妹、異世界にて最強

海鷂魚

文字の大きさ
50 / 50

最終話

しおりを挟む
 今日、僕は二十八歳になる。
 僕の誕生会と称して、雛波青志のサイン会が始まろうとしていた。会場には大勢の人が集まり、僕のサインを、僕の執筆した小説を手に持って待っている。
「いよいよですよ、雛波先生」
 担当編集の山形さんが僕の肩を軽く突く。
「先生なんてやめてくださいよ。小説家なりたての新人なんですから」
 僕は異世界から帰って、まず何をしたかといえば、小説を書いた。
 異世界に行っていた二週間あまりを、記録にした。それはもはやファンタジー小説だったけれど、誰からどう思われたところでどうでもよかった。この記録は、誰にも見せないつもりだったからだ。
 しかし、十年間の間、推敲に推敲を重ね、トラウマと化していたあの事件を、創作の小説として作り直すことに成功した。
 主人公は妹と異世界へ行く。大切な仲間ができ、やがてはその仲間と恋愛に発展したりして。そして、ラスボスなんか余裕で倒して。誰も死なない。悲劇とは程遠い作品を作り上げた。ベースは実体験だが、小説自体は力作のファンタジー小説になった。
 その作品が新人賞を受賞し、めでたいことに大ヒットした。
 そしてサイン会が開かれるという、新人作家には珍しい事態が起こっている。
 いや、本当にありがたいけれど。
 自作のサインは間に合わなかったので、雛波という日本語を普通に書くという、まるで教科書の名前欄に名前を書くかのようなサインになってしまうのだけれど、作家になってから忙しすぎて、サインの練習なんてしてられなかったのだから仕方がない。
 少しでも雛波という字を崩してみたりして、ちょっと練習したけれど、ただの字が汚い人になってしまうので、丁寧に雛波という字をかき上げよう。
 そういう心意気で僕はサイン会の開始を待っている。
 そして、
「では、これより雛波青志先生のサイン会を開催いたします」
 サイン会が始まった。
 一人目、二人目、と、サインを書いていく。ついでに一言二言喋らなきゃいけないのだが、緊張で、結局サインはただの字が汚い人になってしまった。
 十何人サインを書いて、慣れてきたところで、次は十歳くらいの女の子が、僕の本を持ってやってきた。僕の小説はラノベと呼ばれる分野だ。このくらいの子も読むのだろう。
「えっと、私の名前は志波しば理亜りあです! 好きな色は緑で、好きな食べ物はお野菜です! 本面白かったです!」
「しば、りあ?」
「え? はい!」
 少女は困ったように、頷く。とても元気のいい女の子だ。
 幸せな偶然もあるものだなと思い、僕はその少女の本にだけ、そっと、『雛波青志』と、フルネームを書いて、手渡した。
「えっと、次回作を期待しています! あと、先生のことが好きです!」
「会いにきてくれてありがとうね」
 僕も好きだよ。シバリア。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~

しばたろう
ファンタジー
ブラック企業で倒れたSEが、 目を覚ますと――そこは異世界だった。 賑やかなギルド、個性豊かな仲間たち、 そして「魔法」という名のシステム。 元エンジニアの知識と根性で、男は再び“仕事”を始める。 一方、現実世界では、 兄の意識が戻らぬまま、妹が孤独と絶望の中で抗っていた。 それでも彼女は、心ある人々に支えられながら、 科学と祈りを武器に、兄を救う道を探し続ける。 二つの世界を隔てる“システム”の謎が、やがて兄妹を結びつける。 異世界と現実が交錯するとき、物語は再起動する――。 《「小説家になろう」にも投稿しています》

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...