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第一話 栞のラブレター
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楽しげに天草さんと話す彼女から目を離し、カモミールティーのポットを開ける。黄色い花托と白い花びらがかわいらしい、たくさんの花が浮いている。小さな春が目の前にパッと咲いたみたい。
カップに注いで、ひと口飲む。優しい甘さと香りがほわっと口の中に広がる。疲れた心が癒やされていくみたい。
「古本は、ここにあるだけですか?」
レモンタルトを口に運ぼうとしたとき、ワンピースの彼女が、目の前の本棚を指差して言う。
これだけしかないの? と、彼女が驚くのも無理はない。背の高い食器棚ほどのサイズの本棚には、ぎっしり本がつまっているが、古本屋をうたうには量が少ないのだ。
「すべての本はお出ししていないので、お探しの本があれば、お調べしますよ」
天草さんはそう言いながら、カウンター後ろにあるノートパソコンを開く。パソコンで在庫確認できるみたい。アナログな父が古本のデータを残していたとは思えないから、彼がデータ管理できるように作成したのだろう。
「じゃあ、調べてもらおうかな」
「どうぞ」
「タイトルは自信がないんですけど、『空の鼓動』だったと思います。高校生の、陸上競技を舞台にした作品なんです。内容は……実は読んだことないのでわからないんですけど」
ワンピースの彼女はちょっと肩をすくめて、申し訳なさそうにする。
お目当ての本をインターネットで探すうちに、空の鼓動だった気がする、と思っただけで、実物を見てみないと、探してる本なのかどうかもわからないと彼女は説明した。
「そうなんですね。著者名はわかりますか?」
「それは覚えてます。私と同じ名前ですから」
「同じというと?」
「あっ、一緒なのは、下の名前だけ。柳井菜々子さんって方です。私は、漢数字の七を間に挟んだ、菜七子なんですけど」
「柳井菜々子さんの空の鼓動ですね。お調べしますので待っていてください」
菜七子さんの話に相づちを打ちながら、天草さんはキーボードを軽やかに叩く。
「10年前でもう、発売から5年ぐらい経ってたのかな。今は絶版になってるみたいで、どこを探しても在庫切れで見つからないんです」
本棚に目を向ける彼女につられて、沙代子もずらりと並ぶ本を眺めた。
雑誌や文庫本、絵本やビジネス書までさまざまある。規則正しく並んでないから、欲しいと決まっている本を探し出すのは大変かもしれない。
沙代子は宝探しを楽しむように、本棚を眺めた。
沙代子も昔は小説を読むのが好きだった。知ってる本が見つかるかもしれないと、文庫本を中心に一つ一つ見ていく。そうして、真ん中より下の段に見覚えのあるタイトルを見つけたとき、心の中で、あっ、と声をあげていた。
懐かしい。まだ父はこの本を持っていたのだ。
腕を伸ばしても届かない距離にある本棚へ、思わず手を出しかけたとき、隣の菜七子さんも「あっ」と声をあげた。
「柳井菜々子さんの本、ありましたっ。一番上の段に」
カップに注いで、ひと口飲む。優しい甘さと香りがほわっと口の中に広がる。疲れた心が癒やされていくみたい。
「古本は、ここにあるだけですか?」
レモンタルトを口に運ぼうとしたとき、ワンピースの彼女が、目の前の本棚を指差して言う。
これだけしかないの? と、彼女が驚くのも無理はない。背の高い食器棚ほどのサイズの本棚には、ぎっしり本がつまっているが、古本屋をうたうには量が少ないのだ。
「すべての本はお出ししていないので、お探しの本があれば、お調べしますよ」
天草さんはそう言いながら、カウンター後ろにあるノートパソコンを開く。パソコンで在庫確認できるみたい。アナログな父が古本のデータを残していたとは思えないから、彼がデータ管理できるように作成したのだろう。
「じゃあ、調べてもらおうかな」
「どうぞ」
「タイトルは自信がないんですけど、『空の鼓動』だったと思います。高校生の、陸上競技を舞台にした作品なんです。内容は……実は読んだことないのでわからないんですけど」
ワンピースの彼女はちょっと肩をすくめて、申し訳なさそうにする。
お目当ての本をインターネットで探すうちに、空の鼓動だった気がする、と思っただけで、実物を見てみないと、探してる本なのかどうかもわからないと彼女は説明した。
「そうなんですね。著者名はわかりますか?」
「それは覚えてます。私と同じ名前ですから」
「同じというと?」
「あっ、一緒なのは、下の名前だけ。柳井菜々子さんって方です。私は、漢数字の七を間に挟んだ、菜七子なんですけど」
「柳井菜々子さんの空の鼓動ですね。お調べしますので待っていてください」
菜七子さんの話に相づちを打ちながら、天草さんはキーボードを軽やかに叩く。
「10年前でもう、発売から5年ぐらい経ってたのかな。今は絶版になってるみたいで、どこを探しても在庫切れで見つからないんです」
本棚に目を向ける彼女につられて、沙代子もずらりと並ぶ本を眺めた。
雑誌や文庫本、絵本やビジネス書までさまざまある。規則正しく並んでないから、欲しいと決まっている本を探し出すのは大変かもしれない。
沙代子は宝探しを楽しむように、本棚を眺めた。
沙代子も昔は小説を読むのが好きだった。知ってる本が見つかるかもしれないと、文庫本を中心に一つ一つ見ていく。そうして、真ん中より下の段に見覚えのあるタイトルを見つけたとき、心の中で、あっ、と声をあげていた。
懐かしい。まだ父はこの本を持っていたのだ。
腕を伸ばしても届かない距離にある本棚へ、思わず手を出しかけたとき、隣の菜七子さんも「あっ」と声をあげた。
「柳井菜々子さんの本、ありましたっ。一番上の段に」
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