【 企業舎弟の遥かな野望 】

千葉七星

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【企業舎弟の遥かな野望】-6(爪痕)

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 (第六話)ー「爪痕」

 小野田はしばし、目を閉じ考え込んでいる。

その間他の役員はじっと小野田が口を開くのを待っていた。既に陽は暮れかけていて背の高い銀杏の樹の影がアスファルトに長い尾を引いている。

 小野田が腕組みを解いて口を開いた。

ーーー滝川、「検察」の捜査の進み具合の情報を取ってくれ、、、捜査指揮している検事の名前もだ
それから、役員は以後この件に関しては口頭のみの連絡だ、携帯やメールは一切使うな。
   あぁーーー、あと掃除だっ、役員室全部のもさせてくれ

 、それは盗聴器やハッキングなどの痕跡がないか調べることのである。

ーーー承知しました

 滝川は小野田の視線に対峙して応えた。

 この男、滝川一正は小野田がネットビジネスに乗り出した頃にやって来た人間で、当時としてはかなりその業界に精通していて、音楽映像コンテンツのDLダウンロード販売や「ネットオークション」というビジネスモデルを確立させた男である。元々は大手ソフト開発会社のSEであったらしいが、コンピューターシステムにも詳しく、その配下にハッカー部隊を抱えていることは、小野田しか知らない。

 小野田は、「情報」の価値の信奉者である。「正確で有益な情報」が金を産むというのが彼のビジネス理論である。
 必然、滝川のスキルは重用された。

ーーー明石、徹底的に金の流れを洗い直せっ、すぐにだ! 後で、木下に報告に来させろ。

 小野田の勢いに押され明石は静かに頷き早々に役員室を出て行った。明石は小野田の緊迫に満ちた声音を初めて聴いた気がし、長い廊下を足早にエレベーターへと歩いた。

 小野田はゆっくり席を立ち、背を向けズボンのポケットに両の手を突っ込んでまた深く考え込み始めた。
 他の役員はその背中の空気を読み、一人、二人と部屋を後にした。

 真咲だけが一人部屋に残り小野田の背中を眺めていた。
そこには自分が昨夜に付けた爪の跡はもう消えているに違いない。自分の身体にはまだ痺れさえも残っているというのに、今、この男の身体のどこにもその痕跡はなく、激しい欲望の火もとっくに鎮み消えていて、独り彼方を見るこの男の視線に自分が割って入る隙などない。

ーーー(このひとの背中の傷に何人の女が触れたのだろう)

 真咲はその感触の残る指が冷たくヒリヒリするのを感じて、静かに部屋を出た。
 
                      (第六話ー了)
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