D-コンティニューズ。なんちゃってヒロインと等身大の英雄。

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なんちゃってヒロインと奇跡の抜け殻3

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「あれ、今の?」

「えっと、昨日の人ですよね?」

 かんなととわが宿舎へと帰る途中にすれ違ったのは昨日宿舎で暴れた爆弾スキルの少女だった。
 今日はさすがに鎌は出していなかったが凄い勢いで走って行った。

「かわいい顔なのに凄い凶暴な笑顔だったね」

「怖かったですね、夜1人であったら泣くと思うます」

「そ、そうか」

(もしかして、また死んでレベル1からやり直しになったのかな?)
 
 家に今誰か居たとして無事でいるかとかんなは考える。 朝子さんが居てくれれば安心な気がするけど、彼女は他人を守ったりするのだろうか? ダンジョンに行った4人組も人数が多いしレベルも上がってるだろうし、後はメイドとちょめちょめ君は・・・よく分からん。

(殺されても条件満たすまではレベル1で復活出来るわけだしな、問題は条件だけど・・・)

「とわ君、少し急ごうか」

「えっ? はい」



 駆け足で宿舎まで戻る2人、ドアを開けた先にいたのは胸に穴を空けて右足が短くなった最後まで名前を知らなかった男子の死体と、それを片付けるいつもと変わらぬ割烹着姿の四鬼だった。

「えっ!?」

 顔を真っ白にするとわを庇いつつかんなは前に出る、嫌な予感を抱きつつも冷静な振りをする。

「ただいま。 ・・・復活する時って死体残るもんなんだ、なんか嫌だな」

「おかえりなさいまし。 残りませんよ、彼は条件を満たしていたので三途の河を渡りました。 完全なる死です」
 
 四鬼はまるで夕食のメニューを告げる様に淡々と1人の人間の終わりを告げる。

 かんなは自分が精神的にタフな方だと思っていた、それでも自分の口と頭を抑えてうずくまる。
 
 危険な世界なのは分かっていた、いつかこういう時が来るのも知っていたつもりだ、それでもそれがこんなに早いなんて考えもしなかった。

 全身を包む血と焦げの匂いに頭が溶けてしまいそうに。

「そんな、そんな・・・」

 後ろから聞こえた声にかんなの意識が僅かに浮上する、ゆっくりと振り返った先で真っ青な顔で今にも倒れそうなとわ君が手を伸ばす。

「奇跡をこの手に・・・ビスケットスター」

「?」

 とわ君が握った手の中に強い光が生まれる。

(・・・スキル? このタイミングで使うスキル、回復・・・蘇生スキル?)

 働かない頭でかんなが淡い希望を抱いた時、四鬼がとわの腕を掴んだ。

「無駄です」

「無駄じゃない!! 僕の力ならどんな奇跡だって!」

 全力で叫ぶとわ君が四鬼の腕を振り払う、一瞬驚いた顔をした四鬼だったがゆっくり首を振る。

「無駄です。 確かに貴方のスキルは代償を払う事でどんな奇跡も可能にする、ただ唯一の例外の説明はされている筈です」

 四鬼の言葉に動きを止めたとわはゆっくりと表情を歪めていく。

「どんな奇跡が起きても三途の河を渡る魂を止められない、これがこの世界のルールです」

「・・・あっあう、あーーーっ」

 床にひざまずき大声で泣きだすとわを四鬼は感情の見えない目で見下ろす。

「・・・それがあなたの選んだスキルです、今回の代償は経験値で済みましたが慎重に使う事です。 ・・・あなたに払える代価はそう多くはないのですから」

(とわ君、なんてスキルを選んでるんだよ。 ・・・誰かを救う為に代償が必要なスキルなんて・・・)

