眠れない夜に

弥生

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夜に流されて

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リンは1人で歩いていた。


目をこらしても先は見えない道だけれど不思議と怖くない。暖かい風の中に刺すような冷たい息が混ざり、大きな波が押し寄せる。

「逃げなきゃ、」

「はやく!!」


焦る心と裏腹に体は根が生えたように動かない。

飲まれる、、!


ぎゅっと目をつぶるとそれはやってきた。




ヒューーッと耳元で叫び声がし

体が宙に浮く




ただ流され


どこかへ流され


無力な自分が泳いでいく




必死に抗うことをやめると


あっという間に波は私を包み込み



あたたかく抱きしめた





ゆっくり丁寧に寝かされるように下ろされ




リンはゆっくりと眼を開く



目の前の水面のあまりの美しさに息を失った



「………美しい」



これこそが美しいってことだと心に響いた



美しい


この静けさが


この寂しさが



この突き刺すような冷たさが



美しく


温かい




私はこれを愛してしまう




私はこれを捨てられない

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