上 下
41 / 101
第二話 落ちこぼれ魔女の親友

14

しおりを挟む
 それから、みんなでベッドを取り囲むようにして、先生と会話を弾ませた。

 胃痛の原因ははっきりしないが、ストレスによって胃に穴が空いてしまったのだろうと言っていた。思うより、彼は繊細な人なのだろうと、京子はそのとき思った。

「検温の時間ですよ」

 ナース服の看護師さんが病室に姿を見せると、ようやく京子たちはベッドから離れた。

「みなさん、生徒さん?」

 明るい笑顔で、看護師さんは京子たちを眺めた。

 年の頃は京子たちとほとんど変わらないような若い女の人だったが、堂々とした態度としっかりとした口調が、彼女を大人びて見せていた。そして、京子にはない派手さを備えた美しい容姿に圧倒された。

「君たち、もう帰りなさい。これからカフェでお茶をするにはいい時間だ」

 水無月先生がそう言うと、「この近くにケーキのおいしいお店があるんだって。寄って帰ろー」と誰かが言った。みんなも、「いいね」と同調して、すぐに帰ろうという雰囲気になった。

 京子はまだ先生の側にいたかったが、みんながこぞって病室を出ていくから、しぶしぶついていった。去り際、未練がましく振り返ると、看護師さんが先生に体温計を渡していた。

「かわいらしい生徒さんたちですね」

 看護師さんがそう言うと、先生はほがらかに笑んで、彼女の顔を長々と見つめていた。その表情は決して大学では見せないような、一人の男のものだった。

 ああ。先生って、ああいう人がタイプなんだ。

 自分にはない魅力を持つ彼女に戦う前から敗北感を覚えた京子は、ケーキを前に盛り上がる友人たちから取り残されたような気分でその日を過ごした。



 それからひと月後、街へショッピングに出かけると、すっかり元気になった水無月先生を見かけた。

 カジュアルな服装に、さらさらの髪。大学にいるときとは全然違う彼を、最初は先生と気づかなかったが、前傾姿勢で上着のポケットに片手を突っ込んで歩く姿が特徴的で、やはり彼だと確信した。

 買い物を終えたばかりだった京子は、カフェへ入っていく先生を追った。あわよくば、デートみたいな時間が過ごせるんじゃないかと思っていた。

 しかし、京子の狙いはすぐに打ち砕かれた。水無月先生の背中に声をかけようとしたとき、彼は誰かに合図を送るように片手をあげたあと、店員を素通りしてさっさと奥へ入っていくのだ。

 先約がいるのだとがっかりしつつも、彼が誰と会っているのか興味があって、そのままカフェでお茶することにした。

 案内された席は、パーテーションで隔てられてはいたが、先生の隣の席だった。コーヒーを注文する頃には、京子は好奇心でここへ来たことを後悔していた。

 席に着く前、京子は先生と同席している女の人の顔を見てしまった。その女の人は、あの看護師さんだった。長い髪をおろしてはいたが、はっきりと整った面立ちに見覚えがあった。

「銀先生、あのお話どうなったの? ほら、入院中に話してくれた」
しおりを挟む

処理中です...