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漫画家を目指す、1人と1匹
タヌキとクリスマス 3
しおりを挟むとりあえずひたすら絵の練習を俺はする。
絵を描くの久し振りだと楽しく感じるから不思議だ。そう感じるのは目の前に凄く楽しそうなのがいるからかもしれない。
一人で描いてる時はただしんどかった気がするんだけどな。
中学生エルフに似合いそうな制服をネットで調べながら描いて、いくつかのキャラのバリエーションを作りながらどういう性格にしようかと考える。
気付けば深夜の2時を過ぎていた。
・・・明日も仕事だし寝ないと。
「朱花、俺もう寝るぞ」
「なー、あたしも寝るなうな」
なんか、朱花の目がぽったりしてる。さては相当眠いな、こいつ。
俺がベッドに入ると狸になった朱花が飛び込んでくる。
「おー、よしよし」
「みゅう」
俺は朱花を抱きしめてわしわししてから高い高いする。
「今日も朱花はかわいいなー」
「みゅううう」
おう、朱花が不機嫌そうに唸り声を上げてる。俺は慌てて朱花をベッドに下ろした。
「悪い、さすがに子ども扱いしすぎたな」
素直に謝る。言い訳させてもらえば久し振りに絵を描いて何故かテンションが上がっていたのです。
「そうじゃないみゅ」
俺の胸に乗った朱花が不機嫌そうに鼻先でぐりぐりしてくる。あれか、眠い所を過剰にいじったのが悪かったか、反省します。なだめようと俺は朱花を優しく撫でる。
「みゅー」
すぐに朱花は気持ちよさそうに息を吐くから俺は一安心。
「布団をかけるみゅ」
「はいはい」
言われた通りに俺は朱花の上から布団を被る、今日は俺の上で寝るつもりなのか。別にいいんだけど、朝起きるとよだれでびしゃびしゃなんだぞ、俺が。
はー、それにしても冬でも二人ならポカポカだな。
いざ、漫画を描こうとしても俺は仕事がある分、朱花に比べて進むのが大分遅い。
俺がようやくネームに取り掛かり始めたタイミングで朱花は原稿の下書きに突入した。
・・・原稿用紙も追加を買いに行かなきゃだな。明日が休みだから完成原稿をコピーして出版社に送ってから新宿に行って買い物して、また牛タンにしようかな。
次の日昼前に動き出した俺達はまずコンビニで原稿用紙をコピー、そのまま郵便局に行って応募した。
近くに神社が見えたからついでにお参りしてみる。
賽銭箱の前で目をつむる朱花がアライグマみたいな動作で手をこしこしと動かしている。
・・・似ているもんな、アライグマとタヌキ、あとレッサーパンダ。
「創造の女神狸様、どうかあたしの漫画が賞を取りますようになうな」
・・・多分、ここの神社に女神狸はいないぞ、確証はないけど。
「出来れば賞金は百万がいいなう」
そして注文が現金! 俺は神様には祈らない派だから悪い事が起きませんようにとだけ祈っておく。神様に祈っていい事があったんじゃ後でその反動が怖いからな。
神社を出る時になって後ろ髪を引かれるように振り返る。
「油おじさん?」
「いや、なんでもない」
遠くから少しだけ、いつまでも一緒にいられたらいいなと願っただけだ。
あと10か月くらいで東京とお別れか。
「あーあ、仕事やめようかな」
「油無職おじさんなうな? なんか虫みたいなう」
思わず出た俺の無職発言に対してその反応、もしかして俺に興味無いのかな。
虫みたいなのはあれだよ、あぶらむしょく、ほら、アブラムシって言葉が隠れてるからな。
「もう少し頑張るなうな。もう少し、もう少し」
「ん、ああ、ありがと」
朱花が優しく俺の背中をさすってくれる。優しいな、さっき感じたのは俺の被害妄想か。
「漫画、賞取れるといいな」
「なうな! そうしたら油おじさん仕事辞めても大丈夫なう」
「ああ、そうだな」
俺の仕事辞めたいは地元に戻らずこっちで仕事探そうかなって意味だったんだけど、朱花の優しさが嬉しいから笑ってしまう。
さて、新しい原稿用紙を買いに行きますか!
そして一年の終わりは加速するように近付いて来て今日はもう12月24日、そう、クリスマスイブである。
夜10時までの仕事を終え帰宅中、ちなみに明日は休みである。
俺がサンタとして動き出すのは今日朱花が眠りについてからだ、買った日から俺の鞄の中で眠り続けたゲーム機がついに外に出る日が来た。
「ただいま」
「お帰りなう」
朱花は既に二作目のペン入れに取り掛かっていて今もその作業中だった。・・・俺はまだネームの途中です、違うんだよ、これは俺が遅いんじゃなくて朱花が速いんだよ。
「ほら、今日はクリスマスの総菜だぞ」
俺は朱花がテーブルの上を片付けるのを待って机の上にどんと置く。
よく見かけるチキンの盛り合わせと小さなサンドイッチ、やたらと色どりが豪華なサラダにデザートには小さなケーキもある。
「あーーあ、油おじさんが遂に本気を出したなう」
朱花がチキンの盛り合わせを上に掲げて震える。ご飯が揚げ物の度にそういう反応するのやめて欲しい。
・・・確かに朱花の公園狸時代は毎回揚げ物ばっかり分けてたけどさ、今となってはいい思い出だな。あの頃があるから今があるんだもんな。
「クリスマスなうな」
「うん、朱花はクリスマスって知ってるのか?」
俺がグラスに入れたオレンジジュースを渡しながら聞くと朱花はゆっくりと頷く。
「知ってるなう。聖なる夜と性なる夜をかけたカップルの為の日なうな」
違う! ・・・いや、違わない。うん、正解だ。
バレンタインと合わせて一年で一番俺の機嫌が悪くなる日でもある。今年はハッピーだけどな。
ところでクリスマスって乾杯の時にメリークリスマスとか言うんだっけ? こういうの久し振りすぎて全然思い出せないんだけど・・・確かどっかで一回くらいは言うんだよな?
・・・言うとしたらここしかないのか? ここでおじさんテンション上げて言うしかないのか?
「こくこく・・・油おじさん、ご飯は先にサラダから食べると健康にいいと聞いたなう。サラダから食べるなうな」
「お、おう」
朱花が何事もなくジュースを飲んで食べ始めた。・・・せめて普通に乾杯だけでもしたかった。
あと、そのサラダ先にって話は前に俺がした。母さんからそんなメールが来たから。
さて、ご飯を食べ終えた俺はそわそわしながらベッドに潜り込む。
眠い訳ではない、朱花を早く眠らせてから油サンタおじさんは動き出すからだ。・・・俺すっかり自分の事を油おじさんだと認識してるな。
「もう寝るなう? 疲れたなうな?」
「んー、まあそんな感じかな」
「そうなうな。 ・・・あたしはもう少し漫画描くから一人で寝るなう」
まじで? 今日は一緒に寝てくれないの!? 早い時間に寝ようとしたのが裏目に出た。
いや、逆に考えよう。ここで先に寝る事によって確実に朱花より先に起きる事が出来る、結果オーライだな。
「じゃあ、おやすみ。朱花もちゃんと寝るんだぞ」
「なう、いい夢見るなうな」
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