の人生を決められてたまるか。
「……まだ……」
落下する中、私は呟いた。
「まだ……終わりたくない……」
だがその願いも、風に消えていく。体は加速し、意識が遠のいていく。
暗闇が迫る。
最後に見たのは、雨雲の切れ間から差し込む、わずかな光だった。
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