惑星ラスタージアへ……

荒銀のじこ

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第二部 3章 手を伸ばして

第7話 嫌な噂

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 浮かない気持ちで食堂に訪れるとリュウトとユキオの二人と出会った。ユースケも嬉しくなって「よっす」と声を掛けると、二人は口を揃えて「ユースケがどうしてるか気になったから」と答えてきたので、ユースケも感情がないまぜになって返答に困った。今日ばかりはユキオはおにぎりを買えずに、たどたどしくも食券を買っていた。注文したメニューはユースケと同じ照り焼き定食だった。
「何だよ、二人して俺のこと大好きかよ。だけど悪いな、俺はフローラ一途なんで」
「……なあユキオ、やっぱりこいつの心配なんていらなかったんじゃねえのか? 放っといて良かっただろ。すげえうぜえんだが」
「まあまあリュウト君」
 リュウトもユキオも研究室が忙しいのか、心なしか前回会ったときよりもやつれている印象を受けたが、そのことを指摘すると「ユースケ君も、そんな感じに見えるけど」と言われたので、皆と自分は同じぐらい研究室での活動に取り組んでたのだと分かり、それが何だかユースケは嬉しかった。
「まあユースケは元気でも、この上は流石にしばらくはそういかないだろうな」
「うん……そうだね」
 リュウトが触れにくい話題に真っ先に触れ、ユキオも声を沈ませながら頷いた。ユースケも、前回の噂のときと違って、もう一つの悪質な噂もあったことから素直に落ち込むことすら出来ないでいた。
 自殺者がまた出たという話とは別に、ショッピングモールの二階以上の店のいくつかで金が盗まれたという話が出回っていた。しかも、その犯人が今回自殺したその人本人なのではないかということまで囁かれており、ユースケはどんな顔をすればいいかすら分からなかった。
「それでも大学校は変わらず平常運転、授業も研究活動もそのままってのが、何だか変な感じだなあ」
「まあ、それも犯人が分かっているからってことなんだろうけど……こりゃユースケじゃなくても何だか気まずいよな」
 リュウトはカレーうどんをそっと啜って、ぼんやりと天井を見上げる。上の階では今頃警察や学校の責任者たちが集まって今回の出来事について色々と話し合われているのだろうか。大学校内のショッピングモールも七階まであるのでどの店で盗難が起きたのかは知らされておらず、二階以上の立ち入りを禁止されているのもその店を特定させないようにするためであろう。
「……なあ、店のお金盗むって、一体どういう理由があったんだろうな」
「うーん……よほど金に困ってたんじゃねえのかな。盗まざるを得なくなるような事情が、何かあったんじゃねえ?」
「……盗むとき、どんな気持ちだったんだろうな」
「……きっと、苦しかったんだと思うよ」
 ユースケが口にした疑問にリュウトがぼんやりと答えていると、照り焼きをまだほとんど残した状態のユキオがはっきりと答えた。ユースケとリュウトの視線がユキオに集まるも、ユキオもいつものように恥ずかしがるような素振りはせず、複雑な感情が宿った瞳で照り焼きをぼんやりと見つめていた。
「自殺を選んでしまった人だもん。苦しくなかったわけ、ないと思う。きっと、最後まで苦しかったんだと思う。いや、むしろ……盗んだからこそ、余計にどうしようもなくなっちゃったんじゃないのかな」
「ユキオって、やっぱ、優しいな」
「ああ、それにやっぱり賢い。こう、内容だけじゃなくて話し方まで賢いもんな」
 ユースケとリュウトが褒めそやすと、ユキオの真剣な表情も崩れていつものようにおどおどし始めた。授業で一緒になったときからずっと褒め続けているのに、いつまで経ってもユキオは称賛に慣れていないようで必ず動揺する。それがユキオの良いところであった。それから会話の話題はユキオに関するものに移り、ユキオは照れっぱなしでずっとおどおどしていたが、ユースケの頭の片隅には先ほどのユキオの言葉が居座り続けていた。
 研究室では、自殺者の噂についての話題は出てこなかったが、ショッピングモールでお金の盗難が起きたという話題は出てきた。レイはあんパンをしばらく買えそうにないことに落ち込んでいた。そんなに好きなら大学校の外で買ってこようかとユースケは提案したのだが、レイは何故かショッピングモールの購買部で売られているあんパンでないとダメだと言って聞かなかった。レイのことを一人の研究者として尊敬してはいるが、やはり変な人でもあるなとユースケは改めて実感していた。
「んで、次にどんな実験するか決めてるのか?」
 シンヤはいつものようにパソコンと睨み合いながらユースケの進捗について知りたがった。最近までフローラと会えないことで心配させてしまったこともあって親切心で訊いてくれているのだろうと思ったが、ユースケもなんだかんだで検討をつけられていたので、チッチッチッ、と指をリズムよく振ってみせた。そのユースケの仕草にシンヤが「偉そうだな」とでも言いたげな目でちらりと見てきた。
「俺、思ったんすよ。宇宙船に乗っている間、俺たち人間は冷凍保存されるとして、そのとき俺たちへの放射能の影響ってどうなるんだろうなって」
「ほうほう」
 シンヤは興味深そうに顎を撫で、眉を上げた。ユースケの方を向いた。レイもユースケの方を気にするようにちらちらと視線を寄越していた。
「冷凍保存って、原理的には生命活動を一切止めている状態になるらしいんですけど、その間でも放射能の影響を受けて人の……なんでしたっけ、ディーエヌエー?とかが傷ついちゃうなら、必ずしも冷凍保存っていい方法じゃないんじゃねえかなって」
「……確かに、冷凍保存された人の細胞内も活動をしていないわけだから人のDNAが傷ついてもその修復作業すら出来なくなって、ガンや遺伝子病のリスクはむしろ高まるかもしれないな」
 レイが颯爽と会話に参加してきて、考察を述べてきた。そのままユースケの方に身体ごと向けて、相変わらず眠そうな顔で指を一本立てていたのを、二本に増やした。
「だが、冷凍保存された人の細胞内の状態によるかもな。細胞液ごと凍らされて……あれだな、すべての物質が動かないようになっている状態とかなら、そもそも放射能によるDNAへの傷害も起こらない可能性も考えられる。DNAの傷害も、結局は分子や電子が動いてこそ起きるからな、その動きすらも出来ない状態ならむしろ冷凍保存はその問題も解消できる最適な方法ってことになる」
「ほへー……さすがレイさんっすね。やっぱりあんパン買ってきますよ」
 レイはユースケのあんパンを買う発言も即座に却下して、ふむと腕を組んだ。
「まあユースケのことだからそれなりに考えているだろうが……この話も含めて、先生とディスカッションする中でゆっくり実験について考えてみれば良いと思う」
「かかか、レイは本当に研究のことになると熱が入るなあ。それに、後輩想いだとは知らなかったけどな」
「ほっとけ」
 シンヤがからかうようにそう言うと、レイはそっぽを向いて自分の作業に戻ってしまった。照れ隠しのような素振りにも見えたが、少なくともユースケから見てレイにそんな感情があるようにはとても思えなかった。
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