 とわの行動に人の死の衝撃を塗り替えられてかんなは冷静さを取り戻す、今も泣き続けらとわの頭を無言で撫でると立ち上がり男の死体に手を合わせた。

「・・・私も手伝うから片付けよう、埋葬するのか?」

「ありがとうございます。 ただ私だけで・・・おや」

 今いる食堂の奥、個室の並ぶ方から響く足音、この状況にかんなはデジャヴを感じる。

 ダッシュで現れるのは紫色のツインテールのゴスロリ少女、かんなと目があった少女は狂気を感じる笑みを見せた。

(なんで!? さっきの今でもう死んだのか!? 何してんだよ、こいつは)
 
 状況が動きだすまでにかんなに出来たのは動きやすい様に僅かに態勢を整えることだけだった。

「キャンキャンボム」

 発動する少女のスキル、空中に現れる2体のぬいぐるみ型爆弾、なんのコミュニュケーションもなくそれはかんなに向かって迫る。

(ふざけんなよ、こんなに問答無用で殺されたんじゃ救いがなさすぎる!)

 視界の端で四鬼が自分だけ退避するのは見えていた、だけどかんながそれに続く訳にはいかない、背中にはとわ君がいるのだから。

「とわ君、立て!」

「ぅえっ!?」

 言いながらとわの肩を掴み持ち上げたかんなは抱きしめながら2人で倒れる様に床を転がる、高熱を伴った風を背中に受けながら身体を起こし視線を向ければ爆弾魔の少女は自分達には見向きもせずに外に出る所だった。

(こんな所もデジャヴ!)

 昨日自分が朝子の邪魔をしなければこんな事にはならなかったのか、あいつは死ななかったのか? 後悔がかんなの胸をよぎる。
 自分の甘い考えのせいで人が死んだのか、と。

「・・・かんなさん?」

 痛みと混乱から細めた目で自分を見るとわから手を離してかんなは立ち上がる。

「行ってくる!」

「かんなさん!?」



 外に飛び出すかんなの目に飛び込んできたのは、眼鏡の少年と同じ様に身体を抉られて倒れた人だった。 それも1人ではなく見えるだけでも5人。

 倒れた人に、難は逃れたが恐怖に震える人達、さっきまでと空気を一変させた世界に唾を飲み込み、かんなは駆け出す。 倒れている人で進むべき方向は分かる。

(ふざけるなよ! なんだこれ! なんだよこれ!)

 一つ曲がった先、大通りに続く道に紫色の少女の姿があった。

(いた! いたけど!)

 見つけた少女の姿に強く噛んだ歯がギリっと音を立てる、殺人者は今にも女性に向けて大鎌を振り下ろす所だった。

「やめろーーっ!!」

 全力で走るかんなはその勢いのまま跳ぶ、遠距離からの跳び蹴りはそれでも届く未来が見えた、紫ツインテールの少女は振り返ると邪魔そうに腕を振る、ぬいぐるみ爆弾がかんなの前を塞ぐ。

 「っ!!」

 衝突からの爆発、足は痛いし勢いは失われた、それでも今も変わらず足はある。 かんなは空中で態勢を立て直し拳を打ち下ろす、モーションの大きなそれは回避され地面に着地したかんなの足には激痛、血が滴り吹き出す。

 それでも、今動かなければいけない事をかんなは知っている。 距離を離されれば自分は戦えないのだから、痛む足を無視して力を込めて

「えっ・・・」

 かんなの足が地面にくっついて離れない。

(そうだ!! こいつにはこれもあった!!)

 昨日も同じ事をされたのに忘れていたかんなの心臓が早鐘を打つ、スキルは1人1つその先入観がもう1つの能力を記憶の中で薄れさせていた。

(足止めと動く爆弾、こいつの能力は相性が良すぎる)

「あなた、わざわざ小鳥の経験値になりに来たのね。 偉いねぇ」

 鎌を掲げて見下ろしてくる笑顔の造形は美しい、それなのにその瞳はどろどろに濁り自分を人として見てはいないとかんなは感じた。

(私達と同じ世界を生きてきた現代人だろ? なんでそんな目を出来るんだよ)

 自分はここで一度殺されるのか、それもこんなにも無力に。
 そう思うとおかしかった。
 必要だと散々言われても、力はいらないと拒否してその結果こんなにもあっさり殺されるのだからなんと恥ずかしい事だろう。

 バケモノだとか怪物だとかそんな風に言われた自分もスキルやステータスのある世界では簡単に埋もれてしまう程度だった。


 ・・・本当に?

