餌をあげてた狸が女の子の姿でアシスタントにしてくれと来たけど俺は漫画家じゃない。

D−con

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1章 家族になろう

タヌキと魔王油おじさん

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 俺の仕事はシフト制で、運が悪いことに朱花が来た日から俺は五連勤だったがそれも今終わった!!
 休みが待ち遠しかったのは確かだけど、それでも幸せな日々だった。

 朱花にひらがなとカタカナ教えたり一緒に漫画読んだり。
 毎日が楽しかった。

 さて、明日はどんな1日になるのか、うきうきしながら急いで帰る。

「ただいま。」

「おかえりなう。」

 いつもの様に朱花はテーブルに向かいながら俺の事を出迎えてくれる、これだよ、これが俺の幸せだよ。

「朱花、明日はどこかに出かけないか?・・・ふ、二人で。」

「・・・油おじさん、夕ご飯はどうしたなうな?」

「・・・あっ。」

 忘れてた。
 朱花のジトッとした目が俺の事を捉える。
 完全に浮かれてた。

「今日はピザでも頼もうかと思ってたんだよ。うん、嘘じゃない。」

「ピザなうな、遂に油おじさんの本領発揮なうな。」

 ピザ、そんなに油っぽいか?
 まー嬉しそうだからいいんだけど。
 俺は携帯でピザのページを開いて朱花に好きなの選べと渡す。

「これなう。」

 うん、Lサイズなら半額になるしLにして、サラダはこれにして。

「サイドメニューはどうする?どれがいい?」

「なうな、頼む前提なのが油おじさんなうな。これな。」

 注文はこれで完了、住所も前に登録してあるから大分簡単だ。

「俺ちょっとシャワー浴びてくる。」

「油おじさん・・・。」

 なんだよ、意味深な視線を送ってくるなよ。
 いいだろ、俺だって休みの前の日ぐらい綺麗な身体でいたいんだよ。

 シャワーを浴びて戻ってくるとテーブルの上が片付いてスペースが出来てた、結構気がきくよな。
 
「ふんふん。」

 本人は真剣な顔で漫画の描き方の本を読んでる。

 程なくしてピザが届いた。
 クイズ番組を見ながら二人で食べた、クイズでは俺が圧勝した。
 それでも悔しがりながら最後まで真剣に答えてくれたから楽しかった。

「それで、明日どっか行かないか?俺休みなんだよ。」

「なう?どっかってどこなう?」 

「うーん、お前と最初に会った公園とか?」

 正直どこに行けばいいのか分からないんだよな、こっち来てから買い物くらいしか出かけてないから。

「行ってどうするなうな。・・・別にいいなう、漫画家の先生も帰って来てるかもしれないなうなし。」

 朱花の言葉に胸が冷えた、もしそうなったら朱花は出て行ってしまうのか?
 いや、そもそもなんで俺んちにいるのかもわからない関係だしな。
 ・・・でも。

「はふん。」

 俯く俺に朱花のため息が届く。
 冷めた目が俺を見ていた。

「その時は昼はアシスタント、夜は油おじさんとご飯食べてやるなう。二足の草鞋なうな。」

 二足の草鞋って俺の所ではご飯食べてるだけで働いてないじゃんか、でも、そう言って貰えて良かった。

「なあ、お前はもしかして恩返しの為に俺といてくれてるのか?」

 食べ物を貰ったお礼の為に。

「なうな?」

 ・・・どうやら違うらしい、キョトンとしてる。

「油おじさん、もしかしてあの時あたしを助けてくれた狼男!?」

 違うよ!!
 なに、そんな過去があるの!?いるの?
 この辺に狼男?

