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なんちゃってヒロインと奇跡の抜け殻
しおりを挟む「ふーん、これがダンジョンか」
黒の拳法着に身を包み、短い桃色の髪を後ろで束ねたかんなが洞窟の壁に手を触れながら眺める。
「なんて言うか、優しい作りだね。」
「えっと? 優しいって?」
かんなの前を歩くとわは何が言いたいのか分からずに首を傾げた。
「うーんとさ、ここ、洞窟みたいだけど、妙に綺麗じゃん? 本当の洞窟だったら虫とかいっぱいいそうじゃない?」
「ヒッ!」
虫と聞いて跳ねて壁から離れるとわにかんなは笑いながら手を振る。
「大丈夫大丈夫いないからさ。 上から虫が落ちてくる様な場所だったら落ち着いて戦えたりしないもんね。 ・・・ここって設定された生き物、モンスターしかいない場所なのかな」
「ここは別世界の中の更に別世界って事か」そうぼんやりと遠くに視線をやるかんなを見てとわはふと気付く。
「えっと、かんなさん、何咥えてるんですか?」
「ん、なんか木の棒、スーってするんだよ。 さっき売店で買った」
かんなは細長い棒、タバコを少し長くした形の通称禁煙棒を口から出してフリフリ振る。
「タバコも売ってたのにさ、未成年だって売ってくれなかったからさ。 切ないぜ」
「そうなんですか・・・えっと、かんなさんも元々は大人だったんですか?」
「んー? まーそうかな。 とわ君は?」
「えっと、僕は15才でした」
「・・・お、おう」
棒を口に戻すかんなは「じゃあ、今度は長生きして幸せになりなよ」そう言いかけてやめた。 余計なお世話だし、自分ならそんな事言われたくないから。 だから勝手に祈っておく。
「・・・、あっ、かんなさん、来ます!」
「ん?」
とわの言葉に耳をすませば先の方から「ギャーギャー」と小さな声が聞こえてくる。
じゃあ、お手並み拝見かなとかんながとわを見れば両手はグーを作っているけど、拳のある位置的に戦闘態勢というか、ファイト、って幼馴染の女の子が応援しているようなポーズだった。
白いローブに華奢な身体つきのとわは勇ましさよりもヒロイン臭の方を強く感じさせた。
「・・・ねー、とわ君は武器とかないの?」
「あっ! あります! 剣が、忘れてた!」
能力選びの時に武器も貰えた、かんなは何も貰わなかったけど。
慌ててステータスブックの端末を弄るとわ。
「とわ君、ゴブリン来るぞ。 走り出した、急げよー」
緊迫感のない声で告げるかんなは棒を咥えゴブリンを観察する。 2体の醜悪な姿の化け物だが人に比べるとかなり小柄だ、昨日朝子の言っていた、武器があれば戦えるという言葉はすぐに理解出来た、ゴブリンは俊敏さはあっても絶対的にリーチが違う。
(タイミングを間違えなければ剣を振るだけで完勝出来そう)
とわはといえば剣を鞘から抜く所だった、鞘から持ち手までを白い木で作られた柄の無い剣、抜かれた刀身は銀色の真っ直ぐな片刃。
「やーー!」
「・・・!」
気合いを入れたというより悲鳴じゃないかという声を上げたとわが片手で振るった剣は、向かってくるゴブリンの近くをふらふらと通り過ぎる。
「あうっ!?」
口元を引きつらせたかんながとわのローブのフードを掴んで後ろに引いた、ゴブリンの握る鈍いナイフがとわのいた場所を貫く。
「あほー! 攻撃する時目を瞑るなー!」
「!? あっ!」
今気付いたと驚くとわを背中にかばうかんな。
(どうする!? とわ君が戦う態勢を立て直すには距離が近過ぎる・・・全力で走れば私達の方が早いか? ・・・あっ)
考え事に気を取られていたかんなは無意識にゴブリンに拳を振り下ろしていた、ちょろちょろと動くのが目障りだったから。
殴られたゴブリンは呆気なく消えていく。
「あーもう面倒くさい」
かんなは気怠そうにそう言って、襲ってくるもう一体のゴブリンのナイフを持つ腕を掴むと持ち上げた、ギャーギャーと手足をバタつかせる姿に眉をひそめながら後ろを見る。
「とわ君、とりあえずこいつで練習する。 まずはしっかり相手を見る、鞘は置いて剣は両手で握る、慌てなくてもとわ君の攻撃の方が先に当たるから、しっかりと力を入れて剣を振り抜く。 オッケー?」
「えっと・・・オッケーです」
目の前であっという間に2匹のゴブリンを無力化したかんなに驚きつつも、とわは言われた事を頭の中で反芻する、鞘を地面に置いて剣を両手で握って正面に構える。
「じゃあ、深呼吸。 ほら、仕切り直しだ!!」
一度距離を離そうと、声を上げたかんなは大きく振りかぶってゴブリンを投げ飛ばす。
『・・・あっ!』
勢いよく壁に当たって落ちたゴブリンは姿を消した。
「・・・」
かんなのレベルアップを告げる音が切なく響いた。
「すいませんでした、結局かんなさんに迷惑をおかけしました」
「屈伸!?」と心の中で突っ込む程に深く頭を下げるとわの姿にかんなは頭をかく。
「いや、私は別にいいよ。 気にしないで」
ただ昨日ダンジョンに行ったメンバーが心配していた理由ははっきり分かった。
(実際に死ぬ訳じゃないとはいってもほっとけないよな)
かんなは左手は咥えた木の棒に添えながら右手でとわの剣の鞘を拾う。
「借りるよ、というか少し練習しようぜ」
かんなが自分に鞘を突きつける姿にとわはキョトンと首を傾げた。
「えっと、練習ですか?」
「そー、練習。 攻撃してきなよ、あー、峰打ちで頼むよ、鞘が斬れると困るからね」
とわの武器は綺麗に左右対称の剣だから、峰側で振っても違和感はない筈だ。 多分殺傷しない武器としても使えるようにした形なんだろうとかんなは考える。
「えっと、僕がかんなさんを攻撃するんですか?」
「そりゃ、他にいないじゃん」
「僕は女の人に攻撃なんて出来ないです」
「いや、練習だし、私は・・・いや、そうだね」
臆病な筈なのに、一欠片だって歪みのない真っ直ぐな彼の瞳にかんなは口を閉じる。
結局、全てがお節介なのだ。 彼はゴブリンとの練習に来ているのだから、本当は1人で、自分が傷つく事など構わずに戦いたかったのだろう。
その覚悟を邪魔しているのは、勝手に心配する自分達外野なのだから。
(男の子してるねー、その割りには完全なへっぴり腰だったけど)
「ごめんね、進もうか」
「えっと、ありがとうございます」
なんとなく2人はそれぞれ剣と鞘で素振りしながら歩く。
(うーむ、なんていうか、とわ君は運動神経なさそうだな)
一生懸命に剣を振っているのに力の流れが分散していて剣まで力が伝わっていない気がした。
これじゃ多分何も斬れないとかんなは思う。
(でもなんか楽しそうだ)
とわ君の女の子みたいな顔に浮かぶ柔らかい表情を見ているとかんなは胸の中があったかくなる気がした、それと同時にもっと奥の方に冷たさが刺す。
努力しても届かないモノがあるから。
「・・・突きもいいかもよ。走りながら真っ直ぐ剣を胸にでも突き出してやりなよ」
自分の中によぎる影を閉じ込めてかんなは禁煙棒を噛む。
現れたゴブリンは4匹組だった。
チラリと横を見て、とわの顔に浮かんだ恐怖を見つけたかんなは駆け出す。
「数を減らす」
かんなは1匹目のゴブリンを通り過ぎると集団の真ん中に立つ。
回し蹴りが首をへし折り、かかと落としが頭を地面に打ち込み、突き出した足が首を打ち抜く。
「?、!」
流れるような一連の動作で3匹のゴブリンが消えた、それがあまりに自然過ぎて、とわには何が起きたのか理解出来なかった。
「とわ君! 行くぞ」
「え?」
自分に向けて走り出したかんなの行動の意味がとわに理解出来ない。
「・・・踏み出して、突き!」
「あっ!」
かんなの体が横に消え、とわの正面に現れるかんなを追ってきたゴブリン。
背中を手で押され、とわの体は指示された言葉をなぞる。
左足を前に踏み出して、両手で握った剣を精一杯突き出す。
走って来たゴブリンはまるで自分から刺さりに来た様に、剣に貫かれて消えた。
とわの手から剣は落ち、膝は地面につく。
「とわ君?」
「・・・えっと、少しは嬉しいのかと思ってたんですよ」
しゃがむ彼の後ろから見下ろす形のかんなからでも零れた涙の粒が見てとれた。
「・・・僕は戦いたくなんてないです」
「・・・そう。 別に戦いたくないなら戦わなくてもいいと思うけど、私はね」
(この世界は戦わせたいんだろうけどね)
そんな風に思うかんなを見上げるとわの目は言動とは裏腹に戦う事を決めているみたいに見えた。
「何も、出来ないのは嫌です。 昨日の女の人が怖かったから」
女の人と言われ考えて、鎌を持った爆弾能力の女の子の事かと思い出すかんな、個人的には異世界で見る可愛いゴスロリ少女っていいよねって感想だけど、普通はトラウマモノなのかもなと思ったりする。
「・・・僕も守れる様になりたいから」
静かに告げる少年の言葉にかんなは心が温度を失っていくのを感じる。
願いの為に嫌でも戦う事を選ぶと言っているんだろう、その先に光があるとは限らないのに。 きっと自分以外の誰かはその考えを受け入れる、誰もが似た気持ちで戦うのだろうから。
「戦い続けても強くなれないかも知れないよ? 強くなっても届かないかも知れないよ?」
自分がよくある言葉を口にしている事を知っている、そしてよくある言葉が返ってくる事も。
「そうだとしても諦めたく・・・」
ただ違うのはかんなの口から出たのは挫折したものの言葉じゃなくて、挫折させたものの言葉で。
それは、キラキラした夢を目指す世界の記憶じゃなくて、自分でもどうしてそこにいたのか分からない血を浴びる様な殴り合いの記憶で。
目の前で立ち上がる男の子をとても遠く感じた。
自分の剣を拾って立ち上がったとわはそれを強く握る。
諦めたくない、言いかけて止めた。
「諦めたくないじゃなくて、諦めないんだ」何度も繰り返して唱えた少女の言葉が胸に響く。
自分の為に他の生き物を殺すなんて嫌だ。
どんなにそう思ってももう迷ってはいけないんだと胸に刻む。
強くならなければいけない、今度こそ願いを失わない為に。
いつか、キセキを手に入れられる様に。
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