 ただ自分がそう安心したいだけじゃないの?

 1度目の終わりを告げる鎌が落ちてくる。
 どこかで奇跡を叫ぶ声を聞いた。

 地面を蹴る足が自分自身を全力で吹っ飛ばす、風だけを斬った鎌は土をえぐり、かんなは両脚で立ち上がる。

 奇跡の代償がなんなのかは知らない、それでも彼は見ず知らずの他人の為に使うんだろうとかんなは思う。
 弱いと思っていた少年はきっと泣きながら奇跡を願い続けるから。

 だから、誰かが止めなくちゃいけない。
 笑っちゃう様なセリフで友達になってくれるって言ってくれた男の子なんだ。

「きゃんきゃんボムズ。 あなたもなんだか嫌い、小鳥の前から消えて」

 ツインテールのゴスロリ少女を覆い隠す様にどんどんと増えていくぬいぐるみ。

 結城かんなは小鳥と名乗る少女を敵として見て、拳を握る。

 例えば足の動きが何かに拘束されるとして、自分は動けなくなるか。
 踏み出した足は地面を蹴り身体を前へと突き出す。

 例えば爆発に包まれたとして自分の腕は壊れるだろうか。
 意思を込めて伸ばす腕はいくつもの爆発の中にあっても一切歪まず前へと進む。

「えっ? ・・・!!!?」

 かんなの右手が握った拳は爆発の壁を突き破り敵と定めた相手の肩を打ちつける。

 面白いくらいに飛んでいく少女に、かんなは眉間に皺を作りながら手を下ろす。

「・・・だから、戦いたくなんてないんだよ」

「ふふ、笑わせないで。 その程度で全てをねじ伏せるなんて無理よ」

「・・・お前かよ」

 いつのまにか後ろにいる黒服の美少女、余裕の表情で笑う朝子にゲンナリとするかんな。

「・・・あの子、私が2回相手をしたんだけど、まだ懲りてなかったのね。 貴方にも手間をかけさせたわ」

 言いながら朝子は取り出した小瓶をかんなに手渡す。

「なんだこれ? 普通のポーションじゃないよな?」

「高級品みたい、貰い物だから気にしないでいいわ」

 誰からそんなもの貰うんだよと、胡散臭いものを見る目で見ながらお礼を言うかんなを尻目に朝子は仰向けに倒れるゴスロリ少女の元まで歩く。

「マイブラック、動かないでね。 知っているでしょ、私は容赦なく貴方にトドメを刺すわよ」

 朝子のスキルで、少女の首に薄く触れる場所で交差する黒い剣が2本現れる。
 その手際の良さにかんなは言葉を失いまたゲンナリする。

(というか、こいつを2回殺して宿舎に送ってたの朝子さんか)

 せっかく貰ったんだし高級だというポーションを使う事にする、右腕と右足は服が破れボロボロで中身もそれは同じで血まみれで変色しズキズキと痛んだ。
 ポーションを腕にかけながら後ろを見てとわ君を探すが、まだ姿は見えなかった。

(回復頑張ってるのかな?)

 ポーションをかけた部分は傷が治るだけでなく血も消え、美しい腕と足が蘇る。

「・・・プリンセスメーカー、セット32」

「・・・何それ?」

「私のスキル」

 かんなの服が一瞬で新しい物に変わる、同時に髪や顔に付いていた細かい汚れも消えて無くなる。

「・・・そう」

 なんなのその役に立たないスキル、と朝子はつまらなそうな顔をした。
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