「いや、ご飯あげてたじゃん。今もだけど。」

 俺の言葉に朱花は口を歪めた。

「はふん、あれは油おじさんが寂しそうだから一緒にご飯食べてあげてたなう!むしろ感謝するなう!」

 そうなのか、そうだったんだ。

「そっか、ありがとう。」

 お礼の言葉は素直に出た。
 俺にとって東京での唯一の癒しだったから。

「はふん!」

 立ち上がった朱花は俺の所に来ると座る俺の股のところに枕を置いてその上に座った。

「漫画読むなう。」
 
 朱花にタブレットを持たされて俺は漫画アプリを開いていく。
 ちなみに強く設置された枕は俺のが大きくならない様にとの対策らしい、なんと言ってもこの体勢は朱花の柔らかくていい匂いの身体が密着してくるのだ、俺のは当たり前のように大きくなるからな、有難い。

 人の姿の朱花なら自分でタブレットを使えるのに狸の時と同じ様に俺にページをめくらせる。
 俺としては嬉しいけど、これもこの子の優しさなのだろうか。

 そう思いながら様子を伺うと耳とほっぺが薄っすら赤い?

「・・・。」

 これは、すでにそこそこの大きさになってるのに気付かれてる!?
 鎮まれ!鎮まれ!俺の!




「文字もマスターしたなし、絵も上達したなう。そこであたしはネームという物に挑戦してみるなう!!」

 俺の胸に背中を預けてかわいい生き物がそう宣言した。
 これはもう抱きしめていいのか?
 凄いかわいいんだぞ。

 あと、平仮名もまだマスターしてない。
 今も[あ]と[お]が融合したキメラを生み出してるぞ。

「そこでなう、油おじさんには改めてネームとは何なのかを教えて欲しいなうな。」

 いや、それはいいけどなんで頭で俺のアゴをグリグリしてくるんだ!
 止めろ!そんな事をしても俺の事をときめかせるだけだぞ。

「前も言ったけどネームは漫画の設計図みたいものだ。」
 
「なう!定規がいるなうな!」

 いや、定規は別に無くてもいい。

「つまり、先にどういう話にしたいかを決めなくちゃいけないんだ。もう話は決まってるのか?」

「ないなうな!凄くエロいのにはしたいなう。」

 なんでそんなにエロがいいかな、そういえば前に聞いたけど全く分からなかったな。

「とりあえず、最初はエロくないのにがいいんじゃないか?エロは一番画力が必要だろ。まずはギャグ漫画とかで練習してだな。」

 俺が昔描いてたのもギャグ漫画だしな、4コマとか1ページのが描きやすくて描いてた。

「なうな、エロ漫画でジャンプの頂点をなー。」

 いや、しょんぼりしてるけど少年誌でエロ漫画はそもそも無理だろ。
 俺が勝手に18禁で想像してたけど軽いエロだったのかな?
 どっちにしても画力が足りな過ぎるけど。

「それでな?ギャグ漫画はどうやって考えるな?」

 どうやって?
 うーん、俺はどうやってたのかな。

「まずは柱になる物を決めないと行けないんじゃないか?」

「柱なうな。」

 朱花はお尻の下の枕を叩いた、振動が俺のに伝わってくる。
 違う、それは柱の様で柱じゃない!頼りない俺のじゃハンガーを支えるにだってやっとだ。

「主人公のキャラでもいいし、世界観とか、設定でもいい、ほら、女子高生ものとか、ダメな勇者を主人公にしたりとか。」

「なうな。・・・エルフなうな。」

 お前、そんなにエルフが好きか。

「はうなう!」

 その時、朱花の身体を電気が走った、様な気がした。

「エルフは呪いをかけられたなうな、おっぱいが無くなる呪いな!犯人は魔王油おじさん!これなう!!」

「・・・。」

 いや、これなうって言われても何それ。
 魔王油おじさん?なんか凄いギトギトしてそうなんだけど。

「アイデアがアイデアがほとばしるなう!!あたしは神になる!!」

 なんでそんなに増長できるのさ!?

「まず魔王油おじさんの見た目はデフォルメされたゴキ◯リ!!」

 おい、悪意しか感じないぞ!!
 凄い勢いで朱花のシャーペンが動いていく。

「・・・。」

 ぜんぜんデフォルメされてない!!
 なんでこういう絵だけ上手いの!?
 しかもデカイ!ルーズリーフからはみ出さんばかりの躍動感でリアルな奴が・・・。

「なうなーーー!!」

 いや、もう好きにしてください。

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