【 企業舎弟の遥かな野望 】

千葉七星

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「企業舎弟の遥かな野望」ー33(保釈)

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 第三十三話ー「保釈」

 小野田は、冷込む拘置所で疲れきった身体と荒み折れた精神を薄い毛布で包み無表情なコンクリートの壁を見つめていた。

ーーー(なんでなんだ? 明石......)

 絶大な信頼を置いていた明石に裏切られたことが、どうしても信じられず何度もその言葉を繰り返していた。

 すでに、検察官の取調べが始まって18日が過ぎていた。
 今日も、朝の8時から深夜2時まで、ほとんどの休憩も取らせてもらえない状態で延々と続く取調べに小野田は一貫して黙秘を通していた。

 しかし、もうかなり限界に来ていた。検察官は甘い言葉で「司法取引」めいたことをチラつかせては、自白調書へのサインを求めてくる。
 そんな小野田をかろうじて支えているのは、此処を出たなら真っ先に明石に会って、なぜに裏切ったのか問いただし、やつの顎に一発の拳を見舞ってやりたいという一心からだった。

 そしてついに拘留期限の20日間を小野田は耐え抜いた。検察官は物証も明石の自白調書もあるので、立件は充分可能と見て小野田を「贈賄容疑」で起訴した。長い裁判の始まりだった。

 裁判所には2000万円の保釈金を積めば、ここを出られる。

小野田は、弁護士を呼び「保釈請求」の手続きをさせた。身元引受人は京都の母親であった。
 小野田の母、希和子は何度か拘置所に面談と差し入れをしてくれた。そして息子が本当に罪を犯したのかではなく

ーーーおかーはんは、ちゃんと健ちゃん信じてるし

 小野田はこの言葉を励みに頑張れたが、それより年老いた母親に心配をかけることに胸が痛み深夜、何度か涙した。

        ーーーーーーーーーーーー


 母親が差し入れてくれたワイシャツに袖を通し、ネクタイはせず背広を羽織った。二十日ぶりの「娑婆の空気」が胸に沁みた。
 十二月になったばかりだが、初冬の風は小野田の疲れ切った背中を丸めた。

 小野田は、マンションに帰り熱いシャワーを浴びビールを飲んだ。五臓六腑に沁みる、とはこのことかと思った。
 テレビのスイッチを入れ、ソファーに腰を深く沈め目を閉じた。一気に酔いが回り眠気が襲ってきた。小野田は微睡みの中、その奥へと沈んで行った。

        ーーーーーーーーーーーーー

『ここで、今入りましたニュースを申し上げます。今朝午前6時過ぎ、緑区の路上で人が刺され死亡しているのを、通りがかった住人が発見し、110通報しました。遺体の身元は所持していた免許書から、緑区に住む 「明石吾郎」さんと判明し、警察は傷害致死事件として捜査を始めました。以上です......』

 このニュースを小野田が知ったのは、その日の夕刻であった。

              (第三十三話-了)
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