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第3章 学園に通おう

64話 公認

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 軽く拗ねちゃったユニさんをみんなで慌てて宥めた。

 ついついユニさんは常に一緒にいるものとして考えてしまっていた。

 ユニさんと一緒に通勤する妄想とかまでしてたけど、職場がユニさんちなんだからそりゃユニさんは屋敷にいることになるよな。

「はっ!?
 もしかして、私をハルから引き離すのがミゲルの狙いじゃないでしょうねっ!?」

「いやいや、ユニさん、それはいくら何でも邪推がすぎるよ」

 ねぇ?ミゲルくん?

「ちょっと、僕の目を見て話をしようか?ミゲル?」

 僕から目をそらし続けるミゲルくん。

 なんか冷や汗も出ている気がする。

 ミゲルくんっ!?

「ハル……恋する男子はいつまでも天使ではいられないんですよ……」

 ユニさんもなに言ってるのっ!?

「まあ、それならそれでいいですよ。
 恋の鞘当て……いえ、恋の寝首の掻きあいは望むところです」

 なんか楽しそうに不穏なことを言うユニさん。

「いつでもかかってくるがいいでしょう。
 その際には私は『ハルだけお泊りの日』とか当主権限で作ってやります」

「くっ……」

 悪い貴族の見本みたいな笑顔を見せるユニさんと悔しがるミゲルくん。

 ……まあ、2人とも楽しそうだからほっとこう。

「はーい、他に案ある人いますかー」

 バチバチと火花をちらしている2人はほっといて会議を進めよう。

「はいっ!」

「はい、モレスくん」

 手を上げたモレスくんを指名するけど、ミゲルくんの案は家臣4人衆みんなの案じゃなかったのかな?

 4人で相談していたように見えたけど。

 ムーサくんもメファートくんもちょっと不思議そうな顔でモレスくんを見ている。

「当ルバッハ商会は主さまが爵位を返上なされた際は渉外担当としてお招きする用意があります」

 モレスくんの言葉を聞いた家臣4人衆-1がざわめき出す。

 ユニさんも意外そうな顔でモレスくんを見ている。

 他の子達はそんなみんなを楽しそうに見てる。

「さらに、もし現状から変わりなく男爵様で有り続けるのでしたら、御用商人として名乗り出るつもりです」

「ど、どちらにせよ家族ぐるみのお付き合いだとっ!?
 裏切ったなっ!モレスくんっ!」

 恐れおののいた声を上げるミゲルくん。

 なんか楽しそうだね、君たち。

「これはまた露骨に囲い込みに来ましたねぇ。
 商会長……お父様やお兄様方はこの件はご存知で?」

「主さまについてはまだ表向きには出来ないので、具体的な話はできていませんが内々での打診の感触はいいです。
 説得できる自信はあります」

 まだ僕の名前とか立場とかは出していないってことかな?

 それだと、モレスくんの見込み通りに行くかどうか……。

 僕ごときが言うのもなんだけど、大人の世界は厳しいだろうからなぁ。

「……あの……その……」

 とか考えてたら、堂々と発表していたモレスくんがなんかモジモジしだした。

 トイレ?

「そ、その人はボクの好きな人だって伝えたら2つ返事でオッケーくれました」

「「「親公認だとっ!!??」」」

 モレスくんの爆弾発言に目をむいて驚く4人衆-1。

 ユニさんやヴィンターさん、ツヴァイくんたちもちょっと驚いた顔している。

 そんな事言ってる僕自身も驚いた。

「あ、いえ……まだ主さまのことは、その、男の人だということも含めてなにも言っていないので公認とは……」

 照れたように笑うモレスくん。

 頬が赤くなっているモレスくんは、上目使いで僕を見るとちょっと不安そうな表情で口を開いた。

「あの、主さま、おと……父が、今度ご挨拶したいというのですが、お時間いただけないでしょうか?
 あ、もちろん、きちんと説明したあとの話ですし、色々落ち着いて表に出られるようになってからでかまいませんっ!」

「う、うん、ぜひともご挨拶させてもらいたいです……」

 なんか、初めてのご家族ご挨拶の予約をしてしまった。

 まだ日取りもなにも決まってないのにすごい緊張する……。

 なんかモレスくんは4人衆-1にぽかぽか叩かれているけど、嬉しそうだ。

「これは流石にちょっと驚きましたね。
 まあ、この話はまた後で細かくしてもらうとして、ハルの待遇について細かい事は決まっていますか?」

 気を取り直したユニさんが、浮ついた話はとりあえずおいておいて実務的な話を聞く。

「いえ、先程の話通り主さまの詳細についてはなにも話せていないので、具体的な話はできていません。
 ただ、渉外担当として部下が必要になりますのでそこにボクを含めてみんなを押し込むつもりです」

 なるほど。

 今までの使用人の仕事とは違うけど、みんな優秀だし若くて順応力はあるし問題はない気がする。

 問題は僕だけど……これはとにかく頑張るしかないな。

 まあ、お仕事なんてなにをやるにしても不安しかないんだからとにかく頑張ろう。

 だけど……。

「……あの、それだと私がまた一人に……」

 それなんだよねー。

 僕が一般人になる案はこの世界に馴染みやすくなるし、僕の気も楽になるけどどうしてもユニさんと離ればなれになる。

 それは正直嫌だなぁ。

「それについては、主さまの第一の担当をモノケロス子爵にすることを考えています。
 それでしたら毎日通っても不思議ではありませんし、泊まりで『交渉』することもあるでしょう」

 ん?モレスくんの話を聞いてイヴァンさんの雰囲気が少し変わったぞ?

 表情もなにも変化はないけど、これだけ長い間お世話になっているとイヴァンさんの様子の変化も少しは分かるようになってくる。

「これは露骨な枕営業ですね。
 とは言え有効なのは認めますし、それなら『恋人』としての私も不満はありません」

 苦笑いを浮かべるユニさん。

 そして、イヴァンさんを振り返る。

 あ、やっぱりユニさんも気づいてるよね。

「まあ、その際のうちの担当は残念ながら私ではなくイヴァンになると思いますから、その点は覚悟しておいてくださいね」

「その際にはお手柔らかにお願い致します。
 モレス・ルバッハ様」

 モレスくんに向かって頭を下げるイヴァンさんと、引きつった顔のモレスくん。

 もしモレスくんの描く未来になったら、モレスくんの胃がやられそう。
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