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【人間界6】
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「ジャッジマンは、あなたがた人間が、天使と呼んでおられる方々です」
「天使って本当にいるのか!」
「天使という呼び名は、あなたがたが名付けたものですけどね」
「え、そうなの?」
「便宜上、お借りしているのです。彼らははるか以前から天界に存在され、階級は我々よりずっと上です。我々が彼らをひとくくりに呼ぶなど、本来は失礼にあたります」
「ほお」
「ただ、あなたがたがよくご存知の、大きな白い翼を持った姿であることは本当です」
「頭に輪っかがあって?」
「それはフィクションですね」
「なんだ。がっかりだな」
「ジャッジマンである天使の仕事には、我々が運んでくる書籍が欠かせません」
「そうか。人間の魂が本になるんなら、買った本の人間の転生を、買ったジャッジマンが請け負うってことか」
「あなたはつくづく鋭いです」
誰でもそうだろうが、褒め言葉に男は悪い気がしないようだ。
「どうやってジャッジするんだ?」
「本は読むものです。一冊の書籍には、一人の人間の生涯が細かく記載されています。それをじっくりと、隅々まで漏らすことなく読み、転生先を決めます」
「うわあ」
「読書はなさらないタイプでしょう」
「お。よくわかったな」
これは褒め言葉ではないのだが、なぜか男は嬉しそうに歯を見せる。
「そんな雰囲気です」
「一行読んだら、寝落ちできる自信があるぜ」
「いばって言うことではありません」
「子供の頃は、読書感想文が死ぬほど嫌いでなー。なんたって、長い文章を読むことが苦痛なんだから」
「お察しします」本当は察していない。
「それなのに、長い休みになると、決まって宿題にあるんだよな。読書感想文。毎回、本のあとがきを丸々写してたわ」
「あなたがジャッジマンだったらと考えると、恐ろしいです」
「褒めるなって」
「ええ、先程からまったく褒めていません」
そこでまた、男がよろめき、片手を地面についた。
住宅地を抜けて、左手には滑り台と鉄棒があるだけの、小さな児童公園がある。もちろん、平日のこの時間に遊んでいる子供も、それを微笑ましく見守る親の姿もない。
「大丈夫ですか?」
実は褒められていなかったことに、ショックを受けたわけではあるまい。
「平気だっつうの。気にしなくていいから、続けろって」
男は手のひらについた砂の粒を払い、笑顔を見せるが、明らかに無理している。
本音を止められなかった。
「なぜ、そこまでして」
「俺だってな、たまには根性見せたい時があるんだよ」
「諦めがいいと言われているからですか」
「まあな」
「それはどなたに?」
「奥さん」
男はそばの電柱に手を添えながら、なんとか立ち上がった。こちらを見て、顔をしかめる。
「なに、目ぇひんむいてるんだよ。そんな変顔している暇があったら、手を貸せって」
「あなたの奥様ですか?」
「なんで俺がよその奥さんに、悪態つかれないとならないんだ」
ありえなくもない、とは言わないでおく。
「失礼いたしました。ご結婚なさっているとは、夢にも思いませんでしたもので」
「謝ってるけど、それ、充分失礼にあたってるからな」
本部からの情報通りなら、いや、そこに間違いがあっては困るのだけども、男の年齢は、とうに家庭を持っていても確かにおかしくない。
外見だってハンサムの部類だが、ただ男の性格は、人間ではない者からしても、とっつきやすいとは思えなかった。相手をけむにまく言動にしても、はっきり言って女性から好かれるタイプとは思いづらい。
「まぁ、昆虫でさえまれに、変わった趣味嗜好を持つものがいると言いますからね」
「すげえ迂回して、とんでもねえ方角から俺をディスるのやめろ」
「天使って本当にいるのか!」
「天使という呼び名は、あなたがたが名付けたものですけどね」
「え、そうなの?」
「便宜上、お借りしているのです。彼らははるか以前から天界に存在され、階級は我々よりずっと上です。我々が彼らをひとくくりに呼ぶなど、本来は失礼にあたります」
「ほお」
「ただ、あなたがたがよくご存知の、大きな白い翼を持った姿であることは本当です」
「頭に輪っかがあって?」
「それはフィクションですね」
「なんだ。がっかりだな」
「ジャッジマンである天使の仕事には、我々が運んでくる書籍が欠かせません」
「そうか。人間の魂が本になるんなら、買った本の人間の転生を、買ったジャッジマンが請け負うってことか」
「あなたはつくづく鋭いです」
誰でもそうだろうが、褒め言葉に男は悪い気がしないようだ。
「どうやってジャッジするんだ?」
「本は読むものです。一冊の書籍には、一人の人間の生涯が細かく記載されています。それをじっくりと、隅々まで漏らすことなく読み、転生先を決めます」
「うわあ」
「読書はなさらないタイプでしょう」
「お。よくわかったな」
これは褒め言葉ではないのだが、なぜか男は嬉しそうに歯を見せる。
「そんな雰囲気です」
「一行読んだら、寝落ちできる自信があるぜ」
「いばって言うことではありません」
「子供の頃は、読書感想文が死ぬほど嫌いでなー。なんたって、長い文章を読むことが苦痛なんだから」
「お察しします」本当は察していない。
「それなのに、長い休みになると、決まって宿題にあるんだよな。読書感想文。毎回、本のあとがきを丸々写してたわ」
「あなたがジャッジマンだったらと考えると、恐ろしいです」
「褒めるなって」
「ええ、先程からまったく褒めていません」
そこでまた、男がよろめき、片手を地面についた。
住宅地を抜けて、左手には滑り台と鉄棒があるだけの、小さな児童公園がある。もちろん、平日のこの時間に遊んでいる子供も、それを微笑ましく見守る親の姿もない。
「大丈夫ですか?」
実は褒められていなかったことに、ショックを受けたわけではあるまい。
「平気だっつうの。気にしなくていいから、続けろって」
男は手のひらについた砂の粒を払い、笑顔を見せるが、明らかに無理している。
本音を止められなかった。
「なぜ、そこまでして」
「俺だってな、たまには根性見せたい時があるんだよ」
「諦めがいいと言われているからですか」
「まあな」
「それはどなたに?」
「奥さん」
男はそばの電柱に手を添えながら、なんとか立ち上がった。こちらを見て、顔をしかめる。
「なに、目ぇひんむいてるんだよ。そんな変顔している暇があったら、手を貸せって」
「あなたの奥様ですか?」
「なんで俺がよその奥さんに、悪態つかれないとならないんだ」
ありえなくもない、とは言わないでおく。
「失礼いたしました。ご結婚なさっているとは、夢にも思いませんでしたもので」
「謝ってるけど、それ、充分失礼にあたってるからな」
本部からの情報通りなら、いや、そこに間違いがあっては困るのだけども、男の年齢は、とうに家庭を持っていても確かにおかしくない。
外見だってハンサムの部類だが、ただ男の性格は、人間ではない者からしても、とっつきやすいとは思えなかった。相手をけむにまく言動にしても、はっきり言って女性から好かれるタイプとは思いづらい。
「まぁ、昆虫でさえまれに、変わった趣味嗜好を持つものがいると言いますからね」
「すげえ迂回して、とんでもねえ方角から俺をディスるのやめろ」
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