2 / 56
【天界1】
1
しおりを挟む
「おい、新刊だ。ちょうどいい。76番、行ってきてくれ」
数冊の本を抱えて、レジカウンターに戻ってきたところだ。
装丁が破れた商品がいくつか見つかったため、繕い直そうとした。
わずかなほころびでも気になってしまうのは、自分の性格上ということもあるが、見ばえの良し悪しは、実際にお客様の購買意欲に大きく関わってくる。と思っている。
味のある旧式のレジスター横に設置された、これまた古びたデスクトップパソコン。カウンターの向こう側に立つ同僚は、かぶった黒いマントの奥から、その画面に一心に視線をそそいでいる。こちらには目もくれない。
「わたくしですか?」
スタッフは多くはないが、手すきの者は自分以外にもいる。
「俺は、お前の社員番号を言ったつもりだけど」
同僚は平静を装ってはいるが、針のようにピンと長いヒゲの先が一斉に前へ向いた。
我々の身体の構造からすると、その反応は、性的に興奮したか、機嫌が悪くなったかのどちらかの場合に現れるもので、前者でも困る。
ため息をつき、腕の中の本をカウンター上に置いた。
「了解しました」
カウンターのサイズはお客様仕様になっているため、天板が腰の位置よりかなり上だ。本を重ねる際には、肘を突っ張らねばならない。
机上に置かれたパソコンの前に立ち、日がな新刊の一報をチェックするのが仕事である同僚も、顎を上げている。首が凝ってしかたがない、というのが彼の目下の悩みだ。
「一冊ですか? 複数冊必要ならば、白紙の書の在庫を確認しませんと」
新刊が出るのはいつでも急なことだから、そこに驚きはしない。
備品室の在庫状況を思い返す。
出勤時に確認した際には、まだ充分な予備があった。あれからまだ数時間だが、新刊が出ない日などありえなく、場合によっては、一回に何冊もの新刊の通達が送られてくることも珍しくない。
それでも、百冊程度の予備は常に確保されているはずなので、問題ないだろうが、万が一のこともある。複数冊ならば、やはり確認が必要だ。
「心配ねぇよ。一冊だ。記入する内容もあんまりないだろうから、すぐに戻ってこられる。ラッキーだったな」
「あんまりないって、それって」
人間ならば、眉をひそめる、と言うところなのだろうけども、我々には眉毛がない。と言うより、顔中を黒い毛が覆っているので、どこが眉毛にあたるのかはっきりしない。代わりに、ピンク色の小さな鼻の上にぐっとシワを寄せた。
「生涯が短いってことではないですか。新刊は、子供なんですか?」
数冊の本を抱えて、レジカウンターに戻ってきたところだ。
装丁が破れた商品がいくつか見つかったため、繕い直そうとした。
わずかなほころびでも気になってしまうのは、自分の性格上ということもあるが、見ばえの良し悪しは、実際にお客様の購買意欲に大きく関わってくる。と思っている。
味のある旧式のレジスター横に設置された、これまた古びたデスクトップパソコン。カウンターの向こう側に立つ同僚は、かぶった黒いマントの奥から、その画面に一心に視線をそそいでいる。こちらには目もくれない。
「わたくしですか?」
スタッフは多くはないが、手すきの者は自分以外にもいる。
「俺は、お前の社員番号を言ったつもりだけど」
同僚は平静を装ってはいるが、針のようにピンと長いヒゲの先が一斉に前へ向いた。
我々の身体の構造からすると、その反応は、性的に興奮したか、機嫌が悪くなったかのどちらかの場合に現れるもので、前者でも困る。
ため息をつき、腕の中の本をカウンター上に置いた。
「了解しました」
カウンターのサイズはお客様仕様になっているため、天板が腰の位置よりかなり上だ。本を重ねる際には、肘を突っ張らねばならない。
机上に置かれたパソコンの前に立ち、日がな新刊の一報をチェックするのが仕事である同僚も、顎を上げている。首が凝ってしかたがない、というのが彼の目下の悩みだ。
「一冊ですか? 複数冊必要ならば、白紙の書の在庫を確認しませんと」
新刊が出るのはいつでも急なことだから、そこに驚きはしない。
備品室の在庫状況を思い返す。
出勤時に確認した際には、まだ充分な予備があった。あれからまだ数時間だが、新刊が出ない日などありえなく、場合によっては、一回に何冊もの新刊の通達が送られてくることも珍しくない。
それでも、百冊程度の予備は常に確保されているはずなので、問題ないだろうが、万が一のこともある。複数冊ならば、やはり確認が必要だ。
「心配ねぇよ。一冊だ。記入する内容もあんまりないだろうから、すぐに戻ってこられる。ラッキーだったな」
「あんまりないって、それって」
人間ならば、眉をひそめる、と言うところなのだろうけども、我々には眉毛がない。と言うより、顔中を黒い毛が覆っているので、どこが眉毛にあたるのかはっきりしない。代わりに、ピンク色の小さな鼻の上にぐっとシワを寄せた。
「生涯が短いってことではないですか。新刊は、子供なんですか?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる