3 / 46
【企業舎弟の遥かな野望】-3(過去)
しおりを挟む
(第3話)「過去」
柿山が用意した中区伏見のアパートは2kの間取りで、必要最低限の電化製品は既に揃っていた。もっとも橙子にしてみれば眠るためのベッドさえあれば良いと言う考えなので、どうでもいいことだったのだが、柿山の細かい気配りに少し驚いた。
さっそく柿山から渡されたCDを開いてみた。小野田の写真が何枚か保存されている。全て秘撮りのようで、望遠レンズで撮られたものと思われるアングルのものばかりだった。添付されているファイルの中の小野田の項目をめくってみると、身長178cm、75kg と均整の取れたスペックで、面相はしょうゆ顔のイケメンである。
ーーー(ほぉ、、、)
一見すれば品の良い若手実業家という印象であるが、橙子は職業柄その切れ長の目の奥に隠されたこの男の過去の複雑さを直感で感じていた。38歳という年齢にしては、初対面の人間を威圧する気配の大きさが感じ取れた。
柿山が自分の足で稼いで来たのであろう、小野田の出生の情報が興味深かった。
出生地:京都府京都市
父 小野田順次(健斗3歳の時失踪、金沢市内料亭で板前)
母 希和子(現在も京都市内で飲食店経営 65歳)
母親の希和子は元は京都祇園の売れっ子芸妓であったが、小野田順次の子を孕んだのを知り廃業し京都から姿を消すも三年後京都に戻り祇園のお茶屋相手に仕出し屋を開業ーーーと、柿山が得た情報が手書きで書かれていた。
橙子は父親の順次の失踪に何か引っ掛かるものを感じ、順次に関する調査報告が他にないか頁をめくるが、何ひとつ書かれていなかった。
ーーー(小野田順次、、、何者なの?)
祇園の売れっ子芸妓を孕ませたというなら、相手もそれ相応の人物だと普通に察しがつく。京都の老舗の旦那なのかそれとも、大物財界人なのか。
ーーー(いや、待てよ、、、売れっ子芸妓だったなら、他に贔屓筋が居たのかもしれない)
柿山に電話して問い合わせた。
ーーーねぇー、父親の順次の情報って、これだけなの?
柿山は電話を受けるなりいきなり詰問されたのが面白くなかったのか、仏頂な声音で応えた
ーーーああ、それだけだよ。出処は石川県の能登だ、金沢の料亭で板前をしてたって情報はあるが特に際立った経歴は見当たらねぇーな。希和子との接点が浮かんでこねぇー、なんせ相手は祇園の売れっ子芸妓だ、普通の稼ぎじゃ遊べる相手じゃない。ただ、、、
柿山が電話の向こうで押し黙った
ーーーただ、なにっ?
ーーーいや、こっから先は、俺の邪推みたいなもんなだけどね、身代わり、だったんじゃねーかと。
柿山のその推理を要約すれば、小野田健斗の実の父親は小野田順次ではなく、他に居るのだが故あって表には出れず、順次を”身代わりに”戸籍上の父親”にさせた、、、ということである。
ーーー身代わり?、、、代理の父親?、、、じゃぁ、本当の父親は誰なのよ?
ーーー希和子、つまり小野田健斗の母親の芸妓時代のパトロンとされていたのがだな、、、
【共生会】三代目会長、岩田耕造だった、っていうのは、公然の秘密なんだよ。
【共生会】は、名古屋を本拠とする、広域指定暴力団【大川組】直系直参の暴力団であった。その会長、岩田耕三は、昔でいうところの”任侠道”を地で行くような、昔気質なやくざ、であった。
子分、若いもんの面倒見も良く、愛知県警の4課ですら一目を置く親分であったらしい。
だが、‘92年の「暴力団対策法」に始まる様々な暴力団壊滅の為の法律で、次第に昔ながらのしのぎだけでは暴力団も食えなくなり、とどめは2012年施行の改正法で、かなりの暴力団組織が廃業や解散に追い込まれたのだった。
【共生会】の岩田耕三は、2013年に「解散届」を県警に出そうとしたが、本家筋の【大川組】は若頭の篠田瑛一を四代目に立て解散を阻止したが、岩田はそのまま廃業引退をしたのである。
ーーーで、岩田は今、どこに?
ーーー京都だよ。嵯峨野で優雅に隠居生活らしい。
橙子は、柿山の邪推が真実のように思えて来た。
ーーー(小野田健斗は、岩田耕三の息子、、、)
橙子はもう一度小野田健斗の写真を見た。仕立てのいいスーツに身を包み自信に満ち溢れた表情で橙子を見返している。
ーーー(この男の体には極道の血が流れている、、、)
橙子の身体の一部が微かに痺れた。
(第3話 了)
柿山が用意した中区伏見のアパートは2kの間取りで、必要最低限の電化製品は既に揃っていた。もっとも橙子にしてみれば眠るためのベッドさえあれば良いと言う考えなので、どうでもいいことだったのだが、柿山の細かい気配りに少し驚いた。
さっそく柿山から渡されたCDを開いてみた。小野田の写真が何枚か保存されている。全て秘撮りのようで、望遠レンズで撮られたものと思われるアングルのものばかりだった。添付されているファイルの中の小野田の項目をめくってみると、身長178cm、75kg と均整の取れたスペックで、面相はしょうゆ顔のイケメンである。
ーーー(ほぉ、、、)
一見すれば品の良い若手実業家という印象であるが、橙子は職業柄その切れ長の目の奥に隠されたこの男の過去の複雑さを直感で感じていた。38歳という年齢にしては、初対面の人間を威圧する気配の大きさが感じ取れた。
柿山が自分の足で稼いで来たのであろう、小野田の出生の情報が興味深かった。
出生地:京都府京都市
父 小野田順次(健斗3歳の時失踪、金沢市内料亭で板前)
母 希和子(現在も京都市内で飲食店経営 65歳)
母親の希和子は元は京都祇園の売れっ子芸妓であったが、小野田順次の子を孕んだのを知り廃業し京都から姿を消すも三年後京都に戻り祇園のお茶屋相手に仕出し屋を開業ーーーと、柿山が得た情報が手書きで書かれていた。
橙子は父親の順次の失踪に何か引っ掛かるものを感じ、順次に関する調査報告が他にないか頁をめくるが、何ひとつ書かれていなかった。
ーーー(小野田順次、、、何者なの?)
祇園の売れっ子芸妓を孕ませたというなら、相手もそれ相応の人物だと普通に察しがつく。京都の老舗の旦那なのかそれとも、大物財界人なのか。
ーーー(いや、待てよ、、、売れっ子芸妓だったなら、他に贔屓筋が居たのかもしれない)
柿山に電話して問い合わせた。
ーーーねぇー、父親の順次の情報って、これだけなの?
柿山は電話を受けるなりいきなり詰問されたのが面白くなかったのか、仏頂な声音で応えた
ーーーああ、それだけだよ。出処は石川県の能登だ、金沢の料亭で板前をしてたって情報はあるが特に際立った経歴は見当たらねぇーな。希和子との接点が浮かんでこねぇー、なんせ相手は祇園の売れっ子芸妓だ、普通の稼ぎじゃ遊べる相手じゃない。ただ、、、
柿山が電話の向こうで押し黙った
ーーーただ、なにっ?
ーーーいや、こっから先は、俺の邪推みたいなもんなだけどね、身代わり、だったんじゃねーかと。
柿山のその推理を要約すれば、小野田健斗の実の父親は小野田順次ではなく、他に居るのだが故あって表には出れず、順次を”身代わりに”戸籍上の父親”にさせた、、、ということである。
ーーー身代わり?、、、代理の父親?、、、じゃぁ、本当の父親は誰なのよ?
ーーー希和子、つまり小野田健斗の母親の芸妓時代のパトロンとされていたのがだな、、、
【共生会】三代目会長、岩田耕造だった、っていうのは、公然の秘密なんだよ。
【共生会】は、名古屋を本拠とする、広域指定暴力団【大川組】直系直参の暴力団であった。その会長、岩田耕三は、昔でいうところの”任侠道”を地で行くような、昔気質なやくざ、であった。
子分、若いもんの面倒見も良く、愛知県警の4課ですら一目を置く親分であったらしい。
だが、‘92年の「暴力団対策法」に始まる様々な暴力団壊滅の為の法律で、次第に昔ながらのしのぎだけでは暴力団も食えなくなり、とどめは2012年施行の改正法で、かなりの暴力団組織が廃業や解散に追い込まれたのだった。
【共生会】の岩田耕三は、2013年に「解散届」を県警に出そうとしたが、本家筋の【大川組】は若頭の篠田瑛一を四代目に立て解散を阻止したが、岩田はそのまま廃業引退をしたのである。
ーーーで、岩田は今、どこに?
ーーー京都だよ。嵯峨野で優雅に隠居生活らしい。
橙子は、柿山の邪推が真実のように思えて来た。
ーーー(小野田健斗は、岩田耕三の息子、、、)
橙子はもう一度小野田健斗の写真を見た。仕立てのいいスーツに身を包み自信に満ち溢れた表情で橙子を見返している。
ーーー(この男の体には極道の血が流れている、、、)
橙子の身体の一部が微かに痺れた。
(第3話 了)
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる