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三十六話
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灯が馬車を先導して、敵のバリケードを突破すると言う作戦は、以外にもうまく行っていた。
灯の尋常でない体力が、灯を約十時間は走らせた。それもスピードを緩めずに。
灯も全力疾走をすれば馬車を置いて行ってしまうので、馬車に合わせたスピードを出しているわけだから、それなりに体力を温存しながら走っているようだった。
が、それにしても十時間。
灯には定期的に体調の様子を聞きに行かせているが(シロに)、灯も余裕だそうだ。いざとなった時にへばることもなさそうだった。
というか、その『いざ』は、五時間の間に何度も訪れた。
敵のバリケードだ。
アルハの王都へ続く道には、何重にもバリケードが敷かれている。それを尽く、簡単に突破していた。我が妹は。
どんな巨体な敵も、俊敏な敵も、剛力な敵も、超能力を持つ敵も、大人の敵も、子供の敵も、小さな敵も、大きな敵も、全員。
灯は皆殺しにして行った。
殺戮し尽くした。
その凄惨な姿に僕も灯を恐怖の眼差しで見てしまうし、それは僕以外の人間も、同じのようだった。
「…………」
「そろそろ夜だな」
「脇道に入って、少し隠れたところで今晩は過ごしましょう」
ヴィルランドールさんの提案で、僕はまた、シロに灯のところへ行ってもらい、戻ってくるようにお願いした。
「ふー、ただいまー」
「……うぅ」
灯の姿はひどかった。体に傷ひとつないし、それはいいことだったが。
敵の返り血が全身を覆い、その悪臭も灯を覆っていた。
血生臭いというのはこんな悪臭なのか……。
「みんなどうしたの?」
それに気付かず、周りの反応を疑問に思う灯。自分自身は慣れてしまったのだろう。この匂いに。
「いや、お前、自分の体見てみろ。返り血だらけだろ。それが臭うんだよ」
変に隠しても意味がないので、僕は正直にそれを指摘するのだった。
「あー、これ、くさかった? みんなごめんね」
灯は苦笑しながら手を合わせ謝る。その手も血だらけで、見ていられない。
「今夜は川とかで、その血、流したほうがいいよ」
「冷たそー」
「いえ、大丈夫です」
僕の提案に待ったをかけたのは、シバリアだった。
「私が全身を綺麗にできます」
そうだった。シバリアはそんな能力を持っているのだった。だからこの旅にはお風呂が要らないのだ。
「神よ、人の身を清め給え」
するとシバリアの掌から放たれた光が灯に直撃し、その光が灯の体を包み込む。そして灯を覆っていた血や悪臭がみるみるうちに消えて行った。
「わー綺麗。ありがとうシバリア!」
灯は嬉しそうにシバリアにお礼を言った。
「いいえ。綺麗になってよかった」
シバリアも嬉しそうに微笑んだ。
「では、この辺で休むのはいかがですかな」
脇道に入ってしばらくしたところで、ちょうど身を隠せそうな位置に馬車を置いて、僕らは夜を過ごすことにした。食べて歯を磨いて、昨日決めたチームに分かれて、見張りをする。ルーチンワークのようになってきたこの作業も、慣れれば楽だ。
いや、決して楽ではないが。
元の世界にいた時は、なんて恵まれていたのだろうか。その世界に比べて、ここは地獄だ。
ノロジーだけではなく、地球にも戦争はあったが。僕が住んでいたところは戦争なんてなかった。
しかし、その戦地で戦っている人々は、皆このような心境にいるのだろうか。
まあ、今更こんなことを考えても仕方がないが。
人のことを考えていられるほど、余裕はない。
とうに戦場へ足を踏み入れているのだ。あとは殺されないように殺すだけ。
誰かに想いを馳せるのであれば、それは今ともに戦ってくれる仲間にするものだろう。
僕は雑念を追い払い、見張りに徹した。
灯の尋常でない体力が、灯を約十時間は走らせた。それもスピードを緩めずに。
灯も全力疾走をすれば馬車を置いて行ってしまうので、馬車に合わせたスピードを出しているわけだから、それなりに体力を温存しながら走っているようだった。
が、それにしても十時間。
灯には定期的に体調の様子を聞きに行かせているが(シロに)、灯も余裕だそうだ。いざとなった時にへばることもなさそうだった。
というか、その『いざ』は、五時間の間に何度も訪れた。
敵のバリケードだ。
アルハの王都へ続く道には、何重にもバリケードが敷かれている。それを尽く、簡単に突破していた。我が妹は。
どんな巨体な敵も、俊敏な敵も、剛力な敵も、超能力を持つ敵も、大人の敵も、子供の敵も、小さな敵も、大きな敵も、全員。
灯は皆殺しにして行った。
殺戮し尽くした。
その凄惨な姿に僕も灯を恐怖の眼差しで見てしまうし、それは僕以外の人間も、同じのようだった。
「…………」
「そろそろ夜だな」
「脇道に入って、少し隠れたところで今晩は過ごしましょう」
ヴィルランドールさんの提案で、僕はまた、シロに灯のところへ行ってもらい、戻ってくるようにお願いした。
「ふー、ただいまー」
「……うぅ」
灯の姿はひどかった。体に傷ひとつないし、それはいいことだったが。
敵の返り血が全身を覆い、その悪臭も灯を覆っていた。
血生臭いというのはこんな悪臭なのか……。
「みんなどうしたの?」
それに気付かず、周りの反応を疑問に思う灯。自分自身は慣れてしまったのだろう。この匂いに。
「いや、お前、自分の体見てみろ。返り血だらけだろ。それが臭うんだよ」
変に隠しても意味がないので、僕は正直にそれを指摘するのだった。
「あー、これ、くさかった? みんなごめんね」
灯は苦笑しながら手を合わせ謝る。その手も血だらけで、見ていられない。
「今夜は川とかで、その血、流したほうがいいよ」
「冷たそー」
「いえ、大丈夫です」
僕の提案に待ったをかけたのは、シバリアだった。
「私が全身を綺麗にできます」
そうだった。シバリアはそんな能力を持っているのだった。だからこの旅にはお風呂が要らないのだ。
「神よ、人の身を清め給え」
するとシバリアの掌から放たれた光が灯に直撃し、その光が灯の体を包み込む。そして灯を覆っていた血や悪臭がみるみるうちに消えて行った。
「わー綺麗。ありがとうシバリア!」
灯は嬉しそうにシバリアにお礼を言った。
「いいえ。綺麗になってよかった」
シバリアも嬉しそうに微笑んだ。
「では、この辺で休むのはいかがですかな」
脇道に入ってしばらくしたところで、ちょうど身を隠せそうな位置に馬車を置いて、僕らは夜を過ごすことにした。食べて歯を磨いて、昨日決めたチームに分かれて、見張りをする。ルーチンワークのようになってきたこの作業も、慣れれば楽だ。
いや、決して楽ではないが。
元の世界にいた時は、なんて恵まれていたのだろうか。その世界に比べて、ここは地獄だ。
ノロジーだけではなく、地球にも戦争はあったが。僕が住んでいたところは戦争なんてなかった。
しかし、その戦地で戦っている人々は、皆このような心境にいるのだろうか。
まあ、今更こんなことを考えても仕方がないが。
人のことを考えていられるほど、余裕はない。
とうに戦場へ足を踏み入れているのだ。あとは殺されないように殺すだけ。
誰かに想いを馳せるのであれば、それは今ともに戦ってくれる仲間にするものだろう。
僕は雑念を追い払い、見張りに徹した。
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