【完結・R18】「いらない子」が『エロの金字塔』世界で溺愛され世界を救う、そんな話

たたら

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新しい出会い

6:幼児趣味は誤解です

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私は何故か争いを始めようとする
二人の青年の間に入った。

「あの、ディランさんですよね?
ここまで連れて来てくれて
ありがとうございました」


ベットの上からで申し訳ないけど
とにかく、先にお礼を言う。

「い、いや、いいんだ。
大変だったな」


ん?
何が?


「これからのことは
心配しなくていい。

俺がなんとかしてやる。

今は体調を整えて、
話はそれからだ」


なんだろう?
何か…誤解してる?


私が神父のマイクを見ると、
マイクは困ったような顔をして


「私は…何か食べれるものを
持ってきましょう。
待っていて下さいね」

そう言って、部屋を出ていく。


「あの神父には
気を付けろよ」

マイクが出て行った途端、
ディランは早口で言った。

「え?……どうして?」

「神父だろうが、なんだろうが
あいつは絶対に、幼児趣味だ。

お前を見る目が、おかしい」


あー。
そういうことね。

私は幼児じゃないんだけどね。


ついでにマイクが私を
見る目がおかしいのは
私が『女神の愛し子』だからだ。


ディランの誤解を解けないのは、
それは言えないから…


うん。
この誤解は永久に解けない。


だから諦めて、
話を逸らすことにしよう。

「あの、ご迷惑をおかけして
申し訳ありません」


私はディランにもう一度頭を下げる。


「いや、子どもは大人に甘えるもんだ。
もう大丈夫か?」

ディランは私の額に手を当てた。

「熱は下がったようだな」

……熱が出てたのか。
寒かったし、風邪ひいたのかな。

あんな薄着で放置されたらねー。
と、遠い目になってしまう。


「で、なんであんな場所に
いたのか、覚えてるか?」

ディランはさっそく、
言いにくいことを聞いてきた。


私が口ごもると、
心配そうな顔になる。

「辛い…かもしれんが、
何でもいい。

覚えていることを言ってみてくれ」


なんでこんなに親身に
聞いてくるのかと思ったら、
どうやらディランは私がどこかの
貴族の屋敷から攫われてきたと
思っているようだった。

確かに…攫われてはきたけれど。


そして、記憶をたどって
家族か親族のもとに、
私を送り届けてくれようと
しているみたいだった。

ありがたいけど…有難迷惑案件だ。

だって私はしばらく、
『聖樹』巡りをして、それから
隣国に行かないとダメなのだから。


さて。
どうしようか。

適当に近くの町に連れて行ってもらうか、
それとも、マイクのお世話になると言って別れるか。

どちらにせよ、私がこのまま一人で
旅ができると思えないし。


まずは服と靴を調達して、
旅に慣れることを考えないと。

うーん、と悩んでいると、
ディランは焦らなくていいぞ、
って、頭をぽんぽんと撫でた。

懐かしい。
金聖騎士団の団長だったヴァレリアンが
良くしてくれた仕草だ。

あ、だめだ。
優しくされたから、涙がでそう。

「どうした?」
って言われて、大丈夫です、って答える。

甘えないようにしないと。

あと、誰かに心を許さないように気を付けないと。


私が好意を持ってしまったら、
いつ女神ちゃんの呪いが発動するかわからない。

でも。
私の心の【器】に<愛>を溜めなければ、
『聖樹』を育てることはできない。


そうなると、どうすればいいんだろう?

以前は私を好きだって言ってくれた
金聖騎士団のみんながいたから
すぐに<愛>は溜まったけれど。

独りぼっちの今は?

え?

どうする?


一瞬、パニックになって。
でも、心配そうなディランの顔に
大丈夫、ってもう一度言う。


そう、大丈夫。


落ち着いて。
なんとかなる。


恋愛感情で愛されることだけが
<愛>ではない。


それを私は学んだばかりだ。

人間関係を構築して、
優しくしたり、優しくされたり。


互いに思いやることで溜まる<愛>が
あることを、私はもう知っている。

だから、大丈夫。


私が大丈夫って何度もつぶやいていると
ディランは私の枕元にあった
クマのぬいぐるみを渡してくれた。

「くまちゃん!」

よかった、無事だった。

すりすりと私はクマのぬいぐるみを抱きしめる。


このぬいぐるみは、耳が三角だけど、
どう見てもクマ…の形をしていて、
私がお兄ちゃんのように慕っていた
聖騎士さんの婚約者が作ってくれたものだ。


服は聖騎士の制服で、
サッシュベルトには、
私の髪の色の黒い宝石が付いている。

その両側に、私を大切にしてくれた
金聖騎士団の6人の髪や瞳の色の宝石が
3つづつ、ついていた。

私と…金聖騎士団の皆の
絆のように思えて、私はこれを
とても大切にしていた。

良かった。
どこかに落としていたら
泣きながら探しているところだった。


私はぬいぐるみをぎゅっとする。


……元気がでてきた。


よし、がんばろう。


これから旅をするとして、
服や靴も必要だけれど。


他人が怖くて、すぐに極度な
人見知りを発症してしまう
私の性格を何とかしないとダメだ。


そういえば、ディランに対して
私は人見知りを発症していない。


出会った時が、生命の危機だったから
そんなのは、拭き飛んでしまったんだろうか。


だから…
今でも大丈夫なのかな。


マイクもそうだ。


驚いたけど、神父さんだったし、
大神殿にいた神官さんだったと聞いて
親しみが湧いた。


この二人なら、緊張せずに
接することができそうだ。


二人とも親切そうだし、
旅ができるようになるまで、
甘えさせてもらおうかな。



その日から私は、
ゆっくり体調が戻るまで
マイクの教会で休養させてもらった。


ディランも一緒に教会に寝泊まりしていて
暖炉の薪を集めてきたり、
村の人たちの力仕事を手伝ったりしているらしい。


私が寝ていたベットは
マイクのものだった。


暖炉がある部屋にあるベットは
ここだけだったみたい。

私がこのベットを使っているので、
マイクもディランも
別の部屋で寝ているみたいだった。

どうやって寝ているのか、
ベットはあるのかと
聞いたけれど、

二人とも、
口ごもるばかりだったので
早いうちにベットを明け渡さなければ
ならないと思う。

この村は
辺鄙な場所にあるからか、
村にいるのはお年寄りばかりだった。

そんなわけで、
体力がありあまるディランは
村ではかなり重宝されているようだ。

そうやって私は、
ゆっくり…ゆっくり。

体調を整え、
こころも、調えていった。


ディランは私のことを
あまり深く聞かなかったし、


マイクは私を崇拝する勢いだったけど
ディランに詳細を知られるのを
恐れて、3人でいるときは
私を普通の子どものように扱った。


ただし、ユウさま。と
「様付け」だけは直らなかったが。


ディランは私を貴族の子だと
思い込んでいる所があり、
マイクの様子もそこから来ていると
思っているらしい。


だからと言って、ディランは私を
決して「様付け」では呼ばなかったし、
それこそ…近所の子供に接するように
大雑把な優しさで接してくれる。


深い愛情でもなく、
無関心でもない。


そんな彼の愛情が今の私には心地よく、
とてもありがたかった。


風邪が治り、
私が村の外に出る頃には
ディランが私のために近くの町まで
行って、服や靴、カバンなどを
買ってきてくれた。


お金を持ってないと言ったけれど、
子どもは気にするな、と笑って言われる。


そしてこれは、
本当にありがたいことだったけど、


ディランは私に旅に出るために
必要なことを教えてくれた。


ディランは私を連れて
私の親族がいる街まで連れて行って
くれる気だった。


もし家族がいないのであれば、
孤児を育てる施設のような場所に
私を預けようと考えて居るようで、
そのために必要な知識を教えてくれた。


旅の間に襲われる可能性がある
魔獣のこと。

夜盗のような人たちのこと。

お金の稼ぎ方や使い方。

辻馬車の拾い方や、
馬の借り方。


護身術は金聖騎士団の皆に
習ったのでなんとなくわかるけど、
それも知らないふりをして
教えてもらった。


と言っても、攻撃するのではなく、
大きな体をした大人たちに
捕まりそうになった時の
反撃方法と逃げ方だったけど。


逃げ方は金聖騎士団の皆からは
教えてもらえなかったので
とても役に立った。


そうして、ゆっくり
私はこの辺鄙な村の教会で傷を癒した。


今までずっと、私は愛情に飢えていた。


この世界に来て、溺れるように愛されて
肌を重ねることを知り、
求められる愛を知った。


それから、優しい愛も知った。


家族のように、
自然に与えられる愛だ。


色んな愛を受け取り、
満たされていた私の心は、
皆との突然の別れに
頭では納得していたけれど、
心は……悲しんでいた。


だから、私は、
マイクとディランから
『普通の子ども』が
おそらく普通に与えられる『愛』に
心が癒され、満たされた。


これもまた、
私が知らなかった『愛』だ。


村の人たちからも、
私は『普通の子ども』として
愛情を受けた。


手伝いをしたら褒められ、
頭を撫でてもらう。

村を歩いていると、
笑顔で声を掛けられる。

決して裕福とは言えない村だけど、
みんな笑顔で、助け合って生きていた。


この村の人たちを見ていると、
ゆっくりだけど、私の心の中にある
【器】の中に<愛>が満ちていくのがわかる。


巨大な魔獣と戦ったり、
金聖騎士団の誰かが死にそうになったり。

そんな経験ばかりしていたから、
私は戦うために。

大切な人を救うために<愛>が必要で、
誰かからの<愛>を欲しがるばかりだったけど。

無理に愛されようとしなくても。
頑張って<愛>を溜めようとしなくても、
こうして、生きているだけで
心は愛情で満たされるんだ。


当たり前のことかもしれない。

でも、私はこのことを、
この村で学んだ。


これはきっと、
『大聖樹』のそばで、
金聖騎士団の皆のそばにいたら、
気が付かなかったことだと思う。


皆は私を大切にしてくれて、
いつだって、好きだって、
愛してるって言って抱きしめてくれたから。


この村に来てよかった。


私はこの村に滞在して1か月近く経ち
ようやく…この村に強引に連れて来た
女神ちゃんに、感謝をすることができた。


これを教えたかったから、
女神ちゃんは私をこの村に連れて来たんだね。


『エロの金字塔』のためじゃ
…ないよね?





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