D-コンティニューズ。なんちゃってヒロインと等身大の英雄。

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なんちゃってヒロインと奇跡の抜け殻4

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「それでこれは殺すの?」

 朝子はスキルの力で空中に固定された剣の柄に手をかける。 
 少しでも剣が動けば首が落ちるうつ伏せの少女小鳥は身体をピクリとも動かさずに口を歪めて朝子を睨む。

 2人の様子を見ていたかんなは溜息を吐く。
 その少女のした事を考慮しても、かんなには殺すという選択肢は選べなかった。

「殺さない。 ・・・今更だけど女の子を傷付けたくはないし、殺したってどうせ復活するんだから無駄でしょ。 この世界には警察的なのないの?」

「・・・そう。 犯罪者はギルドに持っていけば鬼が捕まえてくれるわ、かかっていれば賞金も貰える」

「ふーん、ありがと。 じゃあ、そうする。 ねー、少しその子見てて貰ってていい? とわ君が近くにいる筈だから声かけてくる」

 朝子の返事の前に背を向けたかんなは座り込む女性に「大丈夫、立てる?」と声をかけていた。 鎌で斬られる寸前だった女性は腰が抜けている様で、顔には涙の跡があった。
 かんなが女性に手を伸ばすと、女性はかんなの容姿にポーっと見惚れる、当のかんなはそんな事には気付かずに後ろにいる朝子に話しかける。

「そういえばさ、私らと同期の眼鏡の男の子いたろ? その子死んだよ、そこの子に殺された、三途の河を渡ってもう復活も出来ない」

 全然関わりがなかったといっても、同じ境遇でこの世界に来た言わば仲間だ。 普通はショックを受けるし、人によっては殺した相手を嫌悪する。
 ただ、聞いた朝子は淡々と相槌を打つ。 ただの世間話だと言うみたいに。

「そう。 だから強くなれって言われたのにね」

 きっと、淡白な反応をする、そう感じていたからかんなはこの話をこの場ですることが出来た。 分かっていたのにこの反応は寂しいなと思う。

「・・・そうだね」

 ただ朝子の言葉に正しさがあるのも分かる、かんな達は能力選びの時から鬼に戦う力は絶対に必要だと言われていた、強くなれって。
 死んだ彼はそれでも強くなる事より自分の欲望を優先し続けたのだから。
 ・・・だからってそれを自業自得だなんて思えないけど。

 かんなは首だけ動かし剣に拘束された少女の顔を見る。

「君は、どう思う? 君が殺した私達の仲間は死んだよ」

 かんなの言葉を聞いて、威嚇する獣の様だった表情から一転少女は笑う。

「いいと思う! 小鳥も死んだんだもの、みんな死ねばいいんじゃない? 特にさ、幸せだって笑う人は嫌いだからさ、死ねばいいと思うよ」

 挑発するみたいに自分を見上げる深い闇を抱える瞳に、気付けばかんなは地面を殴りつけていた、少女の顔のすぐ横を。
 呆然と言葉を失う小鳥を見下ろしながら朝子は彼女を拘束していた剣を消す、腕を掴んで無理やり立たせた。
 かんなを嘲る様に笑ってみせる。

「ふ、この子は私が連れて行ってあげるわ。 貴方は疲れてるんでしょ、貴方の方が殺しそうだわ」

 その提案が自分が冷静じゃないからしてくれたものだと分かるかんなは下唇を噛んで頷く。

「・・・お願い。 逃がさないでよね」

「大丈夫よ。 この距離なら例え爆弾で自分の腕を爆破しても私からは逃げられないって、この子だって分かっている筈だもの」

(なんで、殺人鬼相手にそんな自信満々でいられんだよ)

 呆れるかんなに見送られながら朝子は小鳥の手を引いて歩いて行く。

 朝子の言葉が真実だと小鳥自身感じているのか、威嚇はしても反抗はしなかった。

「貴方も、あの永遠って子も人事じゃないのよ。 強くなければ、奪われるだけよ」

 目だけ向けて言ってきた朝子にかんなは余計なお世話だ早く行けよ、と手を振った。

(強さ、ね)

 どこを見たってかんなの欲しい答えはないから静かに息を吐いた。

 

 やたらと自分の手を握ってくる女性を見送ってかんなは道を戻る。

 群がる人が輪を作り歓声が響く、その中心から溢れてくる光。
 
(とわ君の専用スキル・・・か)

 代償と引き換えに奇跡を起こす、どんな聖人だよというスキルが今行使されている。 死者を蘇らせる、この世界ではとても不自由で歪んでいるとかんなが感じるスキルが。

 この道には血の跡は残っていても倒れている人はもう見当たらない、きっと何度もスキルを使った後で今が最後の人なんだろうなと考えながら煙草代わりの木の棒を咥える。

(本当の煙草が欲しいな)

 人の輪に混ざるつもりのないかんなが黄昏ていると、一際大きな歓声が上がった。

(終わったのかな? ん?)

 歓声がすぐに悲鳴に変わる。 耳を澄ませば何が起きたのかは見ずとも分かった。
 最後の蘇生は成功したが直後にとわ君が消えたらしい、この世界の原住民の人達はそれが復活する転生者の死亡だと理解していたようだ。

(とわ君、スキル使い終わって死んだのか、それも代償?)

 舌打ちしたかんなは彼の復活地点である自分達の宿舎に向かって地面を蹴りだす。
 代償なのかなんなのかは分からないけど、復活というルールが無ければこれでとわ君の第2の人生は終わりだった、そう思うとどうしようもなく胸がムカムカした。



「とわ君!」

 バタンと開いた扉の先には誰もいない、さっきまで食堂にあった死体は綺麗になくなり、少し歩けば調理場で割烹着姿の四鬼が夕ご飯の準備らしき作業をしていた。

「おかえりなさいまし。 とわさんは死んだのですね、スキルを使って」

 走ってきた呼吸を落ち着かせるかんなは四鬼が悲しそうに言うのを見て違和感を覚える、本当の死体を目にした時にもそんな顔はしなかったのに。

「それがスキルの代償?」

「死亡がですか? そんな安い代償で奇跡なんて起きませんよ。 知っていますか、この世界の人は貴方達を不死者と呼ぶのです、そんな貴方達の死には経験値以上の価値なんてありません」

 目を細めて首を傾げる四鬼、かんなは不死者という呼び名をとわ君が消えた後の人の輪から聞いた。 恐怖や羨望を伴う訳ではないただそういう隣人がいる、そんな感じの呼び方だった。

「それじゃ、とわ君のスキルの代償って?」

「私の口からは言いませんよ。 それは本人から聞いてくださいまし」

 ちょうどその時とわが食堂に姿を見せた。

「かんなさん!? 大丈夫ですか? 怪我とかしませんでした!?」

 一度死んだ筈の自分の事を棚に上げてとわは心配そうにかんなに走り寄る。
 その姿にかんなの身体からガクリと力が抜ける、表情を崩さない様にと必死に耐える。

 他人の為に代償を払って自分自身も一度死んで、それでも平気な顔してまた人の心配をしている、彼のその在り方がとてもとても痛々しく見えたから。

「・・・私は大丈夫。 とわ君は? ・・・とわ君のスキルの、代償ってなんなの?」

 聞かれたくなかったと目を泳がせた後に、とわはゆっくりと笑顔を作る。

「今までの経験値全部と、あとはステータスの成長値が少しずつ下がっちゃいましたけど、それだけですよ」

 また明日1からやり直しですって、自分の首に手を触れ笑う少年の姿にかんなは表情を保てずに俯く。

 今日、強くなりたいと一生懸命戦っていた姿を知っているから。 その力が他の人より劣っているのも分かっている、元々の身体能力も運動神経も良くない事も、性格も戦うのに向いてない事も。 
 それなのに、次同じレベルまで上がった時にステータスは今日のものよりも低くなる。
 これからだって他人の為の奇跡を願う度に失っていくんだから。

「えっと・・・僕なら全然大丈夫ですから、そんな顔しないでください」

 いつか全てを失う姿を簡単に想像出来る、この幼さを残す少年の笑顔がただただ悲しくて。

「とわ君は・・・そんなんじゃ、とわ君だけが救われない」

「えっと、僕はいいんですよ。 僕は僕の全てと引き換えにしても救われて欲しかった人に何にも出来なかったんです。 あの時、僕達が願っても届かなった奇跡の為なら、僕は何を失くしたっていいんです」

 そうやっぱり笑うとわ君はその気持ちを誇る様に真っ直ぐかんなを見つめて、自分よりも年下で死んだ少年が自分の知らない悲しみを知っている事をかんなは知った。

 誰よりも等身大に見える少年は内側に誰よりも強い化け物を飼っているのを知った。

 強いのだと思っていた自分も心はとても弱い事を知った。
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