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ライダーのキックと泣かれるお肉
しおりを挟む「変身!」
そう言って走り出した大地の姿が変わる。
仮面ライダーが好き、そう言っていた大地の言葉を示す様に。
見た事のないデザイン、それでも見る人が見れば「新しいライダー?」そう感じる姿に変身した大地、派手なエフェクトを纏った大地の跳び蹴りが5階層の中ボスである人間サイズのゴブリンを爆散させた。
華麗に着地した大地は振り返ると自らの勝利を誇る様に拳を掲げた。
「ブハッ!!」
大地に贈られたのは称賛ではなく花火の爆笑だった。
「アハハ! なんで、なんで!? ・・・変身するとそんなに大きくなるの!?」
少年の憧れの様な姿になった大地を指差して涙が浮かぶ程に笑い続ける花火。
実際に大地は変身前と比べて身長が一回り所が二回り以上高くなっていた、花火じゃなくとも違和感は強く感じてしまう。
現に小太郎もふるふると震えながら笑うのは失礼だと必死に堪えていた。 とわは素直にカッコいいと目を輝かせているけど。
「能力選びの時に背を高く出来たのに」
元の姿に戻った大地は花火にそう言われて寂しそうに、それでも笑った。
「いいんだよ、これが俺で・・・俺のプライドだから」
「・・・そうなんだ」
今になって自分は言わない方がいい事を口にしたと恥ずかしくなった花火は俯く。
「ごめん、バカな事言った」
「そうでもないさ。 ただ俺が・・・小さいままライダーになりたかったんだ。 でも、俺も変身した時の身長差は辛いんだぜ」
遠くを見上げる大地の背中がいつもより小さく見えて他の3人は必死に涙を堪えた。
「おかえりー」
「・・・ただいま」
絶世の美少女かんなからいただいた「おかえり」に小太郎は少し顔を赤くする。
「ただいまー、かんなさんだったよね。 今日は何してたの?」
ダンジョンから帰って来た花火達4人はそれぞれテーブルの席に付き元々いたかんな、朝子に冬流と合わせて7人になる。
隣に座った花火に聞かれてかんなは対面に座る冬流を顎で指す。
「冬流ちゃんと少し出掛けてた、ね」
「・・・怖かった、です」
コクリと頷いてからふるふると震える冬流にかんなは肩を竦める。
「何回か絡まれたからね。 大通りの辺まで行くとガラ悪いの増えるから気を付けてね」
「あなた、そんな事さっき言わなかったじゃないの。 倒したの?」
話に混じる朝子に「血の気多いなー」と大袈裟に手を広げるかんな。
「私達がそんな事する訳ないじゃん、助けて貰ったよ」
「誰に!? イケメンとのイベント起こしたの?」
花火がおおーっとテンションを上げてくる。
「いや、そんな特徴ない知らない人達だよ。 ついでに屋台で色々奢ってもらった、ね」
「・・・お肉大きくて固かった」
コクリと頷いてからふるふると震える冬流、かんなは笑って同意する。
「牛串かな? 私は好きだけどね、転生前だったら多分歯に挟まってたよ」
生前の歯の隙間事情を語って笑うかんなに花火は呆れて苦笑い。
「気を付けた方がいいわよ、そっちはレベルまだ1なんでしょ」
「まー、大丈夫じゃない? いざとなったら恥も外聞もなく逃げるからさ。 そっちはダンジョンどうだったの?」
気楽に言いながらかんなは花火だけじゃなくダンジョン組4人に目を向ける、そういえば誰も名前覚えてないななんて思いつつ。
「うーん、なんというか充実してたかな」
「そうだな、それが一番しっくり来るかも。 最初はビビったけどな、3人も最初に行く時は誰かと一緒がいいぜ」
「そうね、言ってくれれば私ならいつでも付き合うから、2階層までなら多分私1人でも問題ないし」
「・・・冬流ちゃん一緒に行って貰いなよ」
花火の優しさに冬流は自分からはお願い出来ないんだろうなとお節介を焼いてみるかんな。
しかし、2階までならか・・・比べるつもりはないが、1人で10階のボスを倒したという朝子をつい見てしまうと目が合った、考えが読まれた様で嫌だったので慣れないウインクを飛ばしてみる。
・・・手で払われた。
「そうだな、冬流・・・ちゃんか、明日は俺たちと一緒に行ってみるか? 今日は5階層で中ボスを倒したから、そこまでなら守れると思うぜ」
「えっと、僕も今日ずっと守って貰ってたから大丈夫だと思うよ」
大地が守れると言っても不安そうな冬流を安心させようととわが情け無い助け船を出す。
4人で5階・・・かんなはまた朝子を見てしまい目が合って無言の攻防を始める。
「・・・かんなさんは?」
「私? ・・・ああ、ダンジョンね、私はいいよ。 冬流ちゃんは行ってくるといいよ、くまさんと騎士君に何が出来るか確かめておいで」
優しく諭す様に言われて冬流は自分の腕の中の兵士の人形と新しく作ったくまのぬいぐるみを見つめてコクリと頷いた。
「・・・ダンジョン行きたい、です。 よろしくお願い、です」
「オッケー、じゃあ明日からよろしく」
「私もよろしくね。 えっと、あなたは?」
花火の視線が自分に向いてる事に気付いて朝子は首を傾げる。
「私? 私も遠慮しておくわ、団体行動苦手なのよ」
「ちなみにその子は朝子ちゃんだよ」
名前を知ってるのは自分だけかなと口を挟むかんなと朝子の視線がまたぶつかる。
「ちゃん付けで呼ばないで、付けるならさんを付けて。 ・・・里宮朝子よ」
「朝子さん・・・2人、仲良いんだね」
「そうでもないわ」
「そうでもないよ」
花火の言葉を2人揃って否定する。
「それで君らは明日からもみんなでダンジョン行くの?」
かんなに言われて今日のダンジョン勢は様子を互いに伺いあう、最初に意見を言ったのは意外にも手を挙げたとわだった。
「えっと、僕は1人で行こうと思います」
「はあ? いやいや、そんな無茶な、なんでだよ!?」
声を上げたのは大地だったが今日一緒にダンジョンに入った花火と小太郎は同じ様に目を剥いて驚いている。
とわは後半から回復魔法を飛ばして援護をしてくれたが一度も攻撃に参加していないのだ。
「えっと、僕も戦える様になりたいから」
「それなら私達と一緒に戦えばいいでしょ、1人でなんて無茶よ」
「・・・僕が一緒に戦おうとしても邪魔にしかならないよ、今日見ててそれは分かったから」
「それはそうかも知れないけど、一緒なら普通に経験値も貰えるんだし」
「レベルを上げるのと戦える様になるのは別よ、好きにさせてあげればいいわ。 ダンジョンなら死んでもお金が減るだけなんだから」
今日一緒に行動したとわの臆病さを知って危険な思いをしてほしくない花火と、自分の価値観で口を挟んだ朝子の意見がぶつかる。
「まーまー、確かにとわ君の考えも分かるけど、自分達もとわ君が心配なんだ、明日一日はとわ君が戦うのに合わせるって事でどうかな?」
仲裁する様で結局は過保護な小太郎の提案に大地と花火は賛成し朝子はため息をつく。
当人のとわは自分の意見を曲げるつもりはないと首を振る。
「僕はみんなの邪魔をしたくないです」
「誰も邪魔なんて」
「まーまー」
かんなが花火の顔の前に手を伸ばして言葉を止めた。
「別にダンジョン戦うの、1人でも平気なんでしょ?」
「そうね。 戦いに慣れたいだけでしょ、1階、2階で戦う分には木の棒でも持ってれば誰でも問題ないわ」
かんなに目で合図をされた朝子は自分の考えを述べる。
「ふーん、なるほどね。 とわ君だっけ? 君は自分のペースでのんびり戦って皆には皆のペースでダンジョンを攻略して欲しいんだもんね」
「えっと、そうです」
頷くとわにかんなは「ふんふん」とまるで名探偵の様な相槌を見せる。 美少女はどんな姿も様になる。
「だけど、皆はもうとわ君の事を仲間だと思ってるから1人で行かせるのが心配なんだよね」
「まー、今日少しも戦う所を見れなかったからな、とわは回復職みたいだし」
整った顔を心配だと歪める大地の意見にも「ふんふん」と相槌のかんな。
「仲間を心配するのは大事だけど、私も男の子のやる気は尊重したい派なんだよね。 だからさ、とわ君には私がついていくよ」
まるで名案だと言い切ったかんなにダンジョン勢4人は「え?」なんか違うんじゃないかと表情を曇らせる。
「えっと、それだと今度はかんなさんの邪魔に・・・」
「そうでもないよ、私はどうせ明日も何もしないし。 とわ君が戦うのをのんびり見てるよ、戦う気は無いけどダンジョンには興味があるから丁度いいし」
「えっと、僕多分のろのろですよ」
とわの発言に朝子が小さく笑った。
「いいと思うわよ。 その人、今日だってずっとそこで座ってボンヤリしてたんだから、むしろ外に連れ出したあげた方がいいわ。 それに、敵が多かった時の足止めくらいならしてくれるでしょ?」
「・・・それくらいならするよ。 それで皆も少しは安心かな?」
「えっと、かんさなさんがいいなら明日お願いします」
頭を下げたとわを横目に見ながらそれでいいかと花火も一応納得する。
「分かった。 2人とも無理しないでね」
「気を付けます」
「なんとかなるって」
花火の両サイドからとわとかんながそれぞれに返事を返す。
「はい、話がひと段落したところでご飯にしますよ。 今日は豪華にお肉ですよ」
タイミングを計っていた割烹着姿の四鬼が鉄板に乗った大きなステーキを運んできて、皆で歓声を上げる。
「おー、豪華! 今まで意識してなかったけど、腹減ってたんだな。 そういえばまだ来てない人がいるけど」
自分のお腹を撫でながら小太郎は空いている席に目を向ける。
そこにいる筈のメイドを従えた眼鏡男子の姿は最初しか見てない。
「寝ているみたいですね」
『・・・』
小太郎と四鬼の会話に固まるかんなと冬流は視線を泳がせる、2人は彼がメイドとナニをしていたのか知っているから、というよりそのせいでここに居づらくて2人で出掛けたのだから。
「あうー、お肉、美味しいです」
「・・・」
かんなが思考を遠くにやっている間に何故かとわが泣き始めていた。
しかも号泣である。
かんなが驚いてる間にダンジョン勢は慣れた感じでとわを落ち着かせる。
(これは明日は思ったよりも大変かも)
「えっと、すいません。 こんなにちゃんとしたお肉久しぶりで、凄い美味しいですね」
明日の心配をするかんなをよそにとわは泣きながら笑った。
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