【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

文字の大きさ
38 / 214
魔法と魔術と婚約者

38:誤解で恋は加速する

しおりを挟む

 
 まぁ、突然、
「友だちになってください」
なんて言われたら。

そんなことを言われたら
はぁ? だよな。

俺もそう思う。

でも、それ以外の言葉が
思い浮かばなかったのだ。

俺が放った言葉は
周囲の空気を何故か凍らせた。

急に場が静かになり
俺は訳が分からず焦る。

やはり言い方が悪かったのだろうか。

でもさ。
俺とエリオットが友達になったら
ミゲルも連れて遊びに行けると思うんだ

よし。
言い方を変えてみよう。

「それから僕を
遊びに連れて行ってください」

って言った。
言ってやったが、
冷静に考えると俺、
めちゃくちゃ失礼だよな。

何様だ、俺。

だがもう、後には引けない状態だ。
発してしまった言葉はもう戻らない。

俺は公爵家の息子なんだ。
多少のわがままは許容範囲だ、たぶん。

俺の横暴ぶりにヴァルターも
ミゲルも驚いた様子だったが、
俺の様子を見ていたヴァルターが
理解したかのように小さく頷いた。

そして
「俺とも友達になってください」
なんて頭を下げる。

「はは、なんか俺、
急に下級生たちにモテてるな」

エリオットは笑う。

「そんなに俺、恰好良かった?」

「「「はい、かっこよかったです」」」

ミゲルも含めた俺たち3人の言葉はハモる。

「剣に魔法を纏わせるのって
凄いと思います」

ヴァルターが言うと
ミゲルも、うんうん、と頷く。

そしてミゲルも「僕も」と
声を出すものの
本人を前に褒めるのは
恥ずかしいのか頬を赤く
染めたまま俯いてしまう。

そんなミゲルの顔は
どうみても真っ赤で
目は潤んでいた。

「はぁ、ミゲル、可愛い」

俺は思わず呟いた。

ミゲルが、え?と俺を見る。

俺は手を伸ばして
ミゲルの頭をなでなでした。

「ミゲル、可愛い」

「も、もう、イクスは
すぐそういうことを言うんだから」

ミゲルは照れたように言う。

だがそれすらも可愛いぞ。

俺がそういうとヴァルターも
まぁ、確かに、と笑う。

こう言ったやり取りは
俺たちの間では良くあることだった。

だって、俺は心はアラサーの
サラリーマンだからさ。

同級生とはいえ、
親戚の甥っ子を見ているような感覚なのだ。

だから俺はつい
ミゲルもヴァルターも
可愛いと言ってしまうし、
二人はそれにすっかり慣れてしまた。

だがそれに慣れてない
ヴィンセントたちは
オカシイとでも思ったのだろうか。

エリオットは苦笑していて
ヴィンセントは何故か
笑顔を消して俺を見ている。

また少し居心地の悪い空気になったが
それをエリオットが壊した。

「そう言えば、
君たちはどうやって帰るの?」

質問の意味が分からずに
俺は首を傾げる。

だがヴァルターが
「俺とミゲルは公爵家の馬車で
送ってもらえることになってるので」
と答えた。

なるほど。
馬車留めにある馬車の数と
俺たちの人数が
合わないと思ったのか。

「そうか。
ならミゲルは俺が送っていこう」

「え!?」

ミゲルが目を見開くが
俺は口を開けた。

なんでって、
思いもよらないチャンスだったからだ。

「ミゲル!」

俺はミゲルが遠慮して
断ろうとしたことに気が付き、
誰よりも早くその腕を引っ張った。

そしてミゲルの腰を抱き寄せて
耳元で小さく言う。

「チャンスだよ!
さっきは僕と友達になってもらって
ミゲルと一緒にお出掛けとか
してもらおうと思ったけど。

ここは送ってもらって、
そのお礼ってことで
どこかに誘えばいい」

「ど、どこかってどこ?」

「どこかは、どこか、だよ」

そんなこと言われても俺にはわからん。

「誘うのが無理だったら、
なんかお礼がしたいから
何がいいか聞いたらどうだ?

そしたら渡すとき、また会えるだろう」

俺の作戦会議に
ヴァルターも参加した。

ナイスアイディア!

「そうだよ、そうしなよ」

「でもいらない、って言われたら?」

ミゲルは消極的だ。
気持ちはわかるが。

「じゃあ、俺とイクスが
ファンになったみたいだから
一緒に遊びに行ってください、とか
そう言う感じでいいんじゃないか?」

「いいと思う。
ミゲル、それでいこう」

俺が力強く言うと、
ミゲルは顔を真っ赤にしたまま
俺とヴァルターを見る。

「でも、僕……」

「ミゲル。
このままだと、次会えるのは
いつになるかわからないよ」

告白なんて夢また夢になる。

「わ、わかった。
僕、頑張る」

よし!

俺とヴァルターは強く頷き、
ミゲルを前に押し出した。

「では、よろしくお願いします。
ミゲルは僕の大事な友人なのです」

俺が頭を下げると、
エリオットはまるで保護者だな、と
笑った。

そのつもりだが、何か?

「じゃあ、行くか」

エリオットの声にミゲルは
おずおずと頷いて、
俺たちの手を振る。

俺とヴァルターは手を振り返した。

「じゃあヴァル、僕たちも帰ろう」

俺はそう言ったが、
ずっと無言だったヴィンセントに
腕を引かれた。

「イクスは俺が送っていこう。
ヴァルターは、ハーディマン家の
馬車を使えばいい」

「え、いえ、俺は……」

本家の馬車なんて、と
ヴァルターは言うが、
俺の馬車は公爵家の馬車なんだけどな。

ヴァルターを揶揄ってやろうかと
思ったが、それよりも先に
ヴィンセントは少し先にいた
ハーディマン家の侍従に手で合図をする。

すると侍従が馬車の扉を開けた。

「ヴァルターを送っていくと
イクスが帰るのが遅くなる。

公爵家はイクスに関しては
心配症だからな。

早く帰った方が良い」

それを言われると、
俺もヴァルターも何も言えない。

その通りだからだ。

しかも今は予期せぬ王家のお茶会に
呼ばれたので、結構時間が経っている。

一応、王家からは
心配しないように使いの人が
屋敷に知らせに行ってくれているとは思うが

逆に王家に呼び出されたと言って
心配しているかもしれない。

「わかりました。
では、お借りします」

ヴァルターが頭を下げる。

「あぁ」

ヴィンセントは頷き、
俺の腰に手を当てた。

「イクスはこっちだ」

え、あ、はい。
そうですね?

ヴァルターを見送るつもりだったが
先に馬車に乗れと
言わんばかりに背中を押される。

「じゃあ、ヴァル、またね」

俺は慌ててヴァルターに手を振る。

ヴァルターは手を振り返してくれたが
すくにそばまで来たハーディマン家の
侍従に説明しているのだろう。

軽くヴィンセントにも頭を下げたが
すぐに侍従に視線を向けた。

俺たちは馬車に乗り込んだが、
なぜかヴィンセントは無言だ。

しかもなんか、距離が近い?

俺の隣に座っているが
膝がめちゃくちゃくっついてるんですけど。

「……イクスは」

馬車が動き出して
しばらくしてから
ようやくヴィンセントが声を出した。

「エリオット先輩がカッコイイと思うのか?」

は?

ようやく口を開いた第一声がそれ?

意味がわからない。

素直に恰好良かったと言えばいいのか?

俺は質問の意図が分からず
首を傾げてしまった。




しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

処理中です...