55 / 214
魔法と魔術と婚約者
55:添い寝……?【ヴィンセントSIDE】
しおりを挟む何故夫婦用の客間なんだ?
俺は内心焦った。
なにせ、部屋に足を踏み入れた途端、
すぐに目に入ったのが
大きなダブルベットだった。
だが、部屋に案内した
家令の話を聞いて、
納得せざるおえない。
今の辺境伯領は、
疫病や干ばつが相次ぎ、
人手もかなり減っているらしい。
確かに見る限りでは
侍女や侍従の数が
極端なまでに少ないように感じる。
突然押しかけた身で
贅沢は言えないだろう。
それに食料だって
今の状態ではかなり貴重なハズだ。
それを俺たちに分け与えて
くれるのだから
文句は言えない。
イクスは小柄だし、
俺とイクスは幼馴染だ。
子どもの頃は一緒に
寝たことだってある。
通常であれば、
たとえ婚約者と言えど
婚姻前に同じ部屋で休むなど
あってはならないことだ。
だが、イクスはまだ
成人前の子どもだし、
婚約も周知していない。
そう言ったことから
同じ部屋でも問題ないと
判断されたのだと思う。
だがしかし。
「僕はいいよ。
昔は良く一緒に寝たもんね」
なんて可愛い顔で
イクスが俺を見上げるから
俺は一瞬、言葉に詰まる。
イクスは子どもで問題ないが
俺はすでに17歳だ。
それなりに成長してるし
閨事だって知っている。
そういう欲だって、
人並みにはある。
だからと言って、
イクスを襲うとか、
そう言うつもりは全くないが
俺の理性は大丈夫だろうか。
いや、そうではない。
それよりも問題なのは
やはりイクスが俺に対して
意識を全くしていないということだ。
はやり俺はイクスにとって
大好きな兄なのだろう。
頬を赤くして、
「好き」なんて口癖のように
俺に言うクセに。
あぁ、ダメだ。
そんなイクスを責めるような
ことを考えるなんて。
イクスに恋愛として
意識されていないのは辛いが
逆に、イクスはまだ、恋愛としては
誰も好きではないということだ。
そしておそらく、
家族以外で言えば、
イクスに一番愛されているのは
俺だ。という自信はある。
そんなことを、
一瞬の間に考えて、
俺は表情だけは穏やかに、
家令に言う。
「イクスが良いなら俺も構わない。
こちらこそ、急に来て悪かった」
俺が言うと、
家令はほっとしたように
頭を下げて部屋を出た。
さて、どうするか。
できたらイクスに俺を
意識されるように持って行きたいが、
だが意識されて避けられるのも嫌だ。
俺はイクスの本が入った鞄を
手にしたまま、
どうしたものかと悩んでいたが。
なんとイクスは俺の手を振り払い
「わーい」とベットに転がり込んだ。
俺は思わずあんぐりと口を開けてしまった。
意識させる?
絶対に無理だろう。
行儀が悪いと言いたいが、
イクスがあまりにも幸せそうに
ベットのクッションに
顔をうずめるから、
俺は何も言えなくなる。
可愛い声が視線だけ俺に向けて
「あーキモチイイ、
癒されるー」などと言うから
俺は一瞬、目を背けた。
可愛い顔だったが、
よからぬ想像をしそうな顔だったからだ。
イクスは幼いが
色白で、客観的に言えば美人だ。
もともと体が弱かったせいか
どこか庇護欲をそそられるし、
顔立ちも儚い印象を受ける。
ましてや、寝具の上で
目を閉じる姿は、
情欲をそそるようにも見える。
いや、子ども相手に何を
俺は考えている?
しかし。
もう少し成長すれば
イクスはきっと
今以上に成熟した魅力を
惜しげもなく披露するだろう。
なにせ本人の自覚がないのだ。
俺はイクスの隣で、
しっかりと見張り、
守らねば、と心に強く思う。
そんな俺のことなど
気が付かない様子で
イクスは俺を呼ぶ。
「ヴィー兄様、
ベットふわふわ~」
俺は理性をどう増員して
テーブルに鞄を置き、
ベットに近づく。
「少し休むか?」
俺は先ほどまでの
動揺を隠して努めて冷静言う。
イクスの顔は眠そうだし、
どうみても疲れた顔をしている。
だが俺がそう聞くと、
イクスは唇を少し尖らせた。
眠たいけど、寝たくない。
そんな顔だ。
俺はベットの端に座り、
イクスの髪を撫でる。
小さなころからイクスは
こうして撫でてやると
すぐに眠りに落ちていた。
だから俺はゆっくりと
髪を撫でる。
イクスの疲れが取れるように。
「イクスは……何を思いついたんだ?」
イクスがウトウトし始めたので
眠っているのか、
起きているのか確かめたくて
聞いてみたが、イクスは
眠いのだろう。
「……いろいろ」
と返事は返ってきたが、
それ以上の声は聞こえない。
もう眠ったのか?
「危険はあるか?」
もう少し声を出す。
「ん-、ない、と思う」
思いのほかしっかりと
返事が返ってきたので
俺はもう少し、突っ込んだことを聞いてみる。
「なら、俺ができることはあるか?」
イクスは答えない。
俺は言い方を変えてもう一度聞く。
「なんでもいい。
イクスのために、俺ができることはあるか?」
イクスを守ってやりたいと思う。
だが、何の知識もない俺が
勝手に動いてもイクスの
邪魔になることぐらい
俺にだってわかる。
だから俺は聞いた。
するとイクスは眠そうだった瞳を開けて俺を見た。
「なんでもいい?」
眠いのだろう。
少し下っ足らずにイクスは言う。
俺がもちろんだと返事をすると
イクスは突然、自分の隣を
ぽんぽんと手のひらで叩いた。
「ヴィー兄様も、寝て」
「は!?」
何言ってんだ?
俺は思わず焦ってしまう。
「ヴィー兄様にしかできないことだから。
何でもするんでしょ?」
なんて言われてしまえば、
俺に拒否などできるはずもない。
俺は仕方なくベットに横になった。
するとイクスは体の向きを変え、
俺の腹の上に頭を乗せて来た。
密着しずぎじゃないのか!?
俺は何を言えばいいかわからない。
だがイクスは俺の腹は
気に入らなかったようで、
頭を下へと移動させる。
俺の腹から太ももに可愛い頭が動き、
良い場所を探すように
頭をぐりぐりと動かしてくる。
「おいっ!」と俺は思わず声を出した。
イクスの頭ぐらい、
いつでも乗せてやるが、
その場所はダメだ。
俺の下半身を刺激するかのように
俺の股に頭を乗せてくるイクスを、
俺は乱暴に引きはがしたくなる。
何度も言うが
俺は正常な成人した男なのだ。
刺激されれば固くなるし、
ましてや相手はイクスだ。
そのようなことなど
考えてないと声を大にして
言いたいが、それでも身体は
正直に反応する。
だが焦る俺とは裏腹に、
イクスは何も気が付かなかったようだ。
安堵したのもつかの間、
イクスは今度は俺の横に移動して
俺の腕を枕にするように
脇の間に頭を沈めてくる。
これは腕枕だと思うのだが……。
イクスは甘えるように
俺の脇に頭を押し付けて
小さな指で俺のシャツを握った。
そして幼い顔で、
さも眠そうにあくびをする。
「……イクス?」
まさかこの状態で寝る気か?
「ちょっと……だけ。
ごはんまで……」
眠そうに言われて、
もちろん、拒否などできない。
イクスの先ほどの様子を
見ただけでも、
かなり体力が消耗しているのはわかる。
仕方が無い。
俺は腕枕をしたまま
イクスの身体を抱き寄せてやる。
するとイクスはさらに
俺にすり寄った。
純粋に可愛いと思う。
だが、それだけではない。
俺はもう、可愛い、
守りたいと思う理由が、
「イクスは弟のようだから」
ではないことを、
もう理解している。
しばらくじっとしていると
イクスから寝息が聞こえて来た。
信頼されているのだと思う。
俺のそばは心地よいと
そう思ってくれているのだろう。
「5歳差か」
俺は思わず呟いた。
イクスが成人するまで待つと
俺は21歳になる。
卒業してすぐに婚約発表をして
結婚するとしても、
まだあと4年はあるのだ。
それも、イクスが専攻に進まず
高等部で卒業したら、の話だ。
だからと言って
イクス以外の恋人を作るとか
そんなバカげたことをする気はないが。
イクスを手に入れるまであと4年。
まだまだ先は長い。
だがあと4年でイクスに
俺のことを恋愛として
意識してもらい、
イクスが俺を望んで、
婚約者になってもらわねばならない。
そう思うと4年は短いような気もする。
「まぁ、問題は
4年が長いか短いかではないよな」
イクスが恋愛として俺を
好きになることが大事なのだ。
「今更手放せないし、
頑張るしかないか」
俺はそう呟いて。
イクスの可愛い前髪に
そっと唇を落とした。
534
あなたにおすすめの小説
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!
僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして?
※R対象話には『*』マーク付けます。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる