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愛とエロはゆっくりはぐくみましょう
69:ヒヨコは考える【ケインSIDE】
しおりを挟む大量の魔獣が村に押し寄せている。
それに先気が付いたのは、俺だった。
ユウのいる街に向かっている途中、
<闇の魔素>の強い匂いが漂ってきたからだ。
王都ではまだユウの処遇に対して
王家と神殿でもめていて、
俺とエルヴィンは、
しばらくはユウの護衛として
街に行くようにと、隊長から指示を受け
ユウのいる街へと向かっている途中だった。
あと少しでユウに会える。
そう思うと、体が軽くなってくる。
ユウに会える嬉しさで
心が満たされている時だった。
ユウは…衝撃的だった。
俺の祖父は神殿でも権威ある教皇で
父は教皇を支える枢機卿だ。
信仰に厚い家族と、神殿が
身近にあったために
俺自身も信仰厚く育てられた。
俺は女神様を敬愛している。
この世界を女神様が創られたからこそ
俺たちは今、こうして生きているのだ。
日々感謝をおくっているし、
女神様の世界を守る意味でも、
俺は聖騎士として、多くの民を
守りたいとも思っている。
そんな俺の前に、
【女神の愛し子】であるユウが現れた。
神秘的な黒髪に慈愛に満ちた漆黒の瞳。
白い肌に触れたいとは思ったが、
団長たちがユウを取り込もうと
しているのを見て、俺では
太刀打ちできないと思って諦めた。
でも、触れたい、触れて欲しいって
そう思うことは諦められなくて。
同僚のエルヴィンが、気安く
ユウちゃん、などと呼んで
手を握ったり、俺も俺も!と
抱きしめてもらっている姿を見て、
正直、嫉妬したりして。
でも、エルヴィンの隣にいると、
ユウは俺も抱きしめてくれた。
両親も祖父も、
子どもには厳しい人だった。
あまり抱きしめられた経験が無い俺は
ユウの優しい抱擁に、
胸が締め付けられた。
最初は【女神の愛し子】であるユウに
触れることさえ、不敬になるのでは
ないかと思ったが、
ユウは気安く俺に触れてきた。
あの屋敷では、ユウの護衛以外
することがなかったから、
団長たちは、ことさら、
ヒヨコである俺やエルヴィンの
訓練を強化した。
俺が訓練でヘトヘトになっていると
必ずユウは俺に笑いかけてくれて。
たぶん…後で食べようと思って
大事にとっておいたのだろう。
お菓子をそっと俺に握らせてくれた。
俺はそんなに甘いものは好きではなかったし、
ユウが喜ぶからと買ってきていたものだ。
だというのに、ユウは
にこにこしながら、
エルヴィンたちに
気づかれないように、俺に渡してくる。
気遣われているのだと思った。
ユウに…大切にされていると、思った。
こんな…たかが、こんなことが
驚くほど嬉しくて。
泣きそうになってうつむくと、
いつも優しくユウは頭を撫でてくれる。
俺は他人とかかわることが苦手だった。
どうやら俺の話し方が相手を
委縮させたりするらしいのだが、
俺は思っていることを伝えているだけなので
何故、そうなるのかわからない。
だが、ユウはそんな俺を遠ざけることなく
優しい目で見てくれた。
言葉が通じなかったときは、
言葉が無いからこそ、
わかりあえたような気がした。
ふとした時に、
視線が合ったりすると
俺は嬉しかったし、
俺を見て笑うユウの姿が嬉しかった。
護衛の時も、皆でいる時も。
俺がユウを見ていると、
必ず、一度は視線が合った。
ユウも俺を見ていてくれている。
そんなことが、嬉しくて。
ユウは優しくて、やっぱり
【女神の愛し子】なんだと思っていた。
でも、あの小さな妖精と出会った時、
ユウという存在は、信仰の対象ではなく
俺たちと変わらない、傷つきやすい
存在なのだと思った。
守り、慈しむべき存在なのだと。
俺はずっと団長の命とはいえ、
ユウを呼び捨てにすることも、
敬語を使わずに話すことも、
どこか違和感を感じていた。
ユウは『仲間』ではなく、
敬愛すべき存在だと思っていたからだ。
けれど、妖精との出会いで
俺は、変わった。
俺はユウを信仰の対象ではなく
『人間』として『仲間』として
ユウを見るようになった。
ユウが求めているのは、
信者ではなく、一緒にいる
友人や仲間…愛情を分かち合える
存在だということがわかったからだ。
俺はその時から、
ユウと一緒にいるときは
できるだけ…エルヴィンに
話しかけるような、気安い感じで
話すように心がけた。
もしかしたら、気が付かずに
厳しい言葉を使っていたかもしれないが、
いつもユウは笑って俺の話を聞いてくれた。
俺の言葉は誤解されやすく、
親しい友人がエルヴィンしかいない俺は、
いつユウに嫌われるのか不安になったが。
ユウはいつだって、笑顔だった、
俺が言い過ぎたと思った時でも、
大丈夫、気にしてない、と伝えてくるような
優しい視線で、笑ったり、そっと手を繋いでくれた。
そんなことが…嬉しくて。
護衛の時間以外でも
もっとユウと一緒にいたいと
いつも思っていた。
でも、ユウの世話はカーティス王子が
率先してやっていて、
俺やエルヴィンの出番はあまりなくて。
でも。
一緒にいる時間が少なくても、
ユウを守りたい、と思った。
俺も、先輩たちと同じように
強くなり、ユウの盾になりたいと、
そう思っていた……矢先だった。
あの恐ろしい魔獣と対峙したのは。
怖かった。
あの魔獣を見た瞬間、
心臓が縮んだような感覚がして、
……死を覚悟した。
足がすくんで、
身体が震え、動けなくなった。
団長が短く、逃げろ、と命令を下した。
たぶん、ユウが逃げる時間を稼ぎ、
無理だと思ったら逃げろ、という
命令だったのだと思う。
けれど、短い言葉の中に、
俺やエルヴィンに、逃げろ、と
そう伝えてくれたのがわかった。
俺たちでは絶対に勝てない相手だと
そう理解したからだろう。
ユウに会う前だったら、
もしかしたら、エルヴィンの腕を
掴んで、後退したかもしれない。
生き残ることを最優先に
考えたかもしれない。
こんな危機的状況の時でさえ
団長たちに守られる自分を
不甲斐ないと思いつつも、
逃げたかもしれない。
でも…俺は剣を握った。
後ろにユウがいたから。
守りたいと思ったユウがいるのだ。
ここで逃げたら絶対に後悔する。
俺は団長たちにしてみれば
まだまだヒヨコで、不甲斐なくて。
けれど、俺も聖騎士だ。
それも聖騎士団の頂点とも呼ばれる
金聖騎士団の人間なのだ。
守りたいものを護れずに、
何が聖騎士だ。
俺は奥歯を噛みしめて、
恐怖を押さえ、立った。
ユウが『愛し子』とか関係ない。
ただ、ユウを守りたい。
死に急ぐわけではないが、
俺が戦うことでユウが生き残る
可能性があるのなら、
戦わない、という選択などなかった。
あのとき、俺は。
女神のために生きるのではなく、
ユウのために戦うことを選んだのだ。
そして俺たちは生き残った。
ユウのもたらす奇跡の光に
俺たちの傷が癒され、
あの魔獣も倒された。
神々しい光を放ったユウ。
俺は…ユウを特別に想っている。
それは俺だけではないだろう。
そんなことは、わかっている。
けれど。
ユウのそばにいたい。
ユウに俺を見ていてほしい。
そんな思いを込めて、
早くユウに会いたくて。
王都からユウの待つ宿にむけて
馬を走らせていた時だ。
大量の魔物の群れがいることに
気が付いたのはーー。
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