蝉の灯

桜部ヤスキ

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エピローグ

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 ジジジジジジジジジ…………

「あー、暑い。ほんとに冷房きいてんのかこの教室。…………つか、早いよな。あいつらがいなくなってもうすぐ1年か」
「なんか、あっという間よね。つい最近まで一緒に授業受けたり遊んだりしてた気がするのに」
「全くだー」
「遼、なんであんなことしたんかな。俺らと祭りで別れた後、神社で1人で……」
「……やっぱり、敦輝のこと相当ショックだったんじゃろうね。2人すごく仲良かったし」
「何が、明日行けたら行くだよ。端から行く気なかったんじゃねぇか」
「遼さ、普通に笑っとったよね、事故の後。学校でも、夏休み入ってうちら4人で遊びにいった時も」
「わたしたちに合わせて、無理しとったんかな」
「俺らはそれに気付けんかったってことか。…………くそっ」
「……ねぇ。来週の灯籠流し、2人の名前書こ。ちゃんと弔いたいけぇさ」
「もちろんやー」
「そうやな。それくらいしか、俺らにできることないし」
「うん。さ、そろそろ次の補習始まるよ。年明けの入試まであと半年もないんじゃけ頑張ろ」
「おー。あ、祈李。足元に何か落ちとるよー」
「え?ああこれ、家の鍵じゃん。よう落ちるな。ありがと仁奈」
「まだ真っ赤の鮫付いとん。マジで趣味悪」
「何回言うんや智士。うちは気に入ってんの。それにこれは、すごく大事なもんじゃけぇさ」
「そうなん」
「前に川で落とした時、ある人が必死になって拾ってくれたんよ。誰だったか覚えてないけど」
「通りすがりのイケメンにかー」
「えっ、それは…………まぁ、可能性的にはありかな」
「何ニヤけとん。きっも」
「もぉーいちいちあんたは!」
「わぉ、取っ組み合いだー。2人共仲ええですなー」
「「よくないっ!」」




「今年ももうそんな季節か……」
「何だよ、カレンダー見つめて。合コンの予定でも入ったか?」
「いや、あの町ではそろそろ灯籠流しがあるなって思って」
「灯籠流しね。確かお前、去年そんな記事書かなかったか。休暇先でネタになる出来事があったから特集やらせてくれって」
「うん。このページの『今年は若い犠牲者 ミタマサマの祟り?』っていう記事」
「まだ持ってたのか雑誌。その週だけ異様に売れ行き悪くて、編集長に当たり散らされてたよなお前」
「あったね。辞めたければ好きにしろって言われたっけ」
「それ実質クビ宣言だろ。おっかねぇなあの人は。それで、どんなしょうもない内容だったんだ。てか祟りとか呪いとか今時ウケねぇって。神社が自殺スポットってのは確かに変わってるけどよ」
「いやこれは明らかに異常なんだよ。僕が去年滞在中に遭遇した件だけを見ても、男子高校生が夜中に1人で御魂神社に向かってそこで亡くなったんだ。自分の首にアイスピックを突き刺して。凶器は数日前に自分で購入したらしい。この一連の行動やわざわざ場所と時間を選んだ点からして、何か儀式めいたものを感じないか」
「儀式ね。そうやってすぐオカルトっぽく結び付けようとするのが安直なんだよ」
「それだけじゃないって。過去50年間の御魂神社での死亡者について調べたんだけど、その全員がほぼ同じ日に自殺を図っていたんだ。それが毎年開かれる夏祭りの最終日。遺体発見が遅れた者については死亡推定時刻が定かではないけどね。しかもその死亡者達の共通点として挙げられるのが、亡くなる1か月前以内に親族あるいは親しい人物が事故や病気で亡くなっていたこと。さっき話した男子高校生に関しても、亡くなる3週間程前に彼と親しかった同級生が交通事故で死亡していた。みんな、まるで死者の後を追っていくように命を絶っていたんだ。これはもう人知を超えた現象、神様の祟りとしか言いようがないって」
「はいはい。長々と語ってくれて悪いが、俺はそういう話興味ないんでな。それに、読者にウケなかったってことはその程度の記事だったんだよ。まぁまた頑張れ」
「はぁ。辛辣なこと言うなぁ」
「長年の親友からのアドバイスだ。ありがたく受け取れ。さて、昼休終わりだ。今日こそ早めに終わって飲みに行くぞ」
「そうだね。このところずっと残業続きだったから、今日こそは」




「この漢字ドリルだるいわー。夏休みだからって量多すぎなんよ」
「よねー。来年中学生になったら宿題もっと大変になんのかな」
「自由研究ないだけいいでしょ。もうあれどーしよ。何か工作するにしてもたいぎーしさぁ」
「私はそれ兄ちゃんに手伝ってもらったけぇ終わったよ」
「ちょ、あーちゃん!そういう話は……」
「あっ……ご、ごめん、椿ちゃん」
「べつにええよ。もう1年たつし。母さんはたまにとなりのにぃの部屋で泣いとるけど、うちは整理ついたつもり。いつまでもグダグダしとったら、にぃ達におこられそうじゃもん」
「つっちゃん……しっかりしとるんね」
「その、つらかったらいつでも言いんさいよ。うちらみんな椿の味方じゃけぇね」
「うん。ありがと」
「はぁーぁ。それにしても終わらんね宿題。ごみポスターとかどうする?」
「言い方。確かにあれはたいぎーね。去年のやつ丸パクリしてもばれん気がする」
「いいねそれ。でももうとっくに捨てたよあんなん」
「うちまだとっとるよ。確かクローゼットに入れたはず。ちょっと待って」
「ここ探すん?手伝おうか」
「大丈夫。えっと…………あ、あった。…………ふはっ」
「どしたん、椿。そんな面白いポスターかいとったん?」
「……いや、ヘタくそやなぁって思ってさ」








 タン…………タン…………タン…………タン…………

 長い石階段。
 脇に並ぶ石灯籠。
 茂った草木の中で虫が音を奏でる中、階段を上る足音が響く。
 まるで、賑やかに見送っているかのよう。
 強い意志を持った1つの魂を。
 階段が途切れ、目の前の空間が開けた。
 そびえ立つ石鳥居をくぐり、真っ直ぐ進む。
 周囲を森に囲まれた境内。
 左右に置かれた、黒く風化した狛犬。
 そして、中央に構えられた拝殿。柱や壁にひびが入り、長い年月雨風にさらされた影響が明確に見て取れる。頭上から差す眩い日光の下ではより際立つ程、その損傷は大きい。

 これが、御魂神社。

「ミタマサマ。どうか、この願いを聞いてください」
 社殿の前で手を合わせ、祈る。

 ジジジジジジジジジ
   ジジジジジジ  ジジジジジジジジジジジジ
  ジジジジジジジジジ   ジジジジジジジジジジジジ…………

 境内を囲む森の中から、蝉の合唱が聞こえる。
 どこまでも、どこまでも、どこまでも、響いていく。





 ー終わりー
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