【 企業舎弟の遥かな野望 】

千葉七星

文字の大きさ
38 / 46

「企業舎弟の遥かな野望」ー37 (信頼)

しおりを挟む
第三十七話ー「信頼」

 橙子は、治療室の天井を見ながら、つい1時間ほど前に起こったことを思い出していた。自分の腕の中で息絶えたように身動き一つしない小野田を救急車に乗せて救急病院に搬送したものの、出血が激しく、折り悪くも「輸血用血液」のストックが少なくて、一時は瀕死の状態に陥った。
 
 小野田の血液型はA型であることを聞かされ、迷わず自分の血を取ってくれと懇願した。そして今も一本の輸血用のチューブで繋がれている。刺し傷は、心臓のほんの手前まで達していた。

 知らせを受けた県警の捜査一課の刑事が病室の表で「事情聴取」出来るのを待っているが、まだ小野田の意識は戻っていない。
 自分の上着にべっとりと着いた小野田の血が黒く固まり事件の悲惨さを思い起こさせた。

 ーーーデカの亜希さん......

 橙子は蚊の鳴くような声の所在に目を向けると、小野田がつたなく目を開き自分に話しかけているのがわかり、穏やかな声音で応じた。

 ーーー大丈夫よ、ちょっと出血が多かっただけだから
 ーーー表に刑事が居るんだろ?
 ーーーたぶんね。

 小野田は、身の回りを探るように視線をぐるぐる部屋の中にめぐらせ

 ーーー俺の着ていた背広に財布が入っていたはずだ、それとKeyケースも。
    それを探してくれ。
 
 橙子は簡易ベッドから立ち上がり、小野田の所持品が収められたビニール袋を見つけ、それを小野田に見せた。

 ーーー財布の中にメモリーチップが入っている、それと、keyケースの中に付いてる一番小さな鍵、それは三友銀行の「栄支店」の貸金庫の鍵だ......うっ、ぁ、、

 小野田は背中の傷の痛みを堪えきれず、顔をしかめた。

 ーーーもういい、後で聞くから
 ーーーだめだ、表のデカに気づかれる前......に、っ

 橙子は何か重要なメッセージがあるのだろうと翻意し小野田の言葉を待った。

 ーーー貸金庫にもUSBメモリーが一個入ってる。このメモリーチップとそれををアンタに預けたい......どうするかは任せる

 さらに小野田は腹に力を入れて続けた。

  ーーー俺と明石を襲った奴らは同じ人間からの指示だろう、だいたい察しはつく。俺を殺らなきゃ、困るやつ......そんな奴は一人しかいない.......

 橙子は高度な「機密情報」がその二つに隠されているんだろうと瞬時に察したが、すぐに刑事の顔に戻って小野田に応えた。

 ーーーもう、バレてると思うけど、私は「警察庁」所属のよ?その私に預けるっていうことは、全て明るみ出るということよ、分かってるの?

 ーーーああ、分かってる。けどな、中身を見れば、アンタも納得するはずだ、俺が、いつだったかアンタに青臭い「正義」を語った理由......が、、、うううぁ、、っ 

 また、小野田は顔をシカメた。

 ーーー分かったから、もう喋らないで、、、
 ーーーデカの亜希さんでも、ライターの亜希さんでもいい......
とにかく、任せる......

 小野田は、弱り切った身体に残るわずかな気力で橙子に託し終えると、穏やかな表情に戻り、何も語らなくなった。

 ーーー小野田っ!

 橙子の声に気がついた看護師が慌てて駆け寄って来た。



   第三十七話「信頼」ー了

  
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...