6 / 18
1章 家族になろう
タヌキと魔王油おじさん
しおりを挟む俺の仕事はシフト制で、運が悪いことに朱花が来た日から俺は五連勤だったがそれも今終わった!!
休みが待ち遠しかったのは確かだけど、それでも幸せな日々だった。
朱花にひらがなとカタカナ教えたり一緒に漫画読んだり。
毎日が楽しかった。
さて、明日はどんな1日になるのか、うきうきしながら急いで帰る。
「ただいま。」
「おかえりなう。」
いつもの様に朱花はテーブルに向かいながら俺の事を出迎えてくれる、これだよ、これが俺の幸せだよ。
「朱花、明日はどこかに出かけないか?・・・ふ、二人で。」
「・・・油おじさん、夕ご飯はどうしたなうな?」
「・・・あっ。」
忘れてた。
朱花のジトッとした目が俺の事を捉える。
完全に浮かれてた。
「今日はピザでも頼もうかと思ってたんだよ。うん、嘘じゃない。」
「ピザなうな、遂に油おじさんの本領発揮なうな。」
ピザ、そんなに油っぽいか?
まー嬉しそうだからいいんだけど。
俺は携帯でピザのページを開いて朱花に好きなの選べと渡す。
「これなう。」
うん、Lサイズなら半額になるしLにして、サラダはこれにして。
「サイドメニューはどうする?どれがいい?」
「なうな、頼む前提なのが油おじさんなうな。これな。」
注文はこれで完了、住所も前に登録してあるから大分簡単だ。
「俺ちょっとシャワー浴びてくる。」
「油おじさん・・・。」
なんだよ、意味深な視線を送ってくるなよ。
いいだろ、俺だって休みの前の日ぐらい綺麗な身体でいたいんだよ。
シャワーを浴びて戻ってくるとテーブルの上が片付いてスペースが出来てた、結構気がきくよな。
「ふんふん。」
本人は真剣な顔で漫画の描き方の本を読んでる。
程なくしてピザが届いた。
クイズ番組を見ながら二人で食べた、クイズでは俺が圧勝した。
それでも悔しがりながら最後まで真剣に答えてくれたから楽しかった。
「それで、明日どっか行かないか?俺休みなんだよ。」
「なう?どっかってどこなう?」
「うーん、お前と最初に会った公園とか?」
正直どこに行けばいいのか分からないんだよな、こっち来てから買い物くらいしか出かけてないから。
「行ってどうするなうな。・・・別にいいなう、漫画家の先生も帰って来てるかもしれないなうなし。」
朱花の言葉に胸が冷えた、もしそうなったら朱花は出て行ってしまうのか?
いや、そもそもなんで俺んちにいるのかもわからない関係だしな。
・・・でも。
「はふん。」
俯く俺に朱花のため息が届く。
冷めた目が俺を見ていた。
「その時は昼はアシスタント、夜は油おじさんとご飯食べてやるなう。二足の草鞋なうな。」
二足の草鞋って俺の所ではご飯食べてるだけで働いてないじゃんか、でも、そう言って貰えて良かった。
「なあ、お前はもしかして恩返しの為に俺といてくれてるのか?」
食べ物を貰ったお礼の為に。
「なうな?」
・・・どうやら違うらしい、キョトンとしてる。
「油おじさん、もしかしてあの時あたしを助けてくれた狼男!?」
違うよ!!
なに、そんな過去があるの!?いるの?
この辺に狼男?
「いや、ご飯あげてたじゃん。今もだけど。」
俺の言葉に朱花は口を歪めた。
「はふん、あれは油おじさんが寂しそうだから一緒にご飯食べてあげてたなう!むしろ感謝するなう!」
そうなのか、そうだったんだ。
「そっか、ありがとう。」
お礼の言葉は素直に出た。
俺にとって東京での唯一の癒しだったから。
「はふん!」
立ち上がった朱花は俺の所に来ると座る俺の股のところに枕を置いてその上に座った。
「漫画読むなう。」
朱花にタブレットを持たされて俺は漫画アプリを開いていく。
ちなみに強く設置された枕は俺のが大きくならない様にとの対策らしい、なんと言ってもこの体勢は朱花の柔らかくていい匂いの身体が密着してくるのだ、俺のは当たり前のように大きくなるからな、有難い。
人の姿の朱花なら自分でタブレットを使えるのに狸の時と同じ様に俺にページをめくらせる。
俺としては嬉しいけど、これもこの子の優しさなのだろうか。
そう思いながら様子を伺うと耳とほっぺが薄っすら赤い?
「・・・。」
これは、すでにそこそこの大きさになってるのに気付かれてる!?
鎮まれ!鎮まれ!俺の!
「文字もマスターしたなし、絵も上達したなう。そこであたしはネームという物に挑戦してみるなう!!」
俺の胸に背中を預けてかわいい生き物がそう宣言した。
これはもう抱きしめていいのか?
凄いかわいいんだぞ。
あと、平仮名もまだマスターしてない。
今も[あ]と[お]が融合したキメラを生み出してるぞ。
「そこでなう、油おじさんには改めてネームとは何なのかを教えて欲しいなうな。」
いや、それはいいけどなんで頭で俺のアゴをグリグリしてくるんだ!
止めろ!そんな事をしても俺の事をときめかせるだけだぞ。
「前も言ったけどネームは漫画の設計図みたいものだ。」
「なう!定規がいるなうな!」
いや、定規は別に無くてもいい。
「つまり、先にどういう話にしたいかを決めなくちゃいけないんだ。もう話は決まってるのか?」
「ないなうな!凄くエロいのにはしたいなう。」
なんでそんなにエロがいいかな、そういえば前に聞いたけど全く分からなかったな。
「とりあえず、最初はエロくないのにがいいんじゃないか?エロは一番画力が必要だろ。まずはギャグ漫画とかで練習してだな。」
俺が昔描いてたのもギャグ漫画だしな、4コマとか1ページのが描きやすくて描いてた。
「なうな、エロ漫画でジャンプの頂点をなー。」
いや、しょんぼりしてるけど少年誌でエロ漫画はそもそも無理だろ。
俺が勝手に18禁で想像してたけど軽いエロだったのかな?
どっちにしても画力が足りな過ぎるけど。
「それでな?ギャグ漫画はどうやって考えるな?」
どうやって?
うーん、俺はどうやってたのかな。
「まずは柱になる物を決めないと行けないんじゃないか?」
「柱なうな。」
朱花はお尻の下の枕を叩いた、振動が俺のに伝わってくる。
違う、それは柱の様で柱じゃない!頼りない俺のじゃハンガーを支えるにだってやっとだ。
「主人公のキャラでもいいし、世界観とか、設定でもいい、ほら、女子高生ものとか、ダメな勇者を主人公にしたりとか。」
「なうな。・・・エルフなうな。」
お前、そんなにエルフが好きか。
「はうなう!」
その時、朱花の身体を電気が走った、様な気がした。
「エルフは呪いをかけられたなうな、おっぱいが無くなる呪いな!犯人は魔王油おじさん!これなう!!」
「・・・。」
いや、これなうって言われても何それ。
魔王油おじさん?なんか凄いギトギトしてそうなんだけど。
「アイデアがアイデアがほとばしるなう!!あたしは神になる!!」
なんでそんなに増長できるのさ!?
「まず魔王油おじさんの見た目はデフォルメされたゴキ◯リ!!」
おい、悪意しか感じないぞ!!
凄い勢いで朱花のシャーペンが動いていく。
「・・・。」
ぜんぜんデフォルメされてない!!
なんでこういう絵だけ上手いの!?
しかもデカイ!ルーズリーフからはみ出さんばかりの躍動感でリアルな奴が・・・。
「なうなーーー!!」
いや、もう好きにしてください。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる