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「企業舎弟の遥かな野望」ー28(告発)
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第二十八話ー「告発」
橙子は、夕暮れ時の「栄」の街を急ぎ足で歩いている。
時折、尾行の気配がないか、背後を気にしながら繁華街の中に姿を隠すように小野田から告げられた店を目指していた。
あの夜、電話を切る間際に「埋め合わせ」と言って健斗に焼肉をご馳走して欲しいと強請ったのは橙子だった。
店の構えは「完全予約制」とあって、こじんまりしていて、注意して探さなければ通り過ぎてしまうような小さな行灯が軒下に設えてあるだけの店だった。
小野田は先に来てすでに突き出しをアテにビールを飲んでいた。
ーーーごめんなさい、待った、、、、よね?
約束の時間から15分が過ぎていた。
ーーーあぁ、いい女は何時間でも待つ主義でね。
ーーー相変わらず、クサイ台詞言うねー
健斗の口元から白い歯がこぼれ、笑った目尻の皺が色っぽくてジンと来た。
ーーーあの夜は、えらく怒ってたねー 正直、母親に怒られるより怖かったよ。
ーーーそう、やんちゃ坊主を諭す母親の気分だったわ。
ーーーベッドで優しく諭してくれたら、はいはい、って聞くのに。
この男は、何を話しても女をものにする台詞しか出てこないのか?と思いながらも橙子もそれを楽しんでいる。
ーーー頭ナデナデ、してあげたら、おとなしく寝るの?
ーーーったく、、オマエと喋ってるとムカつくけど、、、面白い、いや、、、
ーーーん?
丁度、仲居が皿いっぱいの「飛騨牛」を運んで来た。
ーーー 焼きましょうか?それとも、お任せでいいですか?
中居が橙子と健斗の顔を交互に伺って、聞いている。
ーーーあ、やります。ありがとう
橙子が中居のサービスを丁寧に辞するのを健斗は満足げに見ていた。
ーーーどうだ? 取材対象者に接待してもらう気分は。
健斗は先ほどの話をわざと腰折るように、橙子に聞く。
ーーーアナタは? さっきの話、ほら”面白い”、の続き、聞かせてよ
健斗は見事な霜降りの「飛騨牛」カルビを網の上に二枚、三枚と乗せながら考えていた。
ーーー(なぜか、この女と喋っているといつもと勝手が違うんだよな、、、)
橙子は両肘ついて手の平に顎を乗せて待っている。
それは、「ねぇーねぇー、早く」と健斗に催促するポーズだ。
健斗は、頃合に焼けた”飛騨牛”を橙子の手塩にヒョイと投げ込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーー
しこたま食べて飲んでぷっくりした腹を二人して押さえながら店を出た。
夜の女たちが媚びた笑みを通りすがるサラリーマンに投げ品を作って客引きをしている。二人は雑踏を避け、脇道から地下鉄「栄」を目指してゆっくり歩いた。
橙子は身体半分、酔いに浸透されてはいたが、自分たちを尾行してくる二つの影の存在には気づいていた。
駅近くまで来た時、ビルの上に設えられた大型スクリーンに、月刊『文秋』の特ダネ記事の一部が流れていた。
【政府与党大物議員Aと鹿島急便との黒い関係、内部告発で明るみに!?】
小野田は、踵を止めそれに見入っていた。
その背中越しに、橙子と二つの影の視線もそこにクギつけとなっていた。
橙子はこれが健斗との「最後の晩餐」となるとは、この時知る由もなかった。
(第二十八話ー了)
橙子は、夕暮れ時の「栄」の街を急ぎ足で歩いている。
時折、尾行の気配がないか、背後を気にしながら繁華街の中に姿を隠すように小野田から告げられた店を目指していた。
あの夜、電話を切る間際に「埋め合わせ」と言って健斗に焼肉をご馳走して欲しいと強請ったのは橙子だった。
店の構えは「完全予約制」とあって、こじんまりしていて、注意して探さなければ通り過ぎてしまうような小さな行灯が軒下に設えてあるだけの店だった。
小野田は先に来てすでに突き出しをアテにビールを飲んでいた。
ーーーごめんなさい、待った、、、、よね?
約束の時間から15分が過ぎていた。
ーーーあぁ、いい女は何時間でも待つ主義でね。
ーーー相変わらず、クサイ台詞言うねー
健斗の口元から白い歯がこぼれ、笑った目尻の皺が色っぽくてジンと来た。
ーーーあの夜は、えらく怒ってたねー 正直、母親に怒られるより怖かったよ。
ーーーそう、やんちゃ坊主を諭す母親の気分だったわ。
ーーーベッドで優しく諭してくれたら、はいはい、って聞くのに。
この男は、何を話しても女をものにする台詞しか出てこないのか?と思いながらも橙子もそれを楽しんでいる。
ーーー頭ナデナデ、してあげたら、おとなしく寝るの?
ーーーったく、、オマエと喋ってるとムカつくけど、、、面白い、いや、、、
ーーーん?
丁度、仲居が皿いっぱいの「飛騨牛」を運んで来た。
ーーー 焼きましょうか?それとも、お任せでいいですか?
中居が橙子と健斗の顔を交互に伺って、聞いている。
ーーーあ、やります。ありがとう
橙子が中居のサービスを丁寧に辞するのを健斗は満足げに見ていた。
ーーーどうだ? 取材対象者に接待してもらう気分は。
健斗は先ほどの話をわざと腰折るように、橙子に聞く。
ーーーアナタは? さっきの話、ほら”面白い”、の続き、聞かせてよ
健斗は見事な霜降りの「飛騨牛」カルビを網の上に二枚、三枚と乗せながら考えていた。
ーーー(なぜか、この女と喋っているといつもと勝手が違うんだよな、、、)
橙子は両肘ついて手の平に顎を乗せて待っている。
それは、「ねぇーねぇー、早く」と健斗に催促するポーズだ。
健斗は、頃合に焼けた”飛騨牛”を橙子の手塩にヒョイと投げ込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーー
しこたま食べて飲んでぷっくりした腹を二人して押さえながら店を出た。
夜の女たちが媚びた笑みを通りすがるサラリーマンに投げ品を作って客引きをしている。二人は雑踏を避け、脇道から地下鉄「栄」を目指してゆっくり歩いた。
橙子は身体半分、酔いに浸透されてはいたが、自分たちを尾行してくる二つの影の存在には気づいていた。
駅近くまで来た時、ビルの上に設えられた大型スクリーンに、月刊『文秋』の特ダネ記事の一部が流れていた。
【政府与党大物議員Aと鹿島急便との黒い関係、内部告発で明るみに!?】
小野田は、踵を止めそれに見入っていた。
その背中越しに、橙子と二つの影の視線もそこにクギつけとなっていた。
橙子はこれが健斗との「最後の晩餐」となるとは、この時知る由もなかった。
(第二十八話ー了)
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