ストロベリー

海鷂魚

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三話「仕事」

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「誰ですか?」
 苺が前に出る。
「合言葉は山。だったかな。古き良きかな」
「ええ、そうですね。川」
 渚が答える。
「大丈夫だよ、苺。この人の前に座ろう」
 そう言って、テーブル席の向かい側に腰を下ろす渚。苺もそれに習った。
 この男は何者なのか。なぜ気まぐれでやってきた喫茶店に先回りしてここにいるのか。それはわからないが、彼が依頼主であることは、十分にわかった。
「仕事がある。この男だ」
 そう言って男が提示したのは、正面から明瞭に写った男の顔だった。
「名前は野村重明しげあき。身長は百六十センチ前後。年齢は46歳。住所は老幼町の一の二の十二。部屋番号は二〇五。そこに住んでいた。容姿は写真を参考にしてくれ。あと100枚この男を写した写真がある」
「なるほど。わかりました。一応、理由も聞いてるんですよ」
「闇金関係でこの男が金を持ち逃げしている。こちらで奴を下しても構わないが、逮捕されるのは確実にこちらになる。それはごめんだ」
「わかりました」
 男は、
「よろしく頼む」
 と、言い残し、現金千円(自分が飲んでいたコーヒー代だろう)と写真の入った厚い封筒を置いて店を出て言った。
 試作機なだけあって完璧ではない苺を、最大限使った仕事が任命された。
 試作機なだけあって完璧ではない苺。あるいは失敗作と言える苺。
 なぜなら、渚は人の命を救う人造人間を作っている過程で、人の命を殺す人造人間を作ってしまったからだ。
 人の命を救う人造人間。それを作るのが彼、青鷺渚の仕事だった。しかし一号機を作った際、それに渚は失敗した。
 人の命を救う人造人間を作るのに失敗した。
 そしてできあがったのが、人を殺すために存在する人造人間だ。それが人造人間一号機、苺だった。
 だから彼は苺を本作としてでなく、試作として用いり、家政婦のような役割で使っていたのだ。その苺を、家政婦としてでは役不足なため、最大限使うために、
「苺、この男を殺せ」
「はい」
 苺を、殺し屋として使っていた。
 店を出た渚と苺。結局、ゆっくりすることはできなかった。気分転換にはなったが。
「老幼町といったら隣町だけれど……。持ち逃げしている時点でいるわけないよな」
「でも、さっき言われた住所に行ってみましょう」
「そうだね」
 隣町に行くにはそれなりの移動手段が必要なので、家に戻って車に乗って行くと言う渚の提案によって、一度家に戻った。
 セダンに乗り込み、移動を開始する。
「さっきの住所まで車でどれくらいだ?」
「十五分くらいです。信号機で足止めを食らうのも想定して」
「了解」
 セダンのナビは起動させていない。全て苺が道案内をする。全国の地理、いや、全世界の地理を、苺は把握している。
 そして苺の巧みな道案内のおかげで、十五分以内に、その場所へ着いた。老幼町一の二の十二。そこはアパートだった。
「さて、ここが二〇五だけど」
 インターフォンやノックをしても誰も出ない。
「よし、入るよ。苺、ドア開けて」
「はい」
 当然鍵はかかっている。すると苺は鍵穴に人差し指を立てると、鍵穴にずぶずぶ入れていく。鍵穴に合う鍵になるよう指が変形していっているのだ。そして、鍵穴にあった鍵に変形した指で鍵を開ける。
「はいってください。なるべくものは触らないほうがいいです。私は指紋がありませんが、渚さんはありますので」
「わかってる」
 シューズカバーを靴の上から履いて、重明宅に侵入する。
「これといって変わった家ではないな」
「そうですね」
「苺はここで野村重明の匂いを覚えてくれ。その匂いで彼を追おう」
「わかりました」
 数十秒、苺は深呼吸をする。
「覚えました。では行きましょう」
 家を出るとき、先ほどの鍵に変形させた指で鍵を閉める。
「匂いはあっちに行っています」
 苺が指す方向へ、セダンで向かう。
「かなり遠いですよ」
 苺のアドバイスに渚は、
「お金は持ってる。旅も兼ねて行こう」
 と、気楽に言うのだった。
 これから人を殺すのに。
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