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高等部とイケメンハーレム
89:つまりはそういうこと【ヴィンセントSIDE】
しおりを挟む公爵家には何度も泊っているので
案内をされなくても
客間の場所はわかるのだが、
俺は執事に案内されて
客間へと移動する。
「イクスぼっちゃまも
すぐに来られるでしょう」
「わかった、ありがとう」
客間の扉の前で
執事と別れて俺は部屋に入る。
ここは良く泊まる部屋なので
俺は着替えなどの
私物を置かせてもらっている。
夜会で着ていた衣装も
浴室に脱いで
置いておいたのだが
その衣装が綺麗な状態で
クローゼットの前に釣り下がっていた。
おそらく侍女が片付けてくれたのだろう。
ベットサイドには水と氷と酒が準備してあったが、
その隣にはイクス用だろう。
果実水も置かれていた。
俺は準備されていた寝間着に着替えて
立ったまま冷たい水を飲む。
さすがに公爵家で酒は飲めない。
俺は窓を開けて部屋に風を入れた。
少し冷たい、心地よい風が
俺の湿った前髪を揺らす。
窓の外は公爵家の広い庭園が
広がっている。
夜でも景観が美しく見えるように
庭には高価な魔石が散りばめられている。
ほんのりと庭を照らす光に
イクスが好きな花や、
イクスが歩きやすいように
整えられた小路が見える。
イクスは本当に、
この公爵家で大事に
大切に育てられてきたのだ。
俺は公爵殿の言葉を思い出した。
「身体の発達状態が悪かった、か」
思わず噛みしめるように
その言葉をつぶやいてしまう。
つまり、イクスの身体は
まだ幼いということだ。
閨教育どころか、
おそらく、精通も来ていない。
だからイクスと結婚しても
そう言う状態だが、
それでも良いのかと公爵殿は
俺に最終確認として聞いてきたのだ。
正式に婚約を公表した後だと
後戻りができないので、
本当に良いのかと。
公爵殿は怖い人だが
優しい人だとも思う。
イクスのことだけを考えて
俺を犠牲にしてもいいと
考えているのであれば、
俺の意志を聞く必要などないのだから。
「まだ幼い身体か」
そう言われたら納得もする。
イクスが無邪気に俺をあおるのは、
何も知らないからだ。
性欲もないのだから、
俺がそういう欲を持っているなど
思いもよらないのだろう。
そこまで考えて
俺は股間に押し付けられた
イクスの頬や、吐息の熱を
思い出してしまう。
いかん。
これからイクスがこの部屋に
やってくるのに、
俺の淫らな欲など消し去っておかなければ。
俺は大きく首を振った。
何度も深呼吸をして
呼吸も調える。
あの、公爵の「イクスを頼む」と
いう言葉は、イクスと将来結婚する俺に
イクスを守れと言う意味で
言っているだけではない。
おそらくだが、
イクスの閨に関する知識のことも
含めて、公爵殿は俺に
頼むと言ったのだ。
おそらく公爵家でもイクスの
閨教育をどうするかは
問題視されていたに違いない。
年齢だけは重ねているが
まだ幼い身体のイクスに
何をどこまで教えるのか。
またその教師は誰にするのかなど、
考えることは山ほどあるが
どれも決めかねる問題だ。
そう言ったことを公爵殿は
頼むという一言で
俺にすべてを託した。
驚いた。
俺のことをそこまで
信頼してくれているのかと
目を見開きそうになった。
俺は公爵家の人間ではないし、
イクスと結婚するにしても
婿養子に入るわけでもない。
俺はハーディマン侯爵家を継ぐし
イクスはハーディマン家に
嫁いでくるのだ。
それでも公爵殿は
俺にイクスを託してくれる。
そのことは、純粋に嬉しい。
イクスは公爵殿が俺に無茶なことを
言い過ぎだとか、甘え過ぎだとか
そんなことを言って
プンプン可愛く良く怒ってくれるが、
俺はそうは思わない。
公爵殿は俺を。
パットレイ公爵家の秘宝と
呼ばれるほど、大事に守ってきた
大切なイクスを託すに値する者だと
認められ、信頼してくれているのだ。
そう思うだけで俺は心が熱くなる。
まさか閨のことまで
任されるとは思いもよらなかったが。
だがたとえ教師だとしても
そういった閨事について
俺以外の誰かがイクスに教えるなど
考えただけで嫌な気分になる。
たいがい俺も、嫉妬深く
子どもっぽい。
イクスは俺を憧れの兄のような
純粋な目で見てくるから、
俺もそのようにイクスの前だけは
演じている。
だからイクスは俺のこんな
醜い感情には気が付いていないようだが、
あのジュという精霊はおそらく
気が付いている。
だから俺を敵視するのだ。
ジュは精霊らしく
なんらかの魔法のような力を使い
一瞬で、別の場所に移動できるらしい。
イクス曰く、姿が見えない時は
辺境伯領の精霊の樹に戻っていたとか
別の国で災害が起こったらしくて
ジュがそれを見て来たとか。
とにかくジュはこの国だけでなく
この世界を守るような存在らしい。
だから常にイクスのそばに
いるわけではないようだ。
俺としては、すぐに威嚇してくる
ジュと子どもの様に戦わなくても
済むので、ずっと世界を
回っていればいいと思う。
それにイクスが成長して
閨の話をイクスにする日がきたら……
ジュにどんな仕打ちを……
いや、邪魔をされるかわからない。
前途多難な気もするが、
それでも、イクスが俺のものに
なることは決定事項だ。
もう、俺とイクスの婚約は
公表する方向に進んでいる。
あとは、俺がイクスに
直接、婚約を申し込むだけだ。
俺の気持ちをイクスに伝えれば、
全ては上手くいく……はずだ。
俺はイクスに好かれている。
それだけは、わかる。
たとえ家族枠だろうと、
兄だろうと、血の繋がっている
家族以外の人間たちの中で
俺はイクスに一番好かれている。
その自信だけはある。
だから俺がイクスに想いを
告げたとしてもイクスは必ず
頷いてくれるはずだ。
俺はそう思うのだが、
すぐに、絶対にそうなのか?と
不安が頭をよぎる。
『僕もヴィー兄様のこと好き。
いいよー』と笑うイクスを
すぐに想像できる。
だがその後に続くイクスの言葉も
想像できてしまうのだ。
『だってヴィー兄様は
僕の兄様だもん。
婚約したらずっと一緒で
家族でいられるよね』
自分の想像だというのに、
見えない槍で心臓を
ぶち抜かれたかのような
衝撃を受けた。
あの可愛い顔で、
純粋な目でそう言われて、
俺の心が無傷でいられるわけがない。
だが実際にそんなことを言われたら
俺は笑顔を作って【兄】の顔で
そうだな、ってイクスの髪を
撫でてやるんだ。
はは、って自分の不甲斐なさを
笑って見せて。
俺は窓枠に手を置いたまま
膝をついた。
これでも俺は騎士団では
それなりに強いし、
期待の新星と言われるぐらいの
力を持っている。
誰と対峙しようが、
どんなに実力差があろうが
真正面から向かって行くし、
絶対に自分から膝を折るような真似はしない。
イクスだけだ。
俺と対峙することもなく、
目の前にいないにもかかわらず
俺に自ら膝を折らせるのは。
好きだ。
愛している。
今夜、そう言っても良いだろうか。
クルト王子はさすがに
イクスのことを諦めただろうが、
イクスはこれから高等部に入学する。
高等部では今までとは違い
他国からの留学生も
学校に通うようになる。
留学生は他国の高位貴族の者が多い。
イクスを気に入る者もいるだろうし、
他国の者だと、国際問題に
発展する懸念もある。
だからこそ、早くイクスは
俺のものだと公表したいのだ。
恐らくこのタイミングの
イクスのデビュタントも、
公爵殿が俺とイクスの関係を
進めるべく決めたのだと思う。
イクスが高等部に入学するまでの
この期間に、すべてを公表して
イクスを守るつもりなのだろう。
俺がつらつらと考えていると
扉の外から侍従の声がする。
俺が立ち上がり、扉へ向かうと、
入室の許可もなく、
扉が開いてイクスが飛び込んできた。
「ヴィー兄様」
可愛い笑顔で、
イクスが俺の名を呼ぶ。
……抱きしめたい衝動にかられる。
だが相手は子どもだ。
「イクス、いきなり部屋に
入ってくるのはどうかと思うぞ」
「ごめんなさい」と謝りつつも
でもヴィー兄様は許してくれるし、
と笑うイクスの顔に
俺は苦笑してしまう。
「もう大丈夫だ」
扉の前で控えている侍従に
俺は合図をして下がらせた。
扉が閉まるのを見届けてから
俺はイクスの背に手を回し、
「水でも飲むか?」と声を掛けた。
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