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最後の夜伽
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翔子は最近、気が気でなかった。
弟の京介の様子がどことなくおかしいのだ。
表面上は今までと何ら変わらないが、何かを隠しているような気がして仕方がない。
本人は隠しているつもりのようだが、そんなのは曲がりなりにも半分だけ血が繋がり、同じ空間で生活をしている翔子からすれば、隠していないのと同意だった。
それに、普通はありえないであろう定期的な肉体関係を持っているのだから、姉弟としては世間一般以上に濃密な関係である。そんな状態で気付かないほうがおかしいのだ。
(一体、何があったの……?)
これまでも何か隠し事がなかったわけではないが、それらは些細なことであり、さして気にするようなことではなかった。
しかし、今回はそれらとは全く異なっている。女特有の勘がそう伝えてくる。
嫌な予感がした。翔子にとって認めたくない、あって欲しくはない何かを京介は持ってしまっているのではないか。そう考えずにはいられなかった。
(最近は……セックスだってご無沙汰だし……)
あれだけ定期的に性交をしていたのに、ここ最近は全くしていなかった。翔子から誘っても、体調が悪いだの小テストがあるから準備をしないとだのと理由をつけて拒否してくる。
十代後半の若い男がセックスへの誘いを連続で断るなど、どう考えてもおかしい。
(…………むりやり聞くしかないわね)
これ以上、悶々とし続けるのはもう限界だった。どんな内容であれ、はっきりとさせなければならない。
翔子はそう意を決すると、彼が帰宅する時間を静かに待った。
そして、夜の八時を回ってからガチャリと玄関のドアが開かれた。
(今日も遅かったわね……)
ただいま、という声とともに京介の足音が近づいてくる。
それは翔子にとっては、審判の時を刻む恐怖の音でもあった。胃がキリリと痛み始める。しかし、ここで逃げるわけには行かない。
リビングのドアをじっと見つめる。くもりガラスの向こう側に、京介の姿がぼんやり浮かんでいた。
きゅっと唇を引き締める。妙な緊張感に全身を支配されながら、翔子は扉が開くのを見つめていた。
「おかえり。遅かったわね」
帰宅して迎えられた第一声は、低く冷たさの感じる声だった。
「う、うん。ちょっと寄り道しちゃって……」
寄り道という言葉に嘘はない。もっとも、その中身は言えないのだが。
まさか、セックスして遅くなったとは口が裂けても言えない。
芽衣子からの告白を受けてからというもの、彼女は人が変わったかのようにベタベタとするようになっていた。放課後はもちろんのこと、学校内でも少しでも人目が無い場所を見つけて連れ出されてはキスしたり抱きついたりしてくる。
彼女はTPOを弁えているとは言うのだが、俺から言わせてもらえばその基準や判断は完全に狂ってしまっている。クラスの中でも色目を使って話しかけてくるし、授業中はちょくちょく俺に視線を向けてきた。
流石にクラスの連中も気づいているようで、彼女が俺に話しかけると、好機の視線が集まるようになっていた。平穏さを是とする俺からすれば、居心地が悪いことこの上なかった。
そして、何より俺が驚き続けているのは、毎日のように彼女が体の交わりを求めてくることだった。
求められることは嫌ではない。むしろ、嬉しいしそのたびに夢見心地だ。だが、それが毎日ともなると話は別だ。
一体、彼女のどこにそんな体力と性欲があるのか不思議で仕方がなかった。
今日も放課後、物置のようになっている空き教室に連れてこられた俺は、どこから手に入れたのか鍵を使って中に誘われ、そのまま情事に耽ってしまっていた。
芽衣子は肌を重ねれば重ねたぶんだけ淫らになり、学校だというにもかかわらず押し殺せない嬌声を漏らしては絶頂していた。
そのうちバレてしまうのではないかと気が気でないのだが、それを断れないのが俺の男としての悲しい性である。
「晩ごはんは?」
「……少し欲しいかな」
遅くなったことへの非難とそれに対する気まずさがリビングに充満していた。
本当は帰りに芽衣子とジャンクフードを食べてきたので、ある程度腹は満たされている。晩ごはんにするには十分な量だった。
しかし、この空気でいらないなどとは言えなかった。
「……なにか食べてきたのなら無理しなくてもいいよ」
ポツリと静かに翔子が言う。ちらりと彼女に視線を向けると、感情の色の見えない冷たい瞳と交錯した。
「……京介。私、あなたに聞きたいことあるの」
ソファーから立ち上がってキッチンカウンター前のダイニングに移動する。安物の木製チェアーに腰を掛け、再び俺に視線を向けてきた。
「あなたもそこに座ってくれる?」
一見、彼女に激情さは見て取れない。どこまでも静かに淡々としている。それが怖かった。通常の翔子であればありえない姿である。
わかった、と一言だけ言ってから、俺は言われるままに彼女の正面椅子に腰を下ろした。
少しの間、流れる静寂。
壁掛け時計の秒針と、隣近所の生活音がかすかに聞こえるだけだった。
翔子は視線を俺からそらして、物憂げな顔を浮かべて足元のフローリングを眺めていた。
嫌な予感がじわじわと俺の胸を侵食する。
話の予想はついていた。間違いなく芽衣子とのことであろう。
翔子が姉であるにもかかわらず、俺を一人の男として好いているのはわかっていた。男なら誰しもが見惚れるであろう美貌を持ちながらも、全く男の存在が感じられないのは、俺以外の男に興味がないからだ。
姉の、翔子の気持ちをわかっていながら、俺はそれに答えることが出来ずにいた。それは、半分とはいえ血のつながった姉弟だからにほかならない。
姉としてはもちろん、女としても彼女のことは好きだった。愛してもいる。だが、恋人として見るには、血族という事実は否定のしようがなく、そういう形で考えることはできなかった。
それでも性関係を続けていたのは、翔子の期待に答えられないせめてもの償いだった。いわば、俺も翔子とのセックスは贖罪であり、それは芽衣子が俺に体を差し出してきたのと似ていると言える。
「はっきりと答えてほしいの」
視線を下に向けながら翔子が呟く。俺は何も言わずに、彼女を見つめた。
「…………彼女、出来た?」
弟の京介の様子がどことなくおかしいのだ。
表面上は今までと何ら変わらないが、何かを隠しているような気がして仕方がない。
本人は隠しているつもりのようだが、そんなのは曲がりなりにも半分だけ血が繋がり、同じ空間で生活をしている翔子からすれば、隠していないのと同意だった。
それに、普通はありえないであろう定期的な肉体関係を持っているのだから、姉弟としては世間一般以上に濃密な関係である。そんな状態で気付かないほうがおかしいのだ。
(一体、何があったの……?)
これまでも何か隠し事がなかったわけではないが、それらは些細なことであり、さして気にするようなことではなかった。
しかし、今回はそれらとは全く異なっている。女特有の勘がそう伝えてくる。
嫌な予感がした。翔子にとって認めたくない、あって欲しくはない何かを京介は持ってしまっているのではないか。そう考えずにはいられなかった。
(最近は……セックスだってご無沙汰だし……)
あれだけ定期的に性交をしていたのに、ここ最近は全くしていなかった。翔子から誘っても、体調が悪いだの小テストがあるから準備をしないとだのと理由をつけて拒否してくる。
十代後半の若い男がセックスへの誘いを連続で断るなど、どう考えてもおかしい。
(…………むりやり聞くしかないわね)
これ以上、悶々とし続けるのはもう限界だった。どんな内容であれ、はっきりとさせなければならない。
翔子はそう意を決すると、彼が帰宅する時間を静かに待った。
そして、夜の八時を回ってからガチャリと玄関のドアが開かれた。
(今日も遅かったわね……)
ただいま、という声とともに京介の足音が近づいてくる。
それは翔子にとっては、審判の時を刻む恐怖の音でもあった。胃がキリリと痛み始める。しかし、ここで逃げるわけには行かない。
リビングのドアをじっと見つめる。くもりガラスの向こう側に、京介の姿がぼんやり浮かんでいた。
きゅっと唇を引き締める。妙な緊張感に全身を支配されながら、翔子は扉が開くのを見つめていた。
「おかえり。遅かったわね」
帰宅して迎えられた第一声は、低く冷たさの感じる声だった。
「う、うん。ちょっと寄り道しちゃって……」
寄り道という言葉に嘘はない。もっとも、その中身は言えないのだが。
まさか、セックスして遅くなったとは口が裂けても言えない。
芽衣子からの告白を受けてからというもの、彼女は人が変わったかのようにベタベタとするようになっていた。放課後はもちろんのこと、学校内でも少しでも人目が無い場所を見つけて連れ出されてはキスしたり抱きついたりしてくる。
彼女はTPOを弁えているとは言うのだが、俺から言わせてもらえばその基準や判断は完全に狂ってしまっている。クラスの中でも色目を使って話しかけてくるし、授業中はちょくちょく俺に視線を向けてきた。
流石にクラスの連中も気づいているようで、彼女が俺に話しかけると、好機の視線が集まるようになっていた。平穏さを是とする俺からすれば、居心地が悪いことこの上なかった。
そして、何より俺が驚き続けているのは、毎日のように彼女が体の交わりを求めてくることだった。
求められることは嫌ではない。むしろ、嬉しいしそのたびに夢見心地だ。だが、それが毎日ともなると話は別だ。
一体、彼女のどこにそんな体力と性欲があるのか不思議で仕方がなかった。
今日も放課後、物置のようになっている空き教室に連れてこられた俺は、どこから手に入れたのか鍵を使って中に誘われ、そのまま情事に耽ってしまっていた。
芽衣子は肌を重ねれば重ねたぶんだけ淫らになり、学校だというにもかかわらず押し殺せない嬌声を漏らしては絶頂していた。
そのうちバレてしまうのではないかと気が気でないのだが、それを断れないのが俺の男としての悲しい性である。
「晩ごはんは?」
「……少し欲しいかな」
遅くなったことへの非難とそれに対する気まずさがリビングに充満していた。
本当は帰りに芽衣子とジャンクフードを食べてきたので、ある程度腹は満たされている。晩ごはんにするには十分な量だった。
しかし、この空気でいらないなどとは言えなかった。
「……なにか食べてきたのなら無理しなくてもいいよ」
ポツリと静かに翔子が言う。ちらりと彼女に視線を向けると、感情の色の見えない冷たい瞳と交錯した。
「……京介。私、あなたに聞きたいことあるの」
ソファーから立ち上がってキッチンカウンター前のダイニングに移動する。安物の木製チェアーに腰を掛け、再び俺に視線を向けてきた。
「あなたもそこに座ってくれる?」
一見、彼女に激情さは見て取れない。どこまでも静かに淡々としている。それが怖かった。通常の翔子であればありえない姿である。
わかった、と一言だけ言ってから、俺は言われるままに彼女の正面椅子に腰を下ろした。
少しの間、流れる静寂。
壁掛け時計の秒針と、隣近所の生活音がかすかに聞こえるだけだった。
翔子は視線を俺からそらして、物憂げな顔を浮かべて足元のフローリングを眺めていた。
嫌な予感がじわじわと俺の胸を侵食する。
話の予想はついていた。間違いなく芽衣子とのことであろう。
翔子が姉であるにもかかわらず、俺を一人の男として好いているのはわかっていた。男なら誰しもが見惚れるであろう美貌を持ちながらも、全く男の存在が感じられないのは、俺以外の男に興味がないからだ。
姉の、翔子の気持ちをわかっていながら、俺はそれに答えることが出来ずにいた。それは、半分とはいえ血のつながった姉弟だからにほかならない。
姉としてはもちろん、女としても彼女のことは好きだった。愛してもいる。だが、恋人として見るには、血族という事実は否定のしようがなく、そういう形で考えることはできなかった。
それでも性関係を続けていたのは、翔子の期待に答えられないせめてもの償いだった。いわば、俺も翔子とのセックスは贖罪であり、それは芽衣子が俺に体を差し出してきたのと似ていると言える。
「はっきりと答えてほしいの」
視線を下に向けながら翔子が呟く。俺は何も言わずに、彼女を見つめた。
「…………彼女、出来た?」
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