135 / 214
溺愛と結婚と
135:特別室
しおりを挟むぐだぐだで会議は始まった。
参加しているのは、
騎士団率いる騎士団長さん。
これはヴィンセントの父親の
ハーディマン侯爵家だ。
宰相さんはミゲルの父親だし、
あと知っているのは……
ぐるり、と見回したが、
後知っているのは俺の父と
ヴィンセントぐらいか。
俺は陛下と父の間に座っていて
ヴィンセントはまた俺の後ろに
立っている。
ヴィンセントは騎士だけれど、
きっと立場的にこの場に
座る椅子が無いのだと思う。
俺の護衛とか、そんな立ち位置だから
この部屋にはいることができたのだろう。
それでもここまで来てくれて、
俺の背中を守ってくれるのは嬉しい。
この部屋には知っている人間は
かなり少ないが、さきほどまでの
アウェイ感を考えると随分とマシになった。
陛下の代わりに
宰相さんがこの場に
集まってもらったのは
王子殿下が関わることではない、と
一言告げると、また目の前の
おじさんたちがざわざわする。
なんか嫌だな、この人たち。
俺がそう思ったことに
気が付いたのだろう。
陛下がパン、と手を叩いた。
「皆が我が息子たちの
将来を憂う気持ちはわかった。
今日そなたたちを集めたのは
時期尚早であった。
また改めて声をかける故、
今日はもう戻って構わぬ」
え?って思った。
たぶん、おじさんたちも
思ったとだろう。
せっかく集まったのに、と。
だが陛下がそれ以上は
何も言わないために、
そこにいた面々は、一人、
また一人と部屋を出ていく。
残ったのは陛下と俺と父。
ヴィンセントとその父親の
ハーディマン侯爵。
あとはミゲルの父と……
「すまない、遅れた!」
と、勢いよく入って来た
イケメンのおじさんが一人。
誰だ?
「遅い」とハーディマン侯爵が
怒ったように言うが、
イケメンのおじさんは陛下に
礼をして、「例の件で部下から
報告を聞いておりました」という。
なんだ?
例の件?
陛下は構わないと首を振り
イケメンおじさんに椅子に座るように言う。
「でも俺、全然遅れてないよな?
まだ全員、集まってないだろう?」
「馬鹿者、すでに解散した後だ」
ハーディマン侯爵の声に
俺はビクン、とした。
怒声は慣れない上に、
さすがは騎士団長。
声がでかくて、迫力がある。
「おい。うちの子が
怖がっている、怒鳴るな」
父が俺を庇うように言うが、
気持ちは嬉しいが、
イケメンおじさんは興味深々な
顔で俺を見て、なにやら
ニヤニヤしている。
これは、からかわれるパターンか?
「なるほど。
君が公爵家の至高の君か。
俺は魔法師団長のオーリー・フェンバッハだ」
なんか知ってる名前の気がする。
どこで知ったのかはわからないけど。
こげ茶色の髪は短くて、
魔法師と言うよりは騎士みたいだけれど
確かに空気は魔法師っぽい。
というか、身体から溢れる魔力を感じる。
こんなに多くの魔力を持ってる人、
初めて見た。
俺は立ち上がり名を名乗ったが、
何に驚いてよいのかわからず
呆然とオーリーを見つめるしかない。
身体から溢れる魔力量の多さに驚くべきか、
魔法師団長なのに、父よりも
随分と若いことに驚くべきか。
だってどう見ても20代ぐらいに見える。
前世の俺と同じくらいでは?
あと、イケメンだ。
俺の父や陛下は、というか
この国の人種は前世で言うと
西洋人っぽい顔立ちで、
いわゆる綺麗な顔立ちのハンサムが多い。
だが、オーリーはどこか
東洋ちっくな整った顔立ちだった。
前世日本人の俺としては
どこか懐かしい。
俺はあんまりじっと見つめていたせいか
オーリーは、なんだ?と
俺を見てにやりと笑った。
「そんなに俺がカッコイイか?」
「はい、物凄く」
素直に俺が頷くと、
おそらく俺を揶揄うつもりだったのだろう。
オーリーは驚いたような顔をして、
言葉を詰まらせた。
「はっはっは。
うちの息子は素直で可愛いだろう」
何故かそこに俺の父が割り込んで来る。
「だが、彼は我がハーディマン侯爵家の
嫁だからな、貴様にはやらんぞ」
ついでに、ハーディマン侯爵まで
そんなことを言うので
俺は困ってしまった。
ヴィンセントも自分の父親たちに
口を挟めないのだろう。
困った顔で傍観していりる。
「そなたたち、
無駄話は終わりだ。
早く座れ……いや、場所を変えるか」
陛下は立ち上がり、
部屋の外に出るのではなく、
陛下の椅子の後ろに隠されたように
あった扉を指さした。
「あちらでゆっくり話をしよう。
最初からこうしておけばよかったな」
陛下は俺に視線を向けた。
俺は首を振る。
だって、国の中枢の人たちに
一度に話が出来たら
すぐに動けたと思うし。
まさか、あんな人たちだと
俺も思ってなかったから。
はぁ。
俺、ヴィンセントと結婚しててよかった。
そうじゃないと誤解が解けないままだったかもしれない。
俺は部屋を移動するという陛下の後に
ついて歩くことにしたが、
ぎゅっとヴィンセントの腕にしがみつく。
「イクス?」
「ヴィー兄様と結婚してて
良かった、って思った」
嬉しい気持ちはすぐに伝えたい。
俺がそう思ってヴィンセントに言うと、
ヴィンセントは何故このタイミングで?
と小さくつぶやいたが、
「俺もだ」と耳元で囁いてくれた。
ちょっと恥ずかしいが、
やはり嬉しい。
「何をしている。
早く行くぞ」
とハーディマン侯爵が
声をかけて来たので
俺とヴィンセントは絡んだ視線を
外して、慌てて隣の部屋へと移動した。
302
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる