ギャルゲ主人公の朝は早い

海鷂魚

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第1章

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「おっはよー。朝だぞー」
 扉をノックしながら部屋に入ってきたのは、姉のふゆだった。俺は重いまぶたを開け、

一、おはよう姉さん

二、もう少し寝る

「おはよう姉さん」
 一が選ばれたか。俺は可能ならいつまでも寝続け、起きた時に頭痛がして後悔するほど眠りたい男なのだが。まあ学校とかあるし仕方ないな。
 あ、どうも読者の皆さん。俺の名前は近道輝矢こんどうてるや。実は俺、ギャルゲ主人公なんだが、選択肢を自由に選べない。不条理に選択肢が現れ、完全ランダムで選択肢が選ばれる。理不尽な世の中だろう?
 だが、世の中は理不尽なことで溢れ、理不尽でないことでも溢れている。世界はいい意味でも悪い意味でもいっぱいいっぱいだ。まあ、何が言いたいかといえば、運が良ければいい選択肢を選べるかもしれないということだ。ランダムだからといって全てが悪い方向に進むわけではない。
 そんな説明をしながらも、俺は着替えたり歯を磨いたりしているわけだが、こういう時は選択肢が出ない。なにせこの世界はギャルゲで出来ている。女の子が関わらない限り、選択肢は出てこない。
「あ、にいちゃん。おはよー」
 今、廊下で鉢合わせしたこの妹はあき。冬は厳つい目つきに腕っ節も凄まじいが、小学生の秋はとても可愛らしい女の子だ。

一、おはよー

二、無視

 やれやれ、妹にも素直に挨拶できないのか、俺は。まあギャルゲ主人公なら仕方ないな。
「おはよー」
 しかし、無事に一が選ばれた。秋は可愛い妹だ。大事にしたいので一が選ばれてよかった。
 もう一つ説明しておくことがあるとしたら、選択肢は行動にも現れる。素敵な言葉を巧みに選んで女の子を落とすのがギャルゲだが、この世界の場合、言動全てが選択肢に出るらしい。まあ、全てと言っても二択だが。
 妹とも挨拶を済ませ、居間に向かう。姉さんと秋はすでに朝食を済ませているらしかった。母さんはせっせと家事をし、父さんは仕事前に新聞を読んでいる。ベタな家族だ。まあ、普通であるというのは幸せなことだ。普通最高。だから選択肢よ、普通に現れてくれ。
「おはよう。ちゃっちゃと朝ごはん食べちゃいなさい」
 母さんがすれ違い様にそう言った。

一、母さんの朝ごはん大好き。母さんはもっと好き!

二、はいよ

 おいおい、この世界は母親まで攻略対象かよ?
「はいよ」
 だが、二が選ばれた。よかった。母さんなんて攻略したくないよ……。
 俺は誰かに起こされるまで寝続けているので、いつも朝食はひとりぼっちだ。一人が嫌なら早起きしろという話だが、早起きして姉さんや秋、母さんとご飯を食べてると、選択肢の現れる量がエグくなる。だからこれでいい。
 俺はニュースを見ながら朝ごはんを食べる。そして身支度を完了させて家を出るのだった。毎朝幼馴染と待ち合わせをしている。遅刻するわけにはいかないので、起きてからの俺の行動は凄まじく早い。これからは雷神と呼んでくれ。
 と、まあ言っている間に待ち合わせ場所まで到着した。駅前でいつも待ち合わせしている。学校は二駅隣だから、同じ地区に住む幼馴染と待ち合わせするならここがちょうどいい。
「おはよう」
 そしてこの幼馴染の名前は九井未知ここのいみち。幼稚園時代からの幼馴染。というか、腐れ縁みたいなものだ。

一、お待たせ

二、急げ、雷神が目覚める前に……

 いや、意味わからん。
 さっき自分のことを雷神と呼んでくれとか言ったからこんな選択肢出てんの?
 下手なことは言うもんじゃないな……。
「お待たせ」
 だが一が選ばれる。ふう。恐ろしく運のいい男である。この俺は。今の所なんのトラブルも起こしていない。雷神ではなく幸運の神と呼んでほし……いやなんでもない。
 しかし女の子と関われば理不尽な選択肢が出るかもしれないのに、なぜ未知と待ち合わせをしているかといえば、やっぱりそれは友情である。
 腐れ縁とはいえ、未知は俺の大事な友人……いや、それ以上かもしれない。どんな選択肢が出ても、未知との友情は壊れないと信じている。
「待ってもいないよ。今来たところ」
 お前はイケメン男子かよ! なんか数分は待ってそうだけど、そう言ってくれるならありがたい。

一、いや、数分前から待ってたでしょ?

二、来たのが同時ってことは、俺たち……運命の赤い糸で結ばれてる?
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