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第29話 聖獣

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「サンダー!」

 あかりが雷魔法でゴブリンを倒した。

 俺は毎日ヨウカとあかりを連れてモンスターを倒した。
 スライムの数は落ち着いたが今度はゴブリンが多く出てくる。
 ゴブリンは弱くても知性が高い。
 そこが厄介だ。

 奇襲や連携攻撃、陣形を組んでの攻撃やイエローゴブリンによる『エクスタシー』の集中攻撃だ。

 あかりがこれを食らうと動けなくなり危ない。
 まだ俺抜きで探索をするのは早い。
 あかりは強くなったがもう少し能力値を上げて抵抗力をアップさせておきたい。

 というか本来異界探索はパーティーを組んで進むのが普通だ。
 だけど誰かがヨバイの村を護衛するために残る。
 そうなれば3人パーティーにしかならない。
 戦力不足か。
 高校では出来るだけ4人以上のパーティーを組んで行動していた。



「お兄ちゃん、考え事?」
「ちょっとな、所で、しばらく家に帰ってないけど、まだ帰らなくて大丈夫なのか?」

「大丈夫、お母さんとお父さんには話してあるから」
「う~ん、でも、異界からは魔道スマホで連絡を取れないだろ?」
「大丈夫、しばらく帰らない事は話してあるから」
「それなら、大丈夫か」

「ねえ、お兄ちゃんはまだFランク何だよね?」
「そうだ、オールFだぞ!」
「何で偉そうなの?」

「そういうわけじゃないけど、Fランクは楽だぞ」
「受付のお姉さんに昇格試験を受けるように言われてたよね?」
「そうだな」
「どう考えてもFランクの強さじゃないよね?」

「後で受けよう」
「たくさんのドロップ品を納品すると怪しまれるからちょっとずつ納品してるよね?もうきついんじゃない?」
「後でな」

「冒険者ランクですか。楽しそうですね」
「亜人の冒険者登録がそろそろ解禁される頃か」

 ちなみに『亜人』の呼び方は失礼だとか騒ぐのは俺達人間だけでヨウカ達は亜人と言われても気にしていない。
 そういう理由で異界にいる人を亜人と呼ぶことになっている。

「ヨウカなら冒険者になってすぐにランクを上げられるけど……」
「今はやめておいた方がいい。ストーカーをされたり、モンスターの発生を亜人のせいにされたりと、面倒なんだよな」
「もう少し様子を見たいよね」
「そうだな」

 今は亜人への差別がある。
 人は知らない物を見た時にとりあえず否定するものだ。
 異界が発生する前の話になるが、スマホが発売された時、馬鹿にして否定する者がいたらしい。
 だが今は手のひら返しをするようにみんなが魔道スマホを使っている。
 人は自分の知らない事や人を叩こうとする習性があるらしい。

 亜人と交流を持ったおかげで日本では冒険者として強くなる訓練方法や錬金術の使い方など多くの技術が広まり、亜人への見方は変わってきている。
 それでももう少し時間を置いた方が賢明だと思う。

「ユウヤさん、ユウヤさん!」
「お?」
「帰りましょう」
「うん、そうだな」

 俺達はヨバイの村に戻った。




「お帰りなさい。ユウヤ?どうしたのかしら?」
「少し、考え事をしていた」

「話してみると考えがまとまると思うわ」
「お兄ちゃん、言って」
「ユウヤさん、聞きたいです」

「うん、この村で戦える人は俺・ヨウカ・あかり・ユキナだけで誰か一人は村に残っているだろ?4人だけで村を守るのはきついから、どうにかできないかと考えていた」

 俺は前よりは強くなったけど、まだ修行中だ。
 俺個人が強くなるのも大事だが、村全体の防衛力を底上げする方が今は大事な気がする
 そもそもここはダンジョンだ。
 自衛力に問題があるのは致命的だと思う。

 日本に移民してもらうか?いや、でもそれだと街のみんなが過剰に反応する。
 1000年生きていない村のみんなにモンスターと闘ってもらうか?でも、亜人はモンスターを倒しても能力値が上がりにくいから鍛えるにしても時間がかかる。
 スキルの技量は高いけど、モンスターを倒した時の能力上昇率が低い。
 スキルは問題無いけど能力値の底上げには時間がかかるだろう。
 それとも大河さんに相談するか?
 
「ユウヤ、聖獣に協力をお願いすれば何とかなるかもしれないわ」
「聖獣か。ドラゴンとか、フェンリルとか、そういうのか?」
「そうね、でももっと色々な種類の聖獣がいるわ」

「行こう!」
「でも、ヨウカとあかりは疲れているわ。私なら案内できるのだけれど」

「嫌じゃなければ案内して欲しい」
「嫌じゃないわ。錬金術ばかりで籠っているよりユウヤとお出かけしたいわ」

「すぐに行こう!聖獣を仲間にしたい!」

 ドラゴンか、いいな。
 俺はイメージした。

『来い!バハムート!』

 突風を巻き起こして飛竜が飛翔し、俺の前で着地した。
 そして俺はバハムートにまたがる。

『行くぞ!』
『グオオオオオオオオオオオ!!』
『ゴブリン、ブレスで一掃してやる!』

 ……いいな。
 いや、フェンリルもいい。

『来い!シルバーファング!』
『ギャオオオオオオオ!』

 大地が震え、フェンリルが俺にすり寄った。

『行くぞ!』

 俺はフェンリルに乗って疾走する。



「行こう!すぐに行こう!今すぐ行こう!夢が広がる!」
「何を考えていたのか分からないのだけれど、分かったわ、行きましょう。ユウヤがいれば聖獣を仲間にする事だって出来るかもしれないわ」

 俺はユキナをおんぶして空を駆ける。

 楽しみだ!

 楽しみでたまらない!




「ここらへんでいいんだよな?」
「そうね」
「う~ん、でも魔力の気配的に小さめの獣しかいないぞ。後はモンスターっぽい気配しかない」

「その獣の所まで走って欲しいのよ」

 俺は獣の方向に走った。


 
「きゅ!」

 コツメカワウソがいた。
 自然豊かだな。

「あれは!聖獣よ!」
「え?あのコツメカワウソっぽいのが?」
「聖なる力を感じるわ。聖獣、エレメントカワウソよ」

 柴犬と同じサイズだけど足が短くて地を這うように歩いている。
 ラッコのような可愛さを持つエレメントカワウソが俺を見た。

「きゅう?」

 思ってたのと違う!
 違いすぎる!
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