4 / 9
笑われる白魔道士と赤くなる黒剣士
しおりを挟む「ほら、泣くな泣くな。 もう大丈夫だからな」
地面にしゃがみ込んだ大地が涙の止まらない目を手で押さえるとわの背中を優しく撫でる。
「いや、でも気持ちは分かるよ。 俺、自分も泣いてないのが不思議なくらいだ」
「私は魔法使いながら涙ちょちょぎれたわ。 というか、おしっこをこぼさなかったのが奇跡だわ」
両足を広げて座る小太郎も壁に背中を預けて座る花火も俯きながら話す。 初めてモンスターを倒した喜びなんてなく、ただ感じた恐怖の大きさに衝撃を受けた。
「・・・俺もそれは分かる、ギルドの売店でパンツを売ってた理由が早くも分かっちまったぜ」
冗談めかす大地の言葉に目元を隠したままのとわが小さく吹き出す。
「おっ、笑ったな。 もっと笑え笑え」
とわの背中を撫でていた大地の手が脇腹をくすぐる形に移行する、やー、と身をよじる姿に笑顔を向けてから「しかし」と真面目な顔で小太郎を見る。
「よくあのタイミングで動けたよ、小太郎さん。 本当に凄いと思うぜ」
褒められた小太郎はキョトンとしてから破顔する。
「本当になー、自分が一番凄いって驚いてるんだよ。 身体が勝手に動くとかこの事かーってなってる。 とわ君が凄い綺麗に転んだのが視界の端っこで見えててさ、あっと思ったらもう斬ってたみたいな感じでさ」
首を傾げながら笑う小太郎に「おー!」と大地が手を叩く。
「うー、小太郎さん、ありがとうございます。 小太郎さんが助けてくれなかったら僕、僕・・・」
「わー!! 思い出して泣くなよ!!」
「ははは、でも逆に自分もとわ君に助けられたのかもしれない、あそこでとわ君が転んでくれなかったら自分は動けなかった気がするんだ。 本当にとわ君の転び方が綺麗でさ、こう伸びた両腕とかさ、スローモーションで脳裏に焼き付いてる」
恐怖が一周回っておかしさに変わってきたのか「くくく」と小太郎の笑いが止まらない。
「私だってビックリしたのよ! とわが私の前を一生懸命走ってるのに凄く遅くて、あれっ? って思ってる内に追い越しちゃってそしたら悲鳴が聞こえて、後ろを見たらとわは転んでるし小太郎さんはゴブリン斬ってるし、まだゴブリンはいるし、凄い怖かったんだから!」
「いやいや、花火も凄かったからな! 本当に凄くて俺も魔法職にすればよかったって思ったぜ!」
「ふふん、そうでしょ。 でもね、今思い出すと必死に走ってるのにどんどん後ろに行くとわ君がベルトコンベアで運ばれてるみたいで、あはは、もうダメ!」
手で口を隠しながら大笑いする花火につられて大地と小太郎も腹を抱えて笑いだす。
「そうなんだよな、あれ? とわ? とわ!? ってどんどん近付いてくるんだぜ、また遅いのに走るフォームは綺麗なのがさ!」
「本当それ、とわ君!? って思ってる内にどしんって転ぶんだよ!! 今思うとあれを笑わなかった自分を褒めたい!! あー動画撮りたかった!」
最終的には笑いすぎて地面を転がる三人にとわは顔を真っ赤にして唇を力なく震わせた。
「あーあ、すっかり拗ねちゃって」
花火の斜め後ろを歩くとわはローブのフードを深く被ってそっぽを向く。
「そうやってると女の子みたいよ、とわは華奢だから」
「えっ、本当に?」
「ホントホント」
とわと花火のやりとりに前からも「ホントホント」と同意の言葉が飛んでくる。
「・・・」
なで肩気味の肩を更に下げながらとわはフードを外した。
再び歩き始めた4人の隊列は少し変わって、先頭を大地が一人で歩き小太郎・花火・とわと続く。
次は俺が戦う! と大地が手を上げたからだ。
そして現れる新たなゴブリン、今回は二匹。
「行く!」
短く宣言して走り出す大地、低い体勢で飛び出して一気にトップスピードに、そして跳んだ。
「セァッ!」
長い跳躍距離からお手本の様な跳び蹴りがゴブリンに突き刺さって吹っ飛ばす、跳んで落ちてゴブリンが地面を滑る。
相方を吹っ飛ばされたゴブリンの目が大地の動きに追い付いたのは着地した大地の放つ回し蹴りがゴブリンの頭を打ち抜く寸前だった。
回し蹴りからの連続攻撃で呆気なく消えるゴブリン、跳び蹴りを食らったゴブリンも既に消えた後「うしっ!」大地の小さいガッツポーズには大きな喜びが込められていた。
小太郎は拍手をしながら大地をねぎらう。
「お疲れ様。 こんなに簡単に倒されちゃうとさっきのは何だったんだろうってなるね」
「・・・あれは黒歴史だな。 ただ、やっぱり落ち着いて戦えば貰ったステータスで楽に勝てるな・・・ん?」
勝利を喜んでいるとそれぞれの端末、ステータスブックからピコンと音がした。
「わっ、レベルが2になってるよ!」
自分のステータスブックを手にして喜びの声を上げるのは花火。
「本当だ、4人でゴブリン5匹倒してレベルアップか」
「私魔力の成長率がAなんだけど、レベルアップでステータスが15も上がるんだ」
「やっぱり花火は魔力重視なんだな、俺はバランス重視だから最高でも成長率Bなんだよな」
「自分もバランス重視だけど、筋力はAにした。 専用スキルよりステータスに重点を置いたからな」
「その辺は考え方次第だよな。 スキルを取るかステータスを取るか。 俺はスキルに夢を詰め込んだけどな」
誇らしげに胸を張り親指で自分を指す大地、「それは楽しみだ」と小太郎は笑う。
「僕、ステータスの成長率一番良くてもCなんだよな」
ぼそりと呟いたとわの言葉にビクッと花火が動きを止める。
(ステータスが最高でもC? だって専用スキルも戦闘に使えないんでしょ? 私達は選べる能力は平等な筈なのに、とわは何を強化してるの? 見た目? 確かに可愛い整った顔だしスタイルもいいけど・・・ううん、あんまり詮索するべきじゃないな)
自分がされて嫌な事は人にするべきではない、そう思って花火は頭を振る、揺れるツインテールを見ながらとわは首を傾げた。
「さて、そろそろペースを上げようか。 自分的にはみんなで行動するうちに10階のボスは見ておきたいんだ」
「そうだな。 俺もスキルを使うならボスかなって思うし早く試したい」
「大地もか、自分のスキルも試したいけどゴブリンにはオーバーキルでな」
早く自分の専用スキルを使ってみたいとワクワクする大地と小太郎の足は自然と早まり4人はダンジョンを進んでいく。
「ん、おかえり」
「何、あなたずっとそこに座っていたの?」
仮の住居の共同スペースのテーブルに居座る桃色髪の美少女かんなを黒髪の少女が細めた目で呆れた様に見る。
「ちゃんと、出かけてきたよ。 大通りに屋台が並んでたから牛串みたいのを食べてきた」
「そう・・・」
話す事もないとそのまま自室に戻ろうとする黒髪の少女に割烹着姿で丸トレーを手にした四鬼が声をかける。
「おかえりなさい朝子さん、何か飲みます?」
「・・・あるならコーヒー牛乳お願い」
聞かれた朝子は桃色少女の前にあるコーヒーカップを確認してから飲み物を頼む。
「ありますよ、座っててください。 何か軽い食べ物も用意出来ますよ?」
「クリームパン」
「ありますよ」
自分の好物がこの世界にもある事にニヤリとしながら朝子はかんなの斜め向かいの椅子を引いて座る。
「朝子さんって言うんだ。 私は結城かんな、一応よろしく」
ひらひらと手を振るかんなに冷たい視線を向ける朝子。
「そうね。 一応よろしく」
「朝子さんどこ行ってたの?」
「・・・ダンジョンよ」
朝子の前にグラスに入ったコーヒー牛乳と皿に乗ったクリームパンが置かれる「ありがとう」軽く頭を下げて礼を言った。
目の前にあるクリームパンはよく見る平べったいものではなくロールパン型だった、初見のクリームパンに対する期待でソワソワした気持ちでかじる。
「ダンジョンか一人で行ったの? どうだった?」
「なかなか・・・いいわね。」
「ん?」
「クリームパンの話」
かなり好みの味だったのか優しい雰囲気でニヤリとする朝子にかんなは「そ、そう」と気圧されながらも一気に攻めてきた可愛さにドキドキと胸が意識せずに高なる。
「・・・ダンジョンは、そうね。 面白かったわ、いい感じに難易度も上がって来たし、今日は10階のボスを倒して止めたけど、もしかしたらその先は少しキツいかもしれないわね」
「ふーん、もうそんなに進んだんだ、ボスってどんなの?」
何も知らないかんなはあっさりと流すがその話を聞いて驚いたのは四鬼である。
(一人でこの短時間にボスまで倒す!? 不可能ではないけど・・・でも朝子さんの専用スキルは今はただ武器を創り出すだけのハズレスキル、そういえば彼女はかなり戦いなれていたけど)
「ゴブリンっていうの? 緑色の小さいアレの大きいのが鎧兜を付けて刀を持ってたわ」
「へー、ゴブリンいたんだ。 大きいのはゴブリンキングってヤツなのかな」
「・・・キングというよりは将軍といった感じね」
ゴブリン談義を始める二人をよそに四鬼は口に指を当ててぶつぶつと一人考える。
(彼女も・・・もしかして現生異端保持者? ここで戦った時はそんな様子はなかったけど、調べてみたら方がいいかも)
「あなたも行ってみればいいわ。 楽しめるから」
綺麗な流し目からの誘う様な言葉にかんなはボンヤリとしながら視線を外す。
「・・・私はいい。 戦うつもりないから」
「そう、あなたの好きにすればいいけど。 だけどきっとこの世界では戦わなくてはいけなくなる、勘だけどね」
「やめてくれよ、真っ黒系美少女の勘とか、当たりそうじゃない」
かんなは小さく笑って力なく息を吐く。
「人がどんなに努力しても勝てない奴はいるんだよ、努力なんてしてないし勝ちたいとも思ってないのに、勝ち続ける奴が。 なにもかも捩じ伏せてさ、そういうのって虚しいじゃん」
その言葉に朝子は真っ直ぐにかんなを見つめ、嬉しそうに笑った。
「そういうのもあるわよね。 私がその捩じ伏せる側だから、うん、確かにあるわ」
考えもしない言葉をあまりにも真っ直ぐに言われてしまって、呆然とかんなは停止する。
「私は誰にも負けないから。 あなたもいつでも捩じ伏せてあげるわ」
確たる自信を持って宣言するその姿はあまりにも眩しくて、かんなが今まで見てきた何よりも美しくて。
「それはいいね。 そうだといいな」
かんなは目元を手で隠しながら口元を笑わせる。
「ハハハ、本当にそうだったら、その時は結婚してほしいぜ」
「・・・嫌よ! あなた、鏡を見て言いなさい!」
常に隙のない表情の朝子も、突然のプロポーズには顔を真っ赤に年相応の少女として声を上げた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる