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高等部とイケメンハーレム
83:恋と愛と友情と
しおりを挟むゆっくりと曲が終わり、
俺はカミルにエスコートを
してもらい、ヴィンセントの
ところまで戻った。
クルトの姿は見えない。
そのことに少しほっとして、
ほっとしたことに気がついて
俺はまた落ち込んだ。
そんな俺の手をそっと握って
カミルはヴィンセントを見た。
「はい。
大事なイクスをお返しするよ」
カミルは大げさな素振りで
俺の手をヴィンセントに向かって伸ばす。
ヴィンセントは目の前に伸びた俺の手を
あっというまに取って、
俺の手を握った。
ただ、カミルみたいに
そっと手を添えるのではなく、
強く握られて俺は安堵する。
ここはいつもの、
俺の安全地帯だ。
ヴィンセントは綺麗な作り笑いを
カミルに向けた。
「無事にお返しいただき感謝します」
丁寧な言葉だが、
不本意だと言わんばかりの顔だ。
本来であれば不敬に問われそうな
勢いだが、ヴィンセントも
王子二人とは幼い頃から交流がある。
俺たちみたいに年が近いわけではないから
王宮で一緒に遊ぶようなことは
あまりなかったようだが、
俺が参加しなかった王宮の茶会や
貴族同士の交流の場では
王子二人のお目付け役のような
役割でそばについていたらしい。
だからカミルもヴィンセントには
気心が知れているのだろう。
軽い調子で笑った
「まぁ、そんな顔しないで。
幼馴染の友情に免じて今回は許してくれ」
ヴィンセントは嫌そうな顔をしたが
すっと頭を下げた。
了承の意味だと思う。
「じゃあ、イクス。
またね」
カミルの言葉に俺も
ヴィンセントを見習って頭を下げた。
ここは公式の場だし、
カミルは王子殿下だ。
幼馴染だけれど、
きちんと、メリハリをつけて
対応しておいた方が良いだろう。
俺の対応にカミルは少しだけ
寂しそうな表情をした。
「今度はプライベートな茶会にしよう。
とっておきのお菓子を準備しておくよ」
俺はその言葉に笑顔で頷いた。
カミルはじゃあ、と片手を上げて
その場を離れる。
カミルの背中が消えた途端、
ヴィンセントが俺の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?
顔色が悪い。
ダンスを3回も続けて踊るなんて、
疲れただろう」
非難の声に俺は曖昧に頷いた。
「……うん」
疲れたけれど、
疲れたのは身体だけではない。
「今日はもう帰ろう。
馬車を回してもらっている」
ヴィンセントは俺がクルトと
カミルと踊っている間に、
馬車の準備と、俺の家族にも
連絡を取って帰宅できるように
してくれていたらしい。
ヴィンセントは本当に頼りになる。
大きな手に支えられ、
俺たちはそっと夜会を後にした。
馬車まで行くと
公爵家の御者がすぐに扉を
開けてくれて、俺たちは馬車に乗り込んだ。
「ヴィー兄様」
「なんだ?」
馬車に座ると、すぐに出発する。
馬車が揺れ始めるまで
俺は何も言えなかったが、
ヴィンセントはずっと手を握ってくれていた。
「今日は、一緒に寝よ?
公爵家に泊まってって」
ヴィンセントは目を見開いたが
すぐに、そうだな、と
俺の髪を撫でた。
「俺に何か言いたいことでもあるのか?」
俺は首を振る。
クルトのことは俺とクルトの問題だから
ヴィンセントに言うことではない。
でも。
「ヴィー兄様に甘えたい気分」
そう言って俺がヴィンセントに
わざと大げさにもたれかかると
ヴィンセントは仕方ないな、と
繋いだ手を離して俺の肩を抱き寄せる。
「今のレックスは兄としては
役立たずだろうからな。
俺が代わりにそばに居てやる」
ほんとは兄じゃないんだけどな。
でもいい。
ヴィンセントがいてくれるなら
兄でも友人でもなんでもいいんだ。
俺はべじゃっとヴィンセントの膝に
顔をうずめた。
「イクス?」
驚いた声がしたが無視だ。
ヴィンセントの膝にぐりぐりと
顔を押し付ける。
香水……だろうか。
ほのかに感じる香りと、
ヴィンセントの汗のにおいがする。
いつも近くにいるのに、
そういえばヴィンセントが
香水をつけていることに
初めて気が付いた。
公式の場だから付けていたのだろうか。
俺は香水とか苦手だから
きっとヴィンセントは
控えめにつけていたんだろうな。
ここまで密着しないと
香りに気が付かなかった。
ウッディ系の、ハーブみたいな香り。
なんだっけ。
そうそう、ハーバルの香りとか言うんだった。
前世で会社の同僚が
モテる男を調べるとか言って、
香水を山ほど購入して試していたのを
俺は思い出した。
あの時は正直、隣のデスクで、
いろんな香りを試されて
鼻がおかしくなりそうだった。
そのイメージがあるから
俺は香水は苦手だったが、
ヴィンセントの香りだったら
嫌だとは思わない。
むしろ、大人のヴィンセントには
似合っていると思う。
そんなことを思いながら
息を吸い込むと、
大きな手が俺の髪を撫でた。
優しい手つきに、心が緩む。
「ヴィー兄様は安心する」
「そうか」
「体、大きいし」
「まぁな」
「頼りになるし」
「そうか」
「僕のこと、いつも見ててくれる」
「当たり前だ」
優しい声に俺はじわっと涙が浮かんだ。
クルトも、そうだったんだろうか。
俺のこと、見ててくれていたのか?
俺は記憶が戻ってからは
自分のことばかりだったし、
クルトのことは、正直避けていた。
前世で読んだパズルゲームの
シナリオを真に受けて、
ちゃんとクルトと接してなかった。
なにに、クルトは俺のこと、好きって。
本気だったと思う。
俺はどうすれば良かったんだろう。
何も言えなかった。
本気で言ってくれたのに。
何も言わなくてもいい、って
そう言ったクルトに俺は甘えてしまった。
今まで通りの幼馴染でいようって、
カミルの言葉にも甘えて、
でもその返事すら
まともに言えなかった。
このままでいいのだろうか。
ちゃんと、クルトと二人っきりで
もう一度話をした方が良いんじゃないか?
こんな、こんな不誠実な状態で
俺はクルトと友人として
今までと同じように付き合えるのか?
でも、無理に二人で会おうなんて言うと
せっかくのカミルとクルトの気遣いを
台無しにしてしまう気がする。
俺はどうしていいかわからずに、
ただヴィンセントの膝に
顔をこすりつけた。
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