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高等部とイケメンハーレム
88:子どもと忍耐・4【ヴィンセントSIDE】
しおりを挟む俺が湯からあがると、
侍従が俺を呼びに来た。
公爵殿が帰宅したらしい。
髪を拭き、侍従が用意していた
失礼がない程度の服を着て
俺は侍従に案内されて
公爵殿の執務室へやってきた。
執務室の前には
先ほどの家令と執事が揃っていて
公爵殿と俺を繋いでくれる。
執務室にはすでに着替えを済ませた
公爵殿が俺を待っていてくれた。
机のそばにあるソファーには
お茶を淹れる準備がされていて、
俺は公爵殿に言われるまま
ソファーに座る。
応接室ではなく、
執務室でこうして話を
してくれるということは
俺は他人ではなく、
家族だと思ってくれているのだと
俺は嬉しく感じてしまう。
俺が椅子に座ると
執事がお茶を淹れてくれた。
そしてお茶の準備が終わり
執事が家令に視線を向けると
家令は公爵殿に丁寧に礼をして
執事と共に部屋から出て行く。
扉が閉まり、部屋には
俺と公爵殿との2人になった。
人払いをされているらしい。
「今夜もイクスが世話になったね」
「いえ、当然のことですから」
俺の返事に公爵殿は
満足そうにうなずいた。
「イクスは今夜も一緒に寝ると
駄々をこねたそうだな」
「はい。
ただ大人になる準備が必要なので
今日が最後だと言うことにしました」
「……そうか」
大人の準備、という言葉で
公爵殿は苦笑した。
「イクスは少し過保護に育て過ぎたようだ」
公爵殿は返答に困ることを言う。
「だが、私の可愛い息子だ」
「はい」
「このまま、イクスを任せても
構わないかね?」
「もちろんです」
というか、
今更俺以外の人間に
イクスをまかせると言うのなら
本気で暴れるぞ。
「今日の王子殿下たちの
態度も見ていたよ。
そろそろ、君との婚約を
公表しても良いかもしれん」
「……はい」
俺もそう思っていた。
だが、イクスは?
イクスは【兄】である俺との
結婚を嫌がらないだろうか。
それだけが不安だ。
「イクスには私から言うかね?」
「いえ、俺が言います」
そういうと、公爵殿は
満足そうに頷く。
「君の存在にイクスは
かなり支えられていると思う。
もちろん、私もだ。
この公爵家はレックスが
次期当主だということは
決まっている。
そのレックスが婚約をしたために、
社交界ではイクスの婚約者が
誰になるのかが注目されている」
「はい」
でしょうね。と言いたい。
イクスは次男だし、
公爵家を継ぐことは無いが、
それでも家族から溺愛されているのは
周知の事実だ。
イクスの嫁ぎ先は公爵家から
有り余るほどの援助や
恩恵を受けることができるだろう。
「今日は君のことを
随分と聞かれたよ。
イクスの婚約者候補なのかとね」
公爵殿は俺を見た。
「陛下も冗談まじりで
王子殿下のどちらかと
婚約しないかと言って来た。
もちろん、断ったがね」
「ありがとうございます」
俺が頭を下げると、
公爵殿は声を挙げて笑った。
「君も多くの釣り書が
侯爵家に届いていると聞いているよ。
だがイクスのために
すべてを断っているのだろう?」
何を当たり前のことを。
と俺が公爵殿を見ると、
「私は君のことを気に入っている」と
言葉を続けた。
「なにより、イクスのことを
一番に考えてくれる。
ハーディマン侯爵家のことよりも
イクスのことをね」
それも俺にとっては
当たり前のことだ。
父は嘆くかもしれないが、
俺は家よりもイクスを大切にしたい。
「イクスを任せるのは
君しかいないと私は思っている」
「はい。ありがとうございます」
「そんな君に、じつは伝えて
おかなければならないことがある」
公爵殿はそう言って、
お茶を一口飲んだ。
俺もつられてカップに口を付ける。
「イクスは幼い頃から
身体が弱かった。
そのことは知っているだろう?」
公爵殿はカップを置きながら
俺の目を見る。
俺も、はい、と頷いた。
「イクスは魔力量が多い。
もちろん、精霊の樹の件で
イクスが特別だということは
理解しているが、
それを差し引いても
かなりの魔力量があると
私は思っている。
そのせいで、発育が悪く、
いまだに何かあると体調を崩しがちだ」
「はい、理解しています」
だからイクスを守れと言うのだろうか。
「私が言っている意味がわかるかね?
イクスは16歳になったが、
まだ体が幼いということだ」
一瞬、意味が分からずに
俺は公爵殿を見つめ返した。
「あの子はずっと、
身体の発達状態が悪かった。
身長も体重も標準よりも
かなり低く、どうみても
まだ子どもに見える」
俺は頷く。
確かにイクスは顔立ちは美人だが
身体だけ見るとかなり幼く見える。
12、3歳ぐらいでも
おかしくないと言えるかもしれない。
「つまり、そういうことだ」
どういうことだ?
俺は首をかしげて。
あ、と思った。
「もし俺とイクスが2年後、
結婚したとしても……」
「そうだ。
そういうことになる。
君とイクスは5歳ほど
年が離れている。
それでも、待てるかね?」
俺は驚きに目を見開いてしまったが、
それでも即座に頷いた。
「当たり前です。
すでに何年も待っているのですから
あと数年伸びたぐらい、
何の支障もありません」
「そうか。
そう言って貰えてよかったよ。」
公爵殿がそう言って
口元をほころばせた。
「今後のこともヴィンセント君、
君に頼みたいのだが」
にこやかに……けれども
拒否は許さないと言わんばかりの
公爵殿の笑顔に、
俺はもちろんです、と即答する。
うむ、と公爵殿は満足そうな顔をした。
「ハーディマン侯爵殿には
今後の正式な婚約公式発表等を
どの様に進めていくかを
相談したいと伝えておいてくれ」
「わかりました」
俺が頷いたタイミングで、
扉を軽く叩く音がした。
公爵殿が入室の許可を出すと
扉が開き、執事が頭を下げる。
「ヴィンセント様のお部屋の準備が
整いましたのでお知らせに」
その言葉に公爵殿は
そうか、と頷き
俺を部屋へ行くよう促した。
「イクスを頼む」
「はい、お任せください」
俺は頷いて立ち上がった。
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