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防衛大学の出張講義を聴いてみた。
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今回は、防衛大学の出張講義についてお話ししたいと思います。しばらく前のことなので、記憶頼りになりますがご容赦ください。
どんな案内のどんな機会かは割愛しますが、受講は任意なので、任意となると参加する人は限られるのですが、私のような変わり者は「自分と違う立場の話こそ聞いてみたい」という学びのために受講しました。
こういう時って世論調査で自衛隊に好意的な人でもわざわざ時間を取らないのですよね。
前回までの文章で私はリベラルな立ち位置だから、自衛隊にも距離を置いているだろうと思われるかもしれません。ですが、だからこそ異なる立場や考え方の人の話を直接聞くことを大切にしています。
講義には、防衛大学の教授が来訪されました。そして、その後ろには自衛官幹部が二人。一般企業で言えば、大企業の支社の課長や部長クラスに相当する役職の方々だと思います。そのお二人が、一時間以上、直立不動で講義する教授の後ろに立ち続けていました。椅子があっても座らない。姿勢を崩さない。その光景は、普段の職場ではまず見られないものでした。
「皆さんにも見せてあげたかった」と思うほど、組織文化の違いが凝縮されていました。運動部などでは先輩の話を直立不動で聞くのは当たり前かもしれませんが、中高年となると、若者からしたら異様とも取れる光景かもしれません。
講義内容のメインの一つは、防衛費の話です。世間では「防衛費を増やせば装備が充実する」と単純に語られがちですが、実際には増額の大半が人件費に消えていくという現実があるそうです。人を育て、維持し、運用するには莫大なコストがかかる。つまり、防衛費を増やしても劇的に戦力が強化されるわけではないという現実が語られていました。
次に、核ミサイルの脅威についても具体的な説明がありました。想定される着弾点として挙げられたのは東京駅でした。もし現実に核攻撃があった場合、23区に住む多くの人は助からない可能性が高く、迎撃も極めて困難だろうという話でした。静かな口調で語られるその内容は、ニュースやSNSで見る抽象的な議論とはまったく異なり、背筋が凍る思いがしました。
被爆地で具体的にどのような被害があるか、書籍では「死の同心円: 長崎被爆医師の記録」に長崎に原爆が落とされた際の、時間の経過とともに被害が広がっていく様が詳述されています。
本書を基にしたアニメ映画「NAGASAKI・1945/アンゼラスの鐘」も制作されました。
ここからは所感になりますが、特にカジュアルに「自衛隊っていいよね」と語る若い方々に向けて、私の自衛隊の実務の認識を書かせていただきます。
自衛隊の仕事は、一般企業とはまったく異なる世界です。業務の中には、一般企業ではあり得ない「暴力の訓練」が含まれます。もちろんそれは国を守るために必要とされる訓練ですが、日常的に身体的な危険を伴う環境に身を置くという意味でもあります。
所属する分野にもよりますが、水難救助や落下訓練、極限状態での行動訓練など、一歩間違えば溺死や転落死に至る危険性を伴う、拷問のようだと感じるほど過酷な訓練も存在します。安全管理は徹底されているとはいえ、リスクがゼロになることはありません。「国のため」という言葉の裏に、そうした現実があることは、軽く語られるべきではないと感じました。
組織内のコミュニケーションも一般企業とは異なります。厳しい上下関係と即応性が求められる環境では、言葉遣いも行動も非常に荒々しく、一般社会で丁寧に育てられた若者がその文化についていけるのか、正直なところ疑問に感じる場面もありました。もちろん、すべてがそうではないでしょう。しかし、少なくとも「自由で個性を尊重する職場」とは大きく異なる現実があるのは確かです。
講義を通して感じたのは、結局のところ「お金がいくらあっても足りない」という現実です。軍備を拡張し続ければ、その負担は必ず国民生活に跳ね返ります。一度軍拡の流れに入ると、国家予算の大部分が安全保障に吸い込まれ、生活はじわじわと貧しくなります。
アメリカは軍事力では世界最強国家とされていますが、莫大な財政赤字と借金を抱えながら軍事費を維持し続け、その結果として多くの国民が生活苦に直面している現状です。豊かな国というイメージの裏で、実際には大多数のアメリカ人が厳しい暮らしをしています。
講義を聞き終えたあと、国防や安全保障をめぐる議論は、理想や感情だけでは語れない現実の重さを伴うものだと改めて感じました。軽い言葉で語られる「強い国」や「安全」の裏には、過酷な現場と莫大な負担、そして最悪の事態に対する冷徹な想定があります。
ここで少し視点を広げて、国家財政の話にも触れておきたいと思います。現在、アメリカ政府の債務残高はおよそ34兆ドル(日本円で6,000兆円に近づく)に達しており、歴史的な水準に膨れ上がっています。そのため政府機関が閉鎖されたことも広く知られています。
一方で日本政府の債務残高も約1,130兆円を超え、日本の債務残高はGDPの2倍を超えており、主要先進国の中で最も高い水準にあります。国家の規模や経済構造の違いはあるとはいえ、このまま財政支出が拡大し続ければ、日本がアメリカのような巨額債務国家にさらに近づくのも、そう遠くない将来なのではないかと感じてしまいます。
そして財政の問題は、単なる数字の話では終わりません。アメリカでは巨額の国家支出の裏側で、平均的な国民生活が決して楽ではない現実があります。物価上昇や住宅費の高騰に苦しむ人々は多く、特に医療費負担の重さは深刻です。日本の健康保険制度に慣れている私たちからすると、アメリカの医療費は想像を絶します。初診料が数万円、救命士のいる救急搬送で十数万円、盲腸の手術で一日入院130万円の請求が発生することもあり、高額な保険に加入していないと大病したら自己破産になる程、負担が重くのしかかります。病気やケガがきっかけで生活が破綻するケースも、日本でいうところの働けなくなってじわじわ貧しくなるのとはスピードが違います。
国家の安全保障、財政、そして国民生活はすべて地続きです。支出が増え続ければ、いつかは税負担や社会保障の形で国民に返ってきます。安全や安心を守るための選択が、同時に生活の余裕を圧迫する可能性もある――その現実を忘れてはいけないのだと思います。
私自身の感覚として、仮に「今後10年以内に日本が戦争に巻き込まれるかどうか、5対5の確率で1千万円賭けろ」と言われたら、戦争が起きない方に賭けます。しかし、たとえリスクが10%であっても、それは受け入れがたい数字だと感じています。戦争は確率の問題ではなく、一度起きてしまえば取り返しがつかない現実だからです。いや、10%はむしろ大きいですね。
たまにサンシャイン60や都庁の展望台、高層ビルから都内を見下ろすことがあります。整然と並ぶビル群、密集した住宅地、細く入り組んだ道路網。その光景を眺めるたび、震災や有事が起きたら、この過密都市でどうやって逃げればいいのだろう、自衛隊がいても助かりようがないのではないかと、思わず嘆息してしまいます。
どんな案内のどんな機会かは割愛しますが、受講は任意なので、任意となると参加する人は限られるのですが、私のような変わり者は「自分と違う立場の話こそ聞いてみたい」という学びのために受講しました。
こういう時って世論調査で自衛隊に好意的な人でもわざわざ時間を取らないのですよね。
前回までの文章で私はリベラルな立ち位置だから、自衛隊にも距離を置いているだろうと思われるかもしれません。ですが、だからこそ異なる立場や考え方の人の話を直接聞くことを大切にしています。
講義には、防衛大学の教授が来訪されました。そして、その後ろには自衛官幹部が二人。一般企業で言えば、大企業の支社の課長や部長クラスに相当する役職の方々だと思います。そのお二人が、一時間以上、直立不動で講義する教授の後ろに立ち続けていました。椅子があっても座らない。姿勢を崩さない。その光景は、普段の職場ではまず見られないものでした。
「皆さんにも見せてあげたかった」と思うほど、組織文化の違いが凝縮されていました。運動部などでは先輩の話を直立不動で聞くのは当たり前かもしれませんが、中高年となると、若者からしたら異様とも取れる光景かもしれません。
講義内容のメインの一つは、防衛費の話です。世間では「防衛費を増やせば装備が充実する」と単純に語られがちですが、実際には増額の大半が人件費に消えていくという現実があるそうです。人を育て、維持し、運用するには莫大なコストがかかる。つまり、防衛費を増やしても劇的に戦力が強化されるわけではないという現実が語られていました。
次に、核ミサイルの脅威についても具体的な説明がありました。想定される着弾点として挙げられたのは東京駅でした。もし現実に核攻撃があった場合、23区に住む多くの人は助からない可能性が高く、迎撃も極めて困難だろうという話でした。静かな口調で語られるその内容は、ニュースやSNSで見る抽象的な議論とはまったく異なり、背筋が凍る思いがしました。
被爆地で具体的にどのような被害があるか、書籍では「死の同心円: 長崎被爆医師の記録」に長崎に原爆が落とされた際の、時間の経過とともに被害が広がっていく様が詳述されています。
本書を基にしたアニメ映画「NAGASAKI・1945/アンゼラスの鐘」も制作されました。
ここからは所感になりますが、特にカジュアルに「自衛隊っていいよね」と語る若い方々に向けて、私の自衛隊の実務の認識を書かせていただきます。
自衛隊の仕事は、一般企業とはまったく異なる世界です。業務の中には、一般企業ではあり得ない「暴力の訓練」が含まれます。もちろんそれは国を守るために必要とされる訓練ですが、日常的に身体的な危険を伴う環境に身を置くという意味でもあります。
所属する分野にもよりますが、水難救助や落下訓練、極限状態での行動訓練など、一歩間違えば溺死や転落死に至る危険性を伴う、拷問のようだと感じるほど過酷な訓練も存在します。安全管理は徹底されているとはいえ、リスクがゼロになることはありません。「国のため」という言葉の裏に、そうした現実があることは、軽く語られるべきではないと感じました。
組織内のコミュニケーションも一般企業とは異なります。厳しい上下関係と即応性が求められる環境では、言葉遣いも行動も非常に荒々しく、一般社会で丁寧に育てられた若者がその文化についていけるのか、正直なところ疑問に感じる場面もありました。もちろん、すべてがそうではないでしょう。しかし、少なくとも「自由で個性を尊重する職場」とは大きく異なる現実があるのは確かです。
講義を通して感じたのは、結局のところ「お金がいくらあっても足りない」という現実です。軍備を拡張し続ければ、その負担は必ず国民生活に跳ね返ります。一度軍拡の流れに入ると、国家予算の大部分が安全保障に吸い込まれ、生活はじわじわと貧しくなります。
アメリカは軍事力では世界最強国家とされていますが、莫大な財政赤字と借金を抱えながら軍事費を維持し続け、その結果として多くの国民が生活苦に直面している現状です。豊かな国というイメージの裏で、実際には大多数のアメリカ人が厳しい暮らしをしています。
講義を聞き終えたあと、国防や安全保障をめぐる議論は、理想や感情だけでは語れない現実の重さを伴うものだと改めて感じました。軽い言葉で語られる「強い国」や「安全」の裏には、過酷な現場と莫大な負担、そして最悪の事態に対する冷徹な想定があります。
ここで少し視点を広げて、国家財政の話にも触れておきたいと思います。現在、アメリカ政府の債務残高はおよそ34兆ドル(日本円で6,000兆円に近づく)に達しており、歴史的な水準に膨れ上がっています。そのため政府機関が閉鎖されたことも広く知られています。
一方で日本政府の債務残高も約1,130兆円を超え、日本の債務残高はGDPの2倍を超えており、主要先進国の中で最も高い水準にあります。国家の規模や経済構造の違いはあるとはいえ、このまま財政支出が拡大し続ければ、日本がアメリカのような巨額債務国家にさらに近づくのも、そう遠くない将来なのではないかと感じてしまいます。
そして財政の問題は、単なる数字の話では終わりません。アメリカでは巨額の国家支出の裏側で、平均的な国民生活が決して楽ではない現実があります。物価上昇や住宅費の高騰に苦しむ人々は多く、特に医療費負担の重さは深刻です。日本の健康保険制度に慣れている私たちからすると、アメリカの医療費は想像を絶します。初診料が数万円、救命士のいる救急搬送で十数万円、盲腸の手術で一日入院130万円の請求が発生することもあり、高額な保険に加入していないと大病したら自己破産になる程、負担が重くのしかかります。病気やケガがきっかけで生活が破綻するケースも、日本でいうところの働けなくなってじわじわ貧しくなるのとはスピードが違います。
国家の安全保障、財政、そして国民生活はすべて地続きです。支出が増え続ければ、いつかは税負担や社会保障の形で国民に返ってきます。安全や安心を守るための選択が、同時に生活の余裕を圧迫する可能性もある――その現実を忘れてはいけないのだと思います。
私自身の感覚として、仮に「今後10年以内に日本が戦争に巻き込まれるかどうか、5対5の確率で1千万円賭けろ」と言われたら、戦争が起きない方に賭けます。しかし、たとえリスクが10%であっても、それは受け入れがたい数字だと感じています。戦争は確率の問題ではなく、一度起きてしまえば取り返しがつかない現実だからです。いや、10%はむしろ大きいですね。
たまにサンシャイン60や都庁の展望台、高層ビルから都内を見下ろすことがあります。整然と並ぶビル群、密集した住宅地、細く入り組んだ道路網。その光景を眺めるたび、震災や有事が起きたら、この過密都市でどうやって逃げればいいのだろう、自衛隊がいても助かりようがないのではないかと、思わず嘆息してしまいます